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ゆきばあの、あしあと  作者: 当麻月菜
祖母に捧げるラブソング

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23/54

2

「おい、どうなんだよ」


 羽咲の机の前に来た男子──会田(あいだ)は、しつこく尋ねてくる。


「ど、どうって……」


 そんなのどうして答えなきゃいけないの?と、逆に質問したい。


 会田の存在は、二年生になるまで知らなかった。同じクラスになってからも、ア行とヤ行とでは席が近くなることもなかったので、会話らしい会話をしたことがなかった。


 しかも会田は、クラスの中でも目立つ部類の男子だ。背も高く、成績もそこそこいい。でも、横柄な態度が見え隠れしていて、人畜無害のタイプに属する羽咲は、彼のことが正直苦手である。


「別に、年上とか年下とか決めてないよ」

「ふぅーん」


 同じクラスのよしみで答えてあげたのに、会田は納得しないし、羽咲の席から立ち去ろうともしない。


 面と向かって「あっちに行って」と言えない羽咲は、奏海に救いを求める。けれど、彼女は下を向いて肩を震わせるだけ。


 仕方がない。口で言えないから、態度で示そう。


「あー……私、そろそろプリントやろっかな」


 わざとらしく独り言をつぶやいた羽咲は、通学カバンから夏休みの課題プリントの束を取り出す。


 英語の自習中とはいえ、先生は不在だから他の教科のプリントを片づけても問題ないはずだ。


「えっと……-のときは+に変換してっと……」


 カリカリと、羽咲は会田を無視してシャープペンを走らせる。数学は得意じゃないけれど、会田に話しかけてほしくない気持ちが強くて、問題がするする解けていく。


 それからどれくらい時間が経っただろうか。会田は「邪魔して、悪かったな」と、言い捨て去っていった。


「あはっ!羽咲、やーるねぇー」


 会田が他の男子と喋りだしたのを確認して、奏海はゲラゲラ笑い出す。


「もー、奏海ちゃん……助けてくれても良かったじゃん」


 シャープペンを放り出して恨み言を口にする羽咲に、奏海は片手で謝る仕草をする。


「ごめん、ごめん。羽咲の視線には気づいてたんだけど、私、ああいう系には口出さないのが心情なんだ」

「なぁに、それ?」


 ああいう系とは、どういう系なのだろう。首を傾げる羽咲を無視して、奏海は羽咲のやりかけのプリントを手に取った。


「おぉう、夏休み始まったばっかなのに、宿題、結構進んでるねー」

「そうかなぁ?まだ半分くらいかなぁ……」

「え?マジで!羽咲、すごいじゃん。私、なんてい1ページも進んでないよ?ってか、この調子だと、このまま始業式を迎えると思う。私」


 真顔で言い切る奏海に、羽咲は土曜日のバイトで、マスターがぼやいていたのを思い出してしまう。


『うちの奏海……留年したら、どうしよう……』


 洗ったグラスを拭きながら遠い目をするマスターは、本気で奏海の学力を案じていた。


 ちなみに羽咲の期末テストの結果は、学年でちょうど真ん中。毎度そのあたりをウロウロしている。


 一方、奏海は追試を受けたことはないけれど、いつも綱渡りらしい。


「奏海ちゃん、水曜日って部活何時に終わる?良かったら、その……バイト終わったら宿題一緒に──」

「うん!やる!!」


 羽咲が話し終える前に、奏海は全力で同意した。そして羽咲の両手を握って、ブンブン振る。


「ありがとー。水曜日は、四時で終わるから!ダッシュで帰るから!うちのお父さんに、パフェ作ってもらうようにお願いしとくからね!!」

「う、うん」


 ただ一緒に宿題をするだけなのに、パフェまでご馳走になるのは申し訳ない。


 そう言いたかったけれど、奏海の満面の笑みに気圧され、羽咲は曖昧に笑う。


 そんな二人のやり取りを、少し離れた場所で会田はずっと見ていたが──羽咲は全く気付くことができなかった。

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