変わり行く世界と動き出す世界
大分遅れました、申し訳ないです。
今回はかなりの難産で書き直し三回に、テストが挟まって時間が掛かった割には下手な文書になっています。
平に御容赦、お願いします。
では本編をどうぞ。
ガツンと金属音もかくやと言う音が、八咫の裏口がある路地裏に響く。
並ぶは死屍累々の死体ではなく、ボロボロになって呻く人だ。
「これで25…っと、懲りないねぇ」
黒塗りの木刀を逆袈裟に切った体勢で残心を残す天子は、構えを解いて木刀を肩に背負いながらウンザリと呟いた。
然もありなん、彼女自身が倒した25と言う数もさながら、背広から近所の高校の制服・ライダースーツに神官の様な服から戦闘服と言う様なありとあらゆる格好をした相手を退けたのだ。
しかも三日目にして、一人頭70を超えている上に一日量もあがっていたりする。
日々悪を狩る桜坂の剣士たる天子と言えどもウンザリするのは当たり前だ。
更に彼女がウンザリするのは、いかんせん裏路地はもう倒れている人間で一杯で狭いからだったりする。
「どう? 終わった?」
裏口から顔を出したのは、青を基調とした可愛らしい店員の制服を来た彩だった。
「………」
「何よ、その顔……」
「いや、可愛らしい格好したら別人だな~って」
「なっ何いってるのよ」
艶のある漆黒に染まったレインコートのフードの下から、ニヤリと笑う天子の顔は人が悪い表情をしていた。
今の彩はいつものパンツルックでは無く、ハイソックスを履いたスカート姿である。
スカートとハイソックスの間から覗く白い肌がまぶしい。
「やめてよ、もう」
「ふふっ」
恥ずかしそうにスカートを抑える彩の姿に、天子は何と無く嬉しそうだ。
天子も誠一と同様に、彩が纏う孤独感を感じていた。
能力者達が共通して持つ孤独感に、天子は共感すると同時に彩が持つそれ以上の寂しさを見てとっていた。
他人とは違うと言う無意識の能力者と普通の人間との隔絶だけではなく、フッとした瞬間の他人と距離をとる彼女の姿。
気付いた時に天子は父の死んだ時の自分とオーバーラップして、何とかしてあげたいと考えた。
自分の時は色々あったが、師がいて友達がいて仮初めだが家族がいた。
しかし彼女は話を聞いてここ数日一緒にいて解るのは、いろいろな意味で一人と言う事。
だからこそ今彼女が浮かべる表情はそれとは違う、普通の笑顔に天子は嬉しくなったのだ。
天子が浮かべる笑顔、それは何とも母性溢れる様な優しい笑顔だった。
それに気付いた彩は更に顔を赤くしながら、話題転換をするべく話を振る。
「そっそんな事より、えーと、水龍は?」
「ん? 彼ならほら、良い練習相手だって言って、ほら」
天子が指差す方を見れば呻き声をたてながら倒れる敵の中で、拳の応酬をする水龍こと誠一が見えた。
「あれぐらいの相手で練習? まさか練習って能力使わずに?」
「励起法のレベルも相手に合わせてるみたい。ほら、この間さ思惟さんが誠一君に何か教えてたじゃない?」
「ああ、何かやってたわね。どんなのかは知らないけど」
「私聞いてたー」
「あなたの能力は、そんな時便利よねー」
「えへへ。でね、今の修練の内容はさ……」
戦場の様相をした路地裏の一角、そこでは薄暗い世界が少し明るく染められていた。
「グウッ……」
金城良純26才、彼は能力者である。
と言っても能力者になって一年と日の浅いビギナー能力者。
教団に入り、神の声を聞き自分の力に目覚めるイニシエーションを受けた後から能力。
良純は元々、どこにでもいる様な普通の男だった。
とは言うものの、身体はガッチリとした筋肉質の体つきで、三白眼の鋭い目付き。
これをオールバックの髪型ならば、見た目は完全に武闘派のヤクザだ。
琉球に古くから伝わる空手をやっているので、ゴツゴツとした拳タコがあるために周囲の人間には、そんな人間だと思われていたりする。
しかし、勘違いされるのは良純
としても仕方がないと感じていた。
通っていた道場の周りの門下生は、あからさまに『その筋の人間』であり、自身がそんな道場では最高位の使い手だったのだから。
そんな経歴と容貌、更には生来持ち合わせた流されやすい性格とあいまって彼の今の職業は他人には言えない仕事をしていた。
通称『誘拐屋』。
名前からしてアウトである。
良純としては、こんな仕事すぐにでも辞めたいのだが、恩義のある先輩に強要されて仕方がなくやっていた。
恩義があるならば止めるべきなのだが、流されやすい性格故のダメ人間がそんな事出来る訳がなかったいまである。
しかしながら、そんな彼でも今の状況は不可解だった。
(何で、何で当たらないっ⁉)
曲がりなりにも自分は能力者になって力や敏捷性、耐久性などを劇的に引き上げる励起法を使える様になったが、それ以前に空手の世界大会にもトップを争える程の実力者なのだ。
相手め励起法を使う能力者と言えども、負ける気はしなかったのだ。
しかし現実は違っていた。
正拳は弾かれ、蹴り技は避けられ、コンビネーションは封じられると言う状況。
明らかに格の違いを感じさせる様な戦いに、良純はやや心を折られかけていた。
だがしかし、良純としても空手使いとしてのプライドがあり、逃げる訳にはいかなかっりする。
何合めにあたるか解らない突きを弾かれて良純は解った事があった。
目の前の龍の覆面をする男は、以前戦った中国の拳法使いと似ている事と、殺気の様なモノが無い事だ。
「てめぇ、俺で遊んでるな⁉」
「とんでもない、あんた位の実力者と遊ぶなんて火遊びはしないさ。練習相手にはなってくれてはいるみたいだけどな?」
腕を弾かれながら良純は苦虫を噛んだ様な渋面を浮かべる。
以前戦った中国拳法使いは、化勁と呼ばれる力を反らす技をコンビネーションの中に含めて使って来ていた。
にも関わらず『水龍』は致命傷にもなる様な一撃を打ってこない。
と言う事は、水龍自身が言う通り本当の練習なのだろう。
「舐めやがって‼」
この事実に良純は、普段の流されやすい性格を振り切って怒り狂う。
左ジャブからローキック、左の拳を残した状態からの右左の突きと言うコンビネーション。
躱されたり受け止められたりするかもしれないが、良純には関係なかった。
ただ怒りのままに拳を振るう良純の拳を水龍は危な気もなく弾く。
「舐めるなぁぁああ‼」
左右のコンビネーションからの、古流空手の夫婦手(手を前に出す事により相手の行動を制限や牽制する古流空手の技術)を繰り出す。
古流空手においての攻守の要たる技法だが、水龍はそれを上回る。
それは何気の無い一歩に見えた、しかし傍から見ていた天子や彩は目を剥く。
入りや身体の細部は違うが、霧島神道流や守部神道流などで共通する歩法と同じだったからだ。
爆発する様な高速の歩法では無く、相手の死角や心理的な隙へと潜り込む『神足通』と言う技。(過去の話、サイファ学園都市 中編においては、紫門はこの歩法で緊急回避を行いその慣性を使い壁を走った)
それと似た歩法を使い、水龍は相手の側面から背後へと一瞬で移動する。
「なっ⁉」
相手にとっては自分の視界から水龍が、一瞬で消えた様に見えただろう。
慌て振り返るが遅い、振り返った良純の胸に添えられた手の平。
次の瞬間、良純は音もなく前のめりに崩れ落ちた。
「自分の武術の誇りを穢されて怒るのは解る。けど、自分の行いで穢されているなんて解ってない………」
溜息まじりの言葉が路地裏に消えた。
「回線をダミーに流せ‼ 数分やり過ごすだけでいい、もうソロソロ奴らの情報部に今回の件が入るはずだ」
「もって三分です‼」
「充分だ‼ 始めろ‼ 同時進行でダミー会社の株式を売り抜く。ばれて逃げる振りをする事で相手に三流組織と勘違いさせるんだ、その間に外注三班が動く‼ 第七班偽装した物資を……」
薄暗い部屋、数十のディスプレイとその前に座るスタッフに、高座に立つ『七瀬 桂二』がヘッドセットごしに指示をしていた。
その後ろのソファーに座る三剣 風文は満足そうに微笑んでいる。
「そうしていると悪の秘密結社のボス見たいだな」
「失敬な、見たいじゃなくてそのままだろうが」
「お前との付き合いは長いが、その感性はよく解らんよ」
ソファーの後ろの暗がりから浮かび上がる人影。
ウィンドブレーカー姿の七凪紫門だった。
「今更だろ?」
「まあな。とりあえず報告だ。スレイブ因子や偽神薬の生産拠点が割れた」
「ようやくか。思いの他掛かったな」
「仕方があるまい。ダミーの会社法人が管理する廃病院に隠れていたからな。偽神薬やスレイブ因子の精製に必要と予想していたP4レベルの研究室やバイオプラントを目標として見つからない筈だよ」
「確かにな、盲点だったな……しかし、今回の情報源が教授経由とはね…」
「話を聞けば、元はお前の依頼で葵が出向いたのが始まり見たいだがな」
「人の縁は解らんなー」
二人の会話が急に途切れる。
風文が周囲を見れば、部屋の中のスタッフ全員が席を立ち高座に座る彼を見上げていた。
「準備段階の最終フェイズを予定通り終了しました。隊長、号令をお願いします」
報告する桂二の声に、風文はニヤリと笑うとソファーを勢いよく立ち上がる。
「良くやった。では我々の戦いはここから本格的に始まる。最初は大学のコアなサークルだった我々が、人の願い・夢・怒りや悲しみと共に此処まで来た。我々『第三機動大隊』は今夜始動する、最初の作戦対象『桃山財閥』の神人同盟‼ 始めろ‼」
風文の号令と共に、部屋の中のスタッフが一斉に動き出す。
ただ一つの物事向かって。