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【心の中でツッコみ劇場】無自覚最強男、剣術を学ぶ(ただし剣の才能は皆無)

作者: たこす

こちらの作品は、作中にツッコみが一切ありません。

心の中でツッコみながら読んでいただけると幸いです。

「おじいさん、僕に剣術を教えてください!」


 ある日、一人の青年が老齢の剣術師範のもとを訪れそう言った。

 17歳くらいだろうか。

 まっすぐな目をした凜々しい青年である。


 数々の剣士を育て上げたその師範は青年の目を見て言った。


「剣術か。それは構わぬがワシの修行は厳しいぞ? おぬしにそれが耐えられるかな」


 数々の剣士を育て上げた元騎士団長。

 その過酷な修行に耐えきれなくて逃げ出した者は数知れず。

 しかし青年は真剣な眼差しで頷いた。


「厳しいのは覚悟の上です! 僕は強くなりたいんです! 昔、僕をバカにしたあいつらを見返してやりたいんです!」


 青年はいじめられっ子だった。

 幼い頃から華奢な体つきで、地元の悪ガキどもから「貧弱ぅ、貧弱ぅ」とバカにされていたのである。

 そんな彼に師範は言う。


「ならば、それを証明して見せろ」

「証明?」

「ここよりはるか南にある暗黒大陸より【竜王の玉】を取ってくるのじゃ。そうすればおぬしを弟子と認めよう」

「【竜王の玉】? なんですかそれは」

「あらゆる魔物の頂点に立つと言われる竜王。その心臓のことじゃ」



 青年は悩んだ。


 暗黒大陸とはS級の冒険者でさえ生きて帰るのが難しいと言われている場所だ。

 そこに生息する最強の魔物の心臓を取ってこいとは。

 しかしそいつを倒さないと弟子にしてくれないというのであれば、やるしかない。


「わかりました! 暗黒大陸に行って【竜王の玉】を取ってきます!」

「くれぐれも気をつけてな」

「はい! 未来の師匠!」


 かくして青年は意気揚々と旅立っていった。






 そして数日後。


 青年は帰ってきた。

 暗黒大陸帰りとは思えないほど涼しい顔をしている。

 そして手には光り輝く玉が握られていた。


「師匠! 【竜王の玉】を取ってきました!」


 得意げに玉を掲げる青年。

 師範も初めて見る代物だが、それはそれは美しい宝玉だった。


「おお、これが【竜王の玉】か! なんと美しい」

「鉄よりも硬い皮膚に、岩をも溶かす炎を吐くヤバいやつでした。素手で殴っても死なないし、跳び蹴り食らわしてもビクともしないし。最後は頭突きでなんとか倒すことができました」

「ほうほう、頭突きで」

「これで僕を弟子にしてくださいますよね!?」

「うむ、約束だからの」


 そう言って師範は旅支度をはじめた。


「師匠、どこへ?」

「ついてこい」


 師範に連れられて青年は山へと向かった。

 断崖絶壁の岩山を上り、マグマが噴き出すでこぼこ道を進むこと数時間。

 青年の目の前に巨大な岩が立ちはだかった。


「お、大きい……」


 大の大人5人分の大きさの岩である。

 ちょっとやそっと押してもびくともしない。


「剣術を教える前に、まずはおぬしの心身を鍛えねばの」

「というと?」

「この大岩を素手でたたき割るのじゃ」

「素手で!?」

「よいか! 剣は素手の延長と心得よ! この大岩を素手で破壊できなければ剣を握っても割れはせん!」

「なるほど」


 よくわからない理屈だったが、青年は頷いて見せた。


「わかりました、師匠! この大岩を素手でなんとか割ってみせます!」

「うむ。ワシは町でのんびりメシでも食っておるからの。終わったら報告に来い」


 そう言って師匠は山を下りていった。





 数時間後。



「師匠! 言いつけ通り大岩を真っ二つにたたき割りました!」


 ゆっくりとスープを飲んでいた師範のもとに青年が姿を現わした。

 若干、手が赤く腫れ上がっていたが竜王の玉を取ってきた時と同様、涼しい顔をしている。


「ほう、思ったよりも早かったの」


 師範はスープを勢いよくかきこむと、再び山を登った。

 そして大岩のところまでやってくると、そこには見事に縦に真っ二つに割れた大岩が転がっていた。


「どうです? きちんと割れてるでしょう?」

「まことに。たった数時間でここまでやるとは」

「本当はもう少し早くクリアできたんですが、魔王軍最強の四天王とか言うのが邪魔しに来たので時間がかかりました」

「ほう、魔王軍最強の四天王とな。そやつらはどこに?」

「ウザかったんでデコピンで吹っ飛ばしてやりましたよ」

「ほうほう、デコピンで……」

「これで剣術を教えてくれますよね!?」

「うむ、約束だからの」


 そう言って師範は歩き出す。

 青年も後に続いた。

 そして今度は大きな滝の前までやってきた。

 高さ100メートル以上はあろうかという巨大な滝である。


「剣術の稽古その1じゃ。この滝を横に真っ二つに裂いてみよ!」

「この滝を?」

「ただし剣は使うでない。手刀で裂くのじゃ」

「手刀で……」

「じゃあ、ワシはまだメシを食べ終えておらんから町に戻るぞい。終わったら報告に来い」

「はい、師匠!」


 そう言って青年は拳を構えた。





 数時間後。


 食後のお茶を飲んでいる師範に青年が姿を現わした。


「師匠! 滝を真っ二つにできました!」


 今度も涼しい顔をしている。

 師範は湯飲みをテーブルに置いて「ほう」とつぶやいた。


「これまた思ったよりも早かったの」

「ついてきてください、師匠」


 青年のあとをついていく師範。

 しかしその道中にはおびただしい数の魔物の死骸が転がっていた。


「なんじゃ、この魔物たちは」

「魔王軍最強の四天王を倒したからか、魔王が軍隊を差し向けてきたので殲滅しときました」

「ほう、魔王が軍隊を」

「邪魔だったんで蹴散らしといたんですが、やりすぎでしたか?」

「いや、やりすぎではない。おぬしが邪魔だと思ったんならそれで正解じゃ」


 一匹一匹がどう見ても災厄級の魔物だったが、師範は見ないことにした。

 今は弟子の修行の成果を見るのが先である。


 やがて滝の前まで来ると、青年は手刀を構えた。


「師匠がいると緊張しますが、見ててください。はあ!」


 かけ声とともに手刀を横に振るう青年。

 その斬撃は滝を真横に斬り、その衝撃で水が逆流していった。

 そしてその逆流した水は天に昇り、麓の村に大量の雨を降らせたのだった。


「どうです、師匠? 真っ二つになりましたでしょ?」

「うむ、見事なり」


 余談だが、麓の村は干ばつで困っていたため「恵みの雨だ」と喜んだという。


「次はなんですか? ここまで来たら、全部習得しますよ!」

「あい、わかった。我が剣術のすべてをおぬしにたたき込もう」


 こうして師範はありとあらゆる技術を青年にたたき込んでいった。


 時には魔王が邪魔しに来たり、帝国軍が10万の軍勢を率いて侵略しに来たが、青年はそのすべてを拳ひとつで返り討ちにしたのだった。






 そして2年後。



「もうおぬしに教えることはない。よくぞワシの修行に耐えきった」



 ついに青年はすべての剣術を習得した。

 筋肉も、2年前より一回りも二回りも大きくなっている。


「今までありがとうございました、師匠!」

「しかし気を抜くでないぞ。剣術を学んだとはいえ、実戦ではまだまだ未熟じゃからの」

「はい、師匠!」

「危なくなったら逃げるのも手じゃ」

「はい、師匠!」

「しばらくは最下級モンスターを相手に経験を積むがよい」

「はい、師匠!」



 こうして青年は師匠のもとを離れた。

 そして師匠の言いつけ通り、最下級のモンスターを相手に稽古を続けた。


 しかし【ドラゴンスレイヤー】【魔王殺し】【10万人斬り】の異名を持つ彼も、最下級のモンスターには敵わなかった。


「さすが師匠。僕の剣が実戦ではまったく通じないことを見抜いてらっしゃった」


 青年は剣を鞘に収めると、小指でモンスターを屠った。


 格闘術ではなんとかなる。

 しかし剣を握ると凡人以下。


「これじゃ、またあいつらにバカにされちゃうな」


 青年は来る日も来る日も剣を振り続けた。



 人類を滅亡させるために舞い降りたゴッドサタンをビンタで退け、空から落ちてきた巨大な隕石をグーパンチで押し返すも、剣では最下級のモンスターには歯が立たなかった。



「くそ! 僕の実力はこんなものなのか!」



 最下級のモンスターから逃げ惑いながら、剣を投げ捨てる青年。



「僕には……、僕には……、戦いのセンスがないということなのか……」



 青年はガックリと肩を落とした。




 やがて。


 青年は自分の才能の限界を感じ、剣術をあきらめた。

 そして芸術の道へと走った。




「おじいさん、僕に絵を教えてください!」



 青年の新たな修行が始まる──……。




 頑張ってね☆

お読みいただきありがとうございました。


「そもそも修行する意味ある?」という人が修行をしたがってる話を書きたくて書きました。

普通に考えて、師範よりも強いはずなんですけどね(笑)


ちなみに青年は国から莫大な報酬といくつもの称号を贈られていますが「未熟なので」とすべて辞退しています。

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