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ゆきばあの、あしあと  作者: 当麻月菜
チーズケーキを贈る代理人

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8

「ふふっ、なんだか……新しいお友達ができちゃったみたいだわ」


 微笑みながら、でも眉を下げて、こちらの様子を伺う節子の表情に既視感を覚える。


 一拍置いてわかった。入学式や、クラス替えの時、初めて隣同士になった同級生の顔だ。仲良くなりたい。でも、拒絶されたらどうしようという不安と期待が混ざった顔。


 50歳以上も年が離れた女性からそんな表情を受けて、羽咲は照れくさい。でも、素直に嬉しいとも思った。


「私も今日、新しい友達ができちゃったような気がします」


 羽咲がおどけた口調でそう言えば、節子はほんのり頬を染めて目を細めた。


「嬉しいわ。年を取ると、新しいお友達を作るより……見送ることの方が多くなってしまったから」


 祖母もまた、節子が見送った友達の一人なのだろう。その孫と友達になっても、気持ち的にプラマイゼロと割り切れないとは思う。


 でも、節子が嬉しそうにしてくれると、今日ここに来た理由が一つ増える。鬼門だったこの街に、幸せな記憶が一つ上書きされていく。


 祖母には、素敵な友達がいてくれた。そして、そんな人が自分の友達になってくれた。


 あー、良かった。ここに来て、良かった。そんな風に綺麗な部分だけを見て、終わりにしたい。


 でも、と羽咲はスカートの裾をギュッと握る。真実は、これだけではないはずだ。


「祖母をカラオケサークルに誘ってくれたのも、節子さんだって芳郎さんから教えてもらいました」

「ええ、そうなの。ゆきさんとは、何度か文化のみちでお会いして、それから揚輝荘とか、主税町教会とか一緒にお出かけして、カラオケサークルにもお誘いしたのよ。最初は、ゆきさんカラオケに抵抗あったみたいだけど、すぐに皆と仲良くなってくださって……ほんと楽しかったわ……」


 遠い目をする節子は、とても優しい顔をしている。しかし、すぐに寂しそうな表情になる。


「実はね、ゆきさんとは定期的に会ってたんだけど、今年の五月……ゴールデンウイークを過ぎた頃から急に会えなくなってしまって……もしかしてカラオケサークルで何か嫌なことでもあったのかしら?って心配してたの……」


 言い終えて節子が溜息を吐いた途端、大和が小さく息を吞む気配がした。


 羽咲は首をひねって、大和に「どうしたの?」と、尋ねようとした。でも、そうしなかった。なんとなく、わかってしまったから。


「……芳郎も糸沢さんもね、根はいい人なんだけど……デリカシーに欠けるところがあるあら、気を悪くされたんじゃないかって不安で。でも結局、真相はわからないまま。もうきっと知ることもできないのでしょうね……」


 節子の表情を言葉で表すなら、”遣る瀬無い”という表現がこれ以上ないほどピッタリ当てはまる。


 自分も、節子と同じ表情を何度も浮かべていたのだろうか。


「……あの、そ」


 そんな顔しないでください、と言いかけて、羽咲はその言葉を吞みこむ。これは、やめろと言われても、してしまう表情だ。


 だから羽咲は、違う言葉を紡ぐ。節子の心が、少しでも癒されるように。


「おばあちゃんは優しい人でしたけど、嫌なことは嫌って言う人です。だからそんなふうに思わないでください」


 口に出して、これは誰に向けての言葉なのだろうと羽咲は胸が苦しくなる。


 祖母がカラオケサークルに入っていることすら知らなかった自分が、こんなことを言っても、何の説得力もないと呆れもする。


 それなのに節子は「ありがとう」と言ってくれた。


「お孫さんの羽咲ちゃんに言ってもらえて、心が軽くなったわ」


 穏やかな表情に戻った節子を直視できなくて、羽咲はアイスティーを一口飲む。


 ついさっき口に含んだ時は、ベリーの香りがして、ほんのり甘くて美味しかったはずなのに、今は少し苦かった。

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