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ゆきばあの、あしあと  作者: 当麻月菜
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1

 二日後の金曜日。うだるような暑さの中、羽咲は千種駅のロータリーにいた。


 愛用のリュックの中には、水筒が二つある。一つは、大和の分。協力費の代わりに用意した。もちろん、強引に奪った帽子も忘れずに持ってきた。あとは大和が約束を守ってくれるだけ。


 こちらの準備が完璧なだけに、不安がつのる。


「本当に、来るかなぁ……」


 スマホで連絡を取るのが当たり前になっている昨今、口約束はどうも心もとない。しかも大和と自分は、亡き祖母を介して知り合った間柄。ほぼ他人である。


 ロータリーの植木に腰かけ大和の到着を待つ羽咲は、不安な気持ちを誤魔化すように辺りを見渡す。


 千種駅は地下鉄のほかに、名鉄とJRもある複合駅だ。そのせいかどうかはわからないけれど、予備校が点在している。


「私も、来年は受験生かぁー……嫌だなぁー」


 死ぬほど勉強したのは、中三の秋から冬にかけての数か月。短い期間とはいえ、あの時の地獄をまた味わうのかとうんざりした。


 けれど、そんな地獄を味わうことはもうできないと、冷静に語るもう一人の自分がいる。


 そう。受験をするということは、進学することだ。大学に進学できる余裕が柳瀬家にあるのかないのか、羽咲はわからない。両親に尋ねる勇気もない。


「働くって言ったら……パパもママも、困っちゃうかな」


 二年前のとある事件で、柳瀬家の生活は一変した。家族がバラバラになってもおかしくない状態だった。


 あの時の恐怖は、今でも羽咲を苦しめている。


 その恐怖に打ち勝つために、就職するのは良策だと羽咲は思っている。でも両親は、きっと反対するだろう。


「……やめよう」


 色々悩んだところで、結論は出ない。どうせ夏休み開けの進路相談で、否が応でも向き合わなきゃいけないことだ。その時になったら、家族会議をすればいい。


 取り急ぎの問題は、大和が来るか、来ないかだ。


 羽咲はリュックからハンドタオルを取り出し、汗を拭く。ロータリーの時計は、11時50分。少し早めに出てきたせいで、待ち合わせ時間まで、まだ時間がある。


 あまりの暑さに、近くのコンビニに避難しようと決めた羽咲は、立ち上がってそこへと身体を向け──次の瞬間、顔を思いっきり顰めた。


「アイツ、来てんじゃん」


 信じられないことに、羽咲が今まさに移動しようとしたコンビニに大和がいた。


「私、めちゃくちゃ汗かいてるのに!なんで!もうっ」


 律儀にロータリーで待っていた自分も、来ないかもと不安になっていたことも馬鹿みたいだ。時間返せ!


 そんな不満を抱えた羽咲は、青筋を立ててコンビニに向かう。自動ドアが開くと同時に、ダルそうに雑誌コーナーにいる大和の腕を掴んだ。


「ちょっと!私、ずっとロータリーんとこで待ってたんだけど!暑いのに、外で待ってたんですけど!」


 ありったけの不満を凝縮して伝えれば、大和は予想に反して申し訳ない顔をする。


「ごめん……早く着きすぎたから、ここで時間潰してた。一回くらい、羽咲さんがいるかどうか、ロータリー見に行けばよかった。ごめん」


 シュンと肩を落とす大和に、羽咲はワナワナと震えてこう言った。


「もうっ、ズルい!そこは謝るとこじゃないじゃん!!」


 思ったままを口にした途端、なんか似たようなやり取りをつい先日したような気がしたけれど、羽咲は気のせいだと思うことにした。

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