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「ってか時間、大丈夫?」
麦茶を飲んで一息ついた大和は、しまったと言いたげな顔になって、羽咲に早口で尋ねる。
「うん。もう近くだから、間に合うよ」
もともと移動時間に余裕を持たせていたし、大和も待ち合わせ時間より早く来てくれた。
そのおかげで、あんなやり取りがあったけれど、指定された場所には多分間に合うはずだ。
「ちょっと抜け道使うから、ついてきてね」
「わかった。じゃあ、はぐれないようにする」
「っ……!ちょっと!!」
歩き出したとたん、許可なく手を繋がれ、羽咲は大和に抗議する。
「ついて来いっていったのは、羽咲じゃん」
しれっとそんなことを言う大和に、羽咲は頬を膨らます。
だってそうでもしないと、また赤面しそうなのだ。
恥ずかしさを気合で押し込めた羽咲は「じゃあ行くよ」と言って歩き出す。大和は素直に頷き、足を動かした。
それから羽咲を先頭に、老舗レストランの駐車場をこっそり通り抜けたり、細い路地をくねくね歩き続ける。
羽咲に手を引かれている大和は金山の時とは逆で、キョロキョロしている。
「すげぇー。ホーム感が半端ないっすね」
ついさっき女生徒たちと再会してしまったから、この近所の学校に通っていたことは隠す必要はない。
「まぁね」
「……ふぅーん」
自分から話題を振ったくせに、どうでもいい返事をする大和の態度が、羽咲には居心地がいい。深掘りしないのは、大和の優しさだ。
「ねぇ、大和君。お願いがあるんだけど」
「いいですよ」
まだ、詳細を伝えてないのに、大和は食い気味に返事をする。今の台詞、忘れないでよ。
「帰りに寄りたいところあるんだ。この近くなんだけど……付き合ってくれる?」
「いっすよ」
なんで?どうして?そんな問いを羽咲に投げることなく、大和は即答してくれる。これもまた、大和の優しさだ。
くすぐったさを覚えながら、羽咲は歩き続け──ピタリと足が止まった。
「ここが節子さんが指定した場所だよ」
「時間ピッタリっすね」
スマホで時刻を確認した大和は、驚きながら羽咲を見る。
「まぁね!って言いたいけど、ちょっと焦ってたんだ」
胸を張りつつ、肩をすくめるという器用な真似をした羽咲に、大和はふっと笑う。
「羽咲、素直すぎ」
「っ……!」
素直なのは、君じゃないか!と、羽咲は言い返したい。
ニヒルな笑みとか、鼻で笑われることは度々あったが、大和からこんな柔らかい笑顔を向けられたのは初めてだ。
以前、大和は「あんたの特技って不意打ち?」って訊いてきたけど、今の方が不意打ちが過ぎる。お陰で、何も言い返せない。
「い、いいじゃん。嘘つくよりは……!」
「……そうだよな」
少し間を置いて負け惜しみで口に出した羽咲の言葉には、深い意味はなかった。
それなのに、大和の表情に影が帯びる。
「どうしたの?私、何か変なこと言った?」
「いや、別に」
大和は即座に否定してくれたけれど、何か言いたげだ。
しかし羽咲は、それ以上踏み込んで尋ねることができなかった。
「失礼。あなた、ゆきさんのお孫さん?」
向き合っている羽咲と大和に、年配の女性が声をかけてきた。
そこに視線を向ければ、日傘を差した品のいい年嵩の女性がいる。間違いない、この人は節子だ。
「はい。初めまして。私、柳瀬雪江の孫の柳瀬羽咲です」
身体の向きを変えた羽咲は、年嵩の女性に頭を下げた。すぐに、ふふっと嬉しそうな笑い声が聞こえる。
「こんにちは。田中節子です。会えて嬉しいわ」
日傘を畳んで、丁寧にお辞儀をしてくれた節子は、どことなく祖母に似ていた。




