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ゆきばあの、あしあと  作者: 当麻月菜
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2

「で、どこ行くの」


 羽咲の八つ当たりをスルーした大和の視線は、コンビニから見えるロータリーに向いている。


「すぐ近く。ちょっと聞き込みしたいの」

「刑事かよ」


 間髪入れずに突っ込みを入れた大和は、羽咲を置いて外に出ようとする。


「ちょっと、待ってよ。場所わからないくせに、先に行かないで。あと、敬語はどうした?敬語は!」

「はぁー……だる。行きましょうか。羽咲さん」


 嫌々感丸出しだが、大和は羽咲の言いつけを守って足を止めてくれた。これもまた意外だった。


 並んでコンビニを出ると、ムッとした暑さに二人そろって小さく息を吐く。


「曇りだからそんなに暑くないと思ったけど、これはこれで、蒸し暑い」

「そっすね」

「大和、水筒持ってきた?」

「持ってきてないっす。ってか、羽咲さんは、俺のこと呼び捨てにするんだ」


 並んで歩く大和が足を止めて、ジト目で羽咲を見る。


「あー、確かにそうだね。つい、おばあちゃんちの大和の感覚で呼び捨てにしてた。ごめん、大和君」

「……犬の話、禁句にしません?」 

「わかった」


 羽咲が即答したのを合図に、また二人は歩き出す。


 大和は、羽咲より背が高い。見上げるほどじゃないから、奏海と同じくらいだろう。当然、身長が違えば足の長さも違うのに、羽咲の歩く速度に合わせてくれている。


 さりげなく気遣われた羽咲は、やっぱり水筒を二人分用意しておいて良かったと、ちょっとだけ早起きした自分を褒めたくなる。


「これ、大和君の分。どうぞ」


 足を止めずにリュックから水筒を取り出した羽咲は、大和にそれを押し付ける。


「え?俺……に?」

「君以外、誰がいるの?」


 呆れ顔になる羽咲だが、はっと何かに気づいたように表情が変わった。


「もしかして、他人の水筒使うの苦手?一応これ、新品なんだけど……」

「あ、いや。大丈夫。ただ……」

「ただ?」

「……そういうの、慣れてないから」

「へぇー」


 怪訝な顔をする羽咲に、大和は「嘘じゃない」と付け加える。


 無論、大和が嘘を吐いているわけじゃないのはわかる。だって、モテないアピールを羽咲にする必要がないからだ。


 それでもこの容姿なら、水筒の2つや3つ、女子から渡されても不思議じゃない。


「で、まだ歩くんすか?」


 水筒の話を終わりにしたかったのか、炎天下の中で歩き続けるのに限界が来たのか、大和はやや強い口調で羽咲に尋ねる。


「うーん、あと5分くらい」

「あっそ。んで、今更ですけど、どこに向かってるんです?」

「不動産屋さん」

「……なんで?この暑さで目的、見失ってないですよね?」


 大和の遠慮のない失礼発言に、羽咲は歩きながらギロリと睨む。


「見失ってないよ。さっき聞き込みって言ったじゃん。一昨日バイト中に、不動産屋さんのおじさんが来てね、その時、おばあちゃんと知り合いってわかったの」


 などと大和に説明する羽咲だが、実はかなり端折っている。


 喫茶店を去る時、羽咲は男性客と祖母が知り合いだとわかったものの、それ以上のことは訊けなかった。ただ奏海の母親が「糸沢さん、うちの新人困らせないで!」と彼を叱ったのを去り際に見た。


 そのあと奏海に連絡を取って、羽咲はさりげなく糸沢の話題を振った。


 幸い奏海は怪しむことなく、糸沢が喫茶ワルツの古くからの客で、まぁまぁ近所の不動産屋で働いていること。あと、奏海の両親は高校生の時、糸沢の先輩だったことも教えてくれた。


 これは大和に千種駅で待ち合わせと伝えたあとの出来事。だから猛暑の中歩くのは辛いとはいえ、この程度の移動距離で済んだのは、かなりラッキーなことである。


 とはいえ、そんな事情を大和は知らない。だからなのか、羽咲の説明に対し、こんな斜め上の発言をした。


「ふぅーん、羽咲さんの学校ってバイト禁止じゃないんだ」

「気になるの、そこ?」

「そっすね。まぁ、ゆきばあが不動産屋の人と接点があったのは意外だけど、それは行けばわかるんで」


 大和の素っ気ない口調に、羽咲は言い返す言葉が見つからず、黙って歩き続ける。 


 それから幾つか信号を渡り、何度か角を曲がり──目的地である不動産屋に到着した。

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