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ゆきばあの、あしあと  作者: 当麻月菜
チーズケーキを贈る代理人

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6

「それじゃあ、立ち話もなんですし、入りましょっか」


 そう言って、節子が手のひらで示した指定場所は、こじんまりとした洋菓子店だった。しかしガラス扉の奥にはテーブルも見えるから、カフェも併設しているようだ。


 白壁には詳しかったはずの羽咲でも、この店は記憶にない。おそらく外壁も看板もピカピカだから、オープンして間もないお店なのだろう。


 そんな分析をしている羽咲に「行きましょう」と声をかけた節子は、洋菓子店の扉を開けた。


 見た目は小さいお店だと思ったが、奥はかなり広かった。等間隔に設置されている丸テーブルを縫って、羽咲たちは窓際の席につく。


 すぐに店員が、お水とおしぼりを席の前に並べ、最後にメニューをテーブルの中央に置いて去っていった。


「申し訳ないけれど、私がメニューを決めてもいいかしら?」


 メニューを手に取った節子にそう切り出され、羽咲は大和をチラリと見る。


 好き嫌いとかない?と尋ねたかっただけなのに、大和は助けを求められたと勘違いしてしまった。


「もちろんです。お任せします」


 余所行きの笑顔を浮かべた大和に、羽咲は「違う。そうじゃない!」と訴えたい気持ちをグッと飲み込み、私もお任せしますと言いながらペコッと頭を下げる。


「よかった。是非、食べて欲しいものがあるの。気に入って貰えると嬉しいんだけど……」


 最後は少し不安げな表情を浮かべた節子だが、定員を呼び止めるとテキパキと注文を終える。その口調には迷いがなかった。


 ほどなくしてテーブルにケーキとアイスティーが並べられる。節子が注文したのは、ベリーの香りがするアイスティーと、シンプルなチーズケーキだった。


「飲み物は好きなものを……と、思ったんだけど、どうせならチーズケーキに一番合う飲み物で召し上がっていただきたかったの。ごめんなさい」


 申し訳なさそうに「お口に合わなければ、違うものを注文してね」とメニューを差し出す節子に、羽咲は首をブンブン横に振る。


「とんでもないです!チーズケーキ大好物なんです私!」

「僕もチーズケーキ好きです。紅茶も詳しくなかったから選んでもらえて嬉しいです」


 二人同時に口を開けば、節子は目を細めてクスクス笑う。


「なんだか気を遣わせちゃってごめんなさい。でも、お味は保証するわ」


 そう言って節子は「さ、どうぞ」と羽咲たちに勧める。


 しかし羽咲は、フォークを取らずに姿勢を正す。まず、伝えなきゃいけないことがある。


「今日は会ってくださってありがとうございます。あの……お報せするのが遅くなってすみません。祖母は先月……亡くなりました。すみません」


 腰を浮かせて頭を下げた羽咲に、節子は悲し気な表情になる。


「お辛いことでしたね。芳郎さんから伺ってはいたけれど、お孫さんの口から伝えられると実感が湧いてしまうわ……ご愁傷様です」


 節子の丁寧な口調の中にある、深い寂しさをしっかり感じた羽咲は、もう一度頭を下げる。


「生前は祖母と仲良くしてくださって、ありがとうございました。すいません……とっても恥ずかしいんですが、私、祖母のことあんまり知らなくって……良かったら、節子さんと一緒にいるときの祖母のこと、色々教えていただけないでしょうか?」


 おずおずと尋ねた羽咲に、節子は微笑む。泣くのを我慢している、無理をした笑顔だ。


「ええ、もちろんよ。実は私、羽咲ちゃんに会ってみたかったの。こんな形になって残念だけど……今日はたくさんお話しできたら嬉しいわ。だから、さっ、立ってないで座ってちょうだい」


 会いたかった?どうして私なんかに??


 そんな疑問が浮かんだ羽咲だが、再び節子に「座って」と促されてしまった。


 中途半端な姿勢だった羽咲が着席すると、節子は羽咲が質問する間を与えず、ストローをクルクル回しながら、祖母との出会いを語り始めてくれた。

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