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ゆきばあの、あしあと  作者: 当麻月菜
祖母に捧げるラブソング

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27/54

6

 ──それから、15分後。


 ポップコーンが弾けるように賑やかだったカラオケ室内は、重苦しい空気に変わった。羽咲が、祖母の死を伝えたからだ。


「……お伝えするのが遅くなって……その、本当に……申し訳ありません」


 羽咲は、沈んだ表情を浮かべるカラオケサークルのメンバー──男性2人女性2人。計4人に向かって、深く頭を下げる。


「いや、いいんだよ。君が謝ることじゃない。教えてくれて、ありがとな」

「そうよ。わざわざお孫さんが来てくれるなんて……ゆきさん、幸せ者ね」

「それにしてもぁ、糸沢さんも電話してくれた時に、教えてくれても良かったのになぁ」

「ほんと、糸沢さんったら。あの人、そういうところ、あるわよねぇ」


 落ち込んでいたカラオケサークルのメンバーだが、糸沢への不満を吐き出すと、次第に気持ちが浮上し始める。


「あ、あの……!糸沢さんは、きっと私が直接伝えるべきだと思ったから、あえてお伝えなかったんだと思います」


 羽咲にとって糸沢は、苦手なところもあるけれど、総合的に親切な人である。


 カラオケサークルのメンバーがずっと気落ちしたままなのは辛いけれど、自分のせいで糸沢の評価が下がるのも申し訳ない。


 そんな気持ちでフォローを入れる羽咲に、カラオケサークルのメンバーの一人は、コロコロと笑う。


「ふふっ、心配しなくても、大丈夫。いつもこうなだけ。糸沢さんのせいにしとけば、丸く収まるの」

「……はぁ」


 納得できない羽咲だが、カラオケサークルのメンバーは本気で糸沢のことを嫌ってはいないようで「今度来たら、青汁飲んでもらいましょう!」と提案している。


「サークルにはサークルのやり方があるんだから、いいんじゃないの?」


 大人びたことを言う大和は、ずっと羽咲の隣に座っている。


 今日は、無駄にイケメンオーラを振りまくことも、気配を殺すこともしていない。ただ座って、羽咲たちのやり取りを見守っている。それが、とても心強い。


「……わかった。いいことにする」

「しとけ、しとけ」

「うん」


 大和に背中を押された羽咲は、本来の目的を果たすために、気持ちを切り替えようと空のグラスを二つ持ち上げる。


 このカラオケ店はフリードリンク制なので、部屋の外にドリンクバーがある。


「ちょっと飲み物取ってくる。大和君、何がいい?」

「一緒に行く」

「ん?いいよ。近くだし。場所わかるし」

「一緒に行く」

「そう?」

「ああ」


 即答する大和は、カラオケサークルのメンバーに「お代わり持ってきます」と声をかけている。


 その社交性の高さに脱帽しつつ、羽咲は大和と一緒に廊下に出た。

 



 

「芳さんと鈴さんは、お茶。春さんはコーヒーで、宮さんは氷無しの水」 


 ドリンクコーナーに到着すると、大和は手際よくグラスに飲み物を注いでいく。


「で、羽咲さんは何飲む?」

「……大和君の記憶力がすごすぎて、何を飲んでいいかわからない」

「己の優柔不断さを、俺になすりつけないでください。もうオレンジジュースでいいっすよね」

「あ、うん」


 駄目な子を見る目になった大和に、羽咲は反論できずコクコクと頷く。


 そうしている間に、大和はドリンクコーナーの端に置いてあったトレーを見つけて、人数分のグラスをそこに乗せる。


 廊下に出てから何一つ役に立っていない羽咲は、せめてお運び役になろうとトレーに手を伸ばすが、それすら大和に取り上げられた。


「ドアだけ開けてください」

「……はぁーい」


 しょぼい任務を与えられた羽咲は大和と並んで廊下を歩き、カラオケサークルのメンバーが待つ部屋に立つ。そして両手でドアを開けた途端──


「おかえり。お!グラス全部持ってあげるなんて、優しい彼氏さんだねぇ」


 悪気のないメンバーの一人の言葉に、羽咲と大和は同時に声を上げる。


「あははっ、全然そんなんじゃないですよー」

「ちょ、ち、違います!違いますからっ」


 笑い飛ばす羽咲と、動揺しまくる大和を見て、カラオケサークルのメンバー全員は眩しいものを見るように、目を細めて笑った。

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