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ゆきばあの、あしあと  作者: 当麻月菜
祖母に捧げるラブソング

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26/54

5

「着いたよ」


 大和が足を止めた先は、細長いビルが丸々カラオケ店になっている建物だった。店名も、糸沢が教えてくれたものと一致している。


「おぉ……!一発で到着できるなんてすごい!」

「褒められる次元が低いと素直に喜べないっすね。早く中に入りましょう」

「そぉーだねー」


 冷たい目を羽咲に向けながら、大和は大股で店内に入る。羽咲も、大和の背中を追いかけた。


 事前にカラオケサークルのメンバーが後から羽咲たちが来るのを店員に伝えてくれていたのか、受け付けはスムーズに済んだ。


「お会計、二名で1,950円です」

「はーい」


 大学生の思わしきバイトの男性店員に羽咲は財布を取り出すと、素早く千円札を二枚出す。


「ちょ、ちょっと待てよ。俺、自分の分は──」

「50円のお返しです」


 割って入った大和だが、店員は素っ気なく羽咲にお釣りを渡すと、ドリンクバーのグラスが入った籠をカウンターにドンと置いた。


「お部屋は、三階になりまーす」


 早く行けと言いたげなバイト店員に、大和はムッとしながらも籠を持つ。次いで、羽咲に目で「行くぞ」と合図して、エレベーターに向かう。


「……まさか羽咲さんが年上だから、俺の分まで払うとか言いませんよね?」 


 プライドを傷つけられた顔をする大和に、羽咲はブンブンと首を横に振る。


「違うよ!そんなんじゃない付き合ってもらってるのに、カラオケ代まで払ってもらうのは悪いから……」

「そういうのも含めて、付き合うって言ってるんで。変な気の使い方やめてくださいよ」

「わかった。次からはそうする──ってことで大和君、エレベーター乗ろっ」


 タイミングよく到着したエレベーターに、羽咲は大和を押し込む。


「あのね、一度やってみたかっただけなの……」


 <閉>ボタンを押しながら、羽咲は大和を見ないで語り続ける。


「自分で働いて、そのお金を誰かに使うってこと。その相手がたまたま大和君だっただけなの。だから、あんまり気にしないで……ほんと、それだけだから」


 言い終えて、羽咲は大和に笑いかける。


「そういう風に言われたら、なんも言えなくなるじゃないっすか……ずるっ」


 大和が悔しそうに顔を歪めたと同時に、エレベーターが停まった。


 二人は並んで廊下に出る。そしてすぐに、カラオケサークルのメンバーが集まる部屋の前に到着した。


「うー……どのタイミングでドア開けよっかなぁ」


 一応、防音完備をしている室内から、微かに曲に乗って誰かが歌う声が漏れていて、羽咲は入室するのを躊躇ってしまう。


「俺、特攻しましょっか?」

「待って、駄目っ。この前言ったじゃん!大和君の顔を利用しないって!」

「じゃあ、いつ入るんっすか?」

「それを今、悩んでるの!」


 意固地になる羽咲と、さっさと部屋に入りたい大和が、部屋の前で言い争いをしていたら、突然ドアが開いた。


「どうかされま……あら?もしかして、あなた糸沢さんが言ってたお嬢さん?」

「は、はい!そうです!柳瀬羽咲と言います」

「まぁ!やっぱり、ゆきさんのお孫さんなのね!」


 祖母と同年代と思われる高齢女性は、羽咲が祖母の孫だとわかった途端、ぱぁぁぁっと顔を輝かせた。


 そして、すぐに振り返ると部屋にいるメンバーに声を掛ける。


「ねぇ、カラオケ止めてちょうだい!ゆきさんのお孫さんがいらっしゃったわよ」

「おー、本当か!?」

「あらあらぁ、こんなところに立ってないで、早く中にお入りなさい」

「座る場所がないわっ。ほら、こっちずれてずれて!」


 柳瀬雪絵の孫が来たとわかった途端、カラオケメンバーは皆、立ち上がるとワイワイ騒ぎ出す。


 歌の邪魔しちゃ悪いかな?と入室するのを遠慮していた自分が馬鹿みたいだと思うほど、羽咲は熱烈な歓迎を受けて──ちょっとだけ、パンダの気持ちがわかってしまった。

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