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「ふふっ、なんだか……新しいお友達ができちゃったみたいだわ」
微笑みながら、でも眉を下げて、こちらの様子を伺う節子の表情に既視感を覚える。
一拍置いてわかった。入学式や、クラス替えの時、初めて隣同士になった同級生の顔だ。仲良くなりたい。でも、拒絶されたらどうしようという不安と期待が混ざった顔。
50歳以上も年が離れた女性からそんな表情を受けて、羽咲は照れくさい。でも、素直に嬉しいとも思った。
「私も今日、新しい友達ができちゃったような気がします」
羽咲がおどけた口調でそう言えば、節子はほんのり頬を染めて目を細めた。
「嬉しいわ。年を取ると、新しいお友達を作るより……見送ることの方が多くなってしまったから」
祖母もまた、節子が見送った友達の一人なのだろう。その孫と友達になっても、気持ち的にプラマイゼロと割り切れないとは思う。
でも、節子が嬉しそうにしてくれると、今日ここに来た理由が一つ増える。鬼門だったこの街に、幸せな記憶が一つ上書きされていく。
祖母には、素敵な友達がいてくれた。そして、そんな人が自分の友達になってくれた。
あー、良かった。ここに来て、良かった。そんな風に綺麗な部分だけを見て、終わりにしたい。
でも、と羽咲はスカートの裾をギュッと握る。真実は、これだけではないはずだ。
「祖母をカラオケサークルに誘ってくれたのも、節子さんだって芳郎さんから教えてもらいました」
「ええ、そうなの。ゆきさんとは、何度か文化のみちでお会いして、それから揚輝荘とか、主税町教会とか一緒にお出かけして、カラオケサークルにもお誘いしたのよ。最初は、ゆきさんカラオケに抵抗あったみたいだけど、すぐに皆と仲良くなってくださって……ほんと楽しかったわ……」
遠い目をする節子は、とても優しい顔をしている。しかし、すぐに寂しそうな表情になる。
「実はね、ゆきさんとは定期的に会ってたんだけど、今年の五月……ゴールデンウイークを過ぎた頃から急に会えなくなってしまって……もしかしてカラオケサークルで何か嫌なことでもあったのかしら?って心配してたの……」
言い終えて節子が溜息を吐いた途端、大和が小さく息を吞む気配がした。
羽咲は首をひねって、大和に「どうしたの?」と、尋ねようとした。でも、そうしなかった。なんとなく、わかってしまったから。
「……芳郎も糸沢さんもね、根はいい人なんだけど……デリカシーに欠けるところがあるあら、気を悪くされたんじゃないかって不安で。でも結局、真相はわからないまま。もうきっと知ることもできないのでしょうね……」
節子の表情を言葉で表すなら、”遣る瀬無い”という表現がこれ以上ないほどピッタリ当てはまる。
自分も、節子と同じ表情を何度も浮かべていたのだろうか。
「……あの、そ」
そんな顔しないでください、と言いかけて、羽咲はその言葉を吞みこむ。これは、やめろと言われても、してしまう表情だ。
だから羽咲は、違う言葉を紡ぐ。節子の心が、少しでも癒されるように。
「おばあちゃんは優しい人でしたけど、嫌なことは嫌って言う人です。だからそんなふうに思わないでください」
口に出して、これは誰に向けての言葉なのだろうと羽咲は胸が苦しくなる。
祖母がカラオケサークルに入っていることすら知らなかった自分が、こんなことを言っても、何の説得力もないと呆れもする。
それなのに節子は「ありがとう」と言ってくれた。
「お孫さんの羽咲ちゃんに言ってもらえて、心が軽くなったわ」
穏やかな表情に戻った節子を直視できなくて、羽咲はアイスティーを一口飲む。
ついさっき口に含んだ時は、ベリーの香りがして、ほんのり甘くて美味しかったはずなのに、今は少し苦かった。




