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ゆきばあの、あしあと  作者: 当麻月菜
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5

「ってか時間、大丈夫?」


 麦茶を飲んで一息ついた大和は、しまったと言いたげな顔になって、羽咲に早口で尋ねる。


「うん。もう近くだから、間に合うよ」


 もともと移動時間に余裕を持たせていたし、大和も待ち合わせ時間より早く来てくれた。


 そのおかげで、あんなやり取りがあったけれど、指定された場所には多分間に合うはずだ。


「ちょっと抜け道使うから、ついてきてね」

「わかった。じゃあ、はぐれないようにする」

「っ……!ちょっと!!」


 歩き出したとたん、許可なく手を繋がれ、羽咲は大和に抗議する。


「ついて来いっていったのは、羽咲じゃん」


 しれっとそんなことを言う大和に、羽咲は頬を膨らます。


 だってそうでもしないと、また赤面しそうなのだ。


 恥ずかしさを気合で押し込めた羽咲は「じゃあ行くよ」と言って歩き出す。大和は素直に頷き、足を動かした。


 それから羽咲を先頭に、老舗レストランの駐車場をこっそり通り抜けたり、細い路地をくねくね歩き続ける。


 羽咲に手を引かれている大和は金山の時とは逆で、キョロキョロしている。


「すげぇー。ホーム感が半端ないっすね」


 ついさっき女生徒たちと再会してしまったから、この近所の学校に通っていたことは隠す必要はない。


「まぁね」

「……ふぅーん」


 自分から話題を振ったくせに、どうでもいい返事をする大和の態度が、羽咲には居心地がいい。深掘りしないのは、大和の優しさだ。


「ねぇ、大和君。お願いがあるんだけど」

「いいですよ」


 まだ、詳細を伝えてないのに、大和は食い気味に返事をする。今の台詞、忘れないでよ。


「帰りに寄りたいところあるんだ。この近くなんだけど……付き合ってくれる?」

「いっすよ」


 なんで?どうして?そんな問いを羽咲に投げることなく、大和は即答してくれる。これもまた、大和の優しさだ。


 くすぐったさを覚えながら、羽咲は歩き続け──ピタリと足が止まった。


「ここが節子さんが指定した場所だよ」

「時間ピッタリっすね」


 スマホで時刻を確認した大和は、驚きながら羽咲を見る。


「まぁね!って言いたいけど、ちょっと焦ってたんだ」


 胸を張りつつ、肩をすくめるという器用な真似をした羽咲に、大和はふっと笑う。


「羽咲、素直すぎ」

「っ……!」


 素直なのは、君じゃないか!と、羽咲は言い返したい。


 ニヒルな笑みとか、鼻で笑われることは度々あったが、大和からこんな柔らかい笑顔を向けられたのは初めてだ。


 以前、大和は「あんたの特技って不意打ち?」って訊いてきたけど、今の方が不意打ちが過ぎる。お陰で、何も言い返せない。


「い、いいじゃん。嘘つくよりは……!」

「……そうだよな」


 少し間を置いて負け惜しみで口に出した羽咲の言葉には、深い意味はなかった。


 それなのに、大和の表情に影が帯びる。


「どうしたの?私、何か変なこと言った?」

「いや、別に」


 大和は即座に否定してくれたけれど、何か言いたげだ。


 しかし羽咲は、それ以上踏み込んで尋ねることができなかった。


「失礼。あなた、ゆきさんのお孫さん?」


 向き合っている羽咲と大和に、年配の女性が声をかけてきた。


 そこに視線を向ければ、日傘を差した品のいい年嵩の女性がいる。間違いない、この人は節子だ。


「はい。初めまして。私、柳瀬雪江の孫の柳瀬羽咲です」


 身体の向きを変えた羽咲は、年嵩の女性に頭を下げた。すぐに、ふふっと嬉しそうな笑い声が聞こえる。


「こんにちは。田中節子です。会えて嬉しいわ」


 日傘を畳んで、丁寧にお辞儀をしてくれた節子は、どことなく祖母に似ていた。

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