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変わる世界  作者: オピオイド
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狩る者、狩られる者(6月7日加筆)

森の町、高見原は都市開発における当初のスローガン『自然融和』のお陰で、緑は切っても切り離せないものだ。

しかし切っても切り離せないと言っても、町に拡がる緑にも虫食いの如く穴がある。

それは、ビルであり、家であり、そして道である。

高見原の一番の特色は町の中心に拡がる巨大な中洲。

その形は、北を頂点にし南に拡がる様な三角形の形をしている。

南側に拡がる三角形の底辺には緑が覆う岩山があり、その頂点には岩長神社や公園がある。

公園から放射状に伸びる緑の切れ目、人の手が入った道その一本に彼はいた。

緑の切れ目から覗く月、誠一は胸に留まり続けるわだかまりを抱えながら歩く。

習いはじめてから数年、ようやく何かしらのモノになりそうだったのに肩透かしを食らわされたら普通はそうなるだろう。

しかし、誠一はそれだけじゃない気がしはじめていた。

最初は思惟が気分が変わり、いきなり止めたと思っていた。

だが、数年来の付き合いであり師弟関係を続けてきた誠一は、奇妙な違和感を感じていたのだ。


「…。」


生い茂る緑を切り裂く道を歩く誠一は、思惟が気が変わった時を思いだし深く考え込む。

あの時、何かしらの違和感を誠一は感じていた。

彼女の挙動はおかしくなかったか?

言葉は?表情は?

今日の彼女は何がおかしいと誠一は半ば確信めいた様に感じていた。

そして、誠一が違和感に気付いたその時。


「正解。」


それを肯定する声がかけられた。


「えっ?」


声の聞こえた方を見ると誠一は一瞬ほうける。

そこには黒ずくめの人物がいた。

黒のスラックスに黒のジャケット、目深に被っている無地のキャップにいたっても黒と言う念のいれよう。

左手の脇には黒塗りの棒を挟み見た目は不審者だが、誠一にとって問題はそこではなかった。


「君は…」

「話は後!!構えなさい!!」

「あ、えっ?」


キャップの鍔下から覗くやや釣り目がちの瞳、二日前に交差点で誠一が助けた少女だった。

疑問を解消するべく行方を探していた少女が目の前に現れ話し掛けようとした誠一だったが、それはにべもなく構えろと言う言葉のみ言われる。


「えっと、何だかよく解らないんだけど?」

「気付かないの?周辺の気配を感じ取ってみなさい」


誠一は状況が全然飲み込めなかった。しかし、悲しいかな誠一は思惟との練習の癖で言われた通り拳を作り構えてしまう。

そして、馬鹿正直に誠一は気配を探るように息をひそめる。


「っ!!静かすぎる!?」


誠一は先程考え込んでいた思惟の違和感を思い出しながら、今の状況が朧げながら理解してきた。


「思惟さんはこれを感じて視線を!!」


そう、思惟の持つ違和感の正体は視線が修行をつけている誠一ではなく、その周辺の森にいっていた。

それと今の状況を照らし合わせると一つの推論がでる。


「あの時から監視されていた!?」

「そうよ。こいつら、…4、6、12…三人一組の4チームって所か」

「囲まれてる?」

「正解」


思わず口にしていた言葉を、いつの間にか近付いていた少女が横に並びながら継いでいた。


「…っなんで!?」


誠一は歯を強く噛み締めながら、唸るように呟いた。

先程から膨らみつづける違和感と、周囲の静かさのギャップが誠一に否応なしに現実を突き付ける。

だからこそ、今おかれている自分の状況に誠一は悪態をつく。


「思ったほど慌てないのね?」

「師匠と回った修行の旅…荒事に慣れたくなかったさ」

「…それはご愁傷様、それよりも…出てきたわよ」


少女の言葉通り、誠一のいる道路の両隣にある建物の間にある緑の隙間から10人程の人影が森の闇から滲み出る様にが現れる。

その姿は誠一の隣に立つ少女の様に全身が黒で統一されている。

しかし、その黒尽めの集団は少女とは違う。

黒を基調とした迷彩柄の服にボケットが多くつけたタクティカルベスト、頭には顔を隠す様なフェイスガードつきのヘルメットをつけていた。

明らかに堅気の人間じゃないと誠一は断定し腹をくくる。


「…来るわ、準備はいい?」


隣に立った少女から誠一は波を感じた。

海岸の波打ち際で感じるような、ゆったりとしながらも力強い波の感覚。

それは彼にとって馴染みのあるモノで自分でも使った業。


「励起!?」

「学術府の辰学院辺りじゃ『励起法』とか言われてるけどね、旧い武術辺りだったら何処にでもある身体強化法よ。それよりも、来るわ相手も励起法を使ってくるから励起法を使った方がいいわよ?」

「なあ、一つ聞いていいか?」


今の状況での疑問、誠一には色々と聞きたい事があった。

少女は一体何者なのだろうか?

自分は何故襲われているのだろうか?

襲ってくる周りの奴らは一体なんかのか?

疑問に対する不満は尽きることなくグルグルと誠一の胸を回っていた。

しかし、状況はそれを許しそうにないと理解した誠一は喉まで出そうになったがソレを飲み込み聞いた。


「君、名前は?」


とりあえず隣に立つ少女は敵ではないと思い、誠一は名前を聞く。


「彩、折紙 彩よ」


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