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変わる世界  作者: オピオイド
89/90

アマテラス

部屋の中が光で溢れていた。

その部屋は八咫で出されているアクセサリーの工房。

工房の中はアクセサリーの材料となるマテリアルが、所狭しと並んでいた。

それは店を開きたいと言った明日香に対して、風文が用意したモノ。

当初は明日香もこんな量は使い切れないとは思っていたが、創作欲やインスピレーションが湧く最近では彼の先見の明に頭が下がる勢いらしい。

そんな雑多な部屋の一画、マテリアル達の中心。

明日香の作業台の上から光は溢れていた。

最近の手作りシルバーアクセサリーは、結合剤と水を混ぜ込んだクレイシルバーを形作り高熱で焼く事で出来るのが主流になっている。

しかし、明日香の作り方は少し違っていた。

その光景を部屋の壁際で見ていた誠一は、明日香の手元を遮光サングラス越しに興味深く見つめる。

明日香のシルバーアクセサリーの作り方は古い。

方法は溶かした銀塊を鋳型に流し込み、彫金やヤスリがけする事で出来上がる。

昔ながらの方法、しかし完全には違う。

その工程には彼女の能力が使われているからだ。

明日香が座る作業台の上には光が溢れていた。

作業台の上には、四方からレーザー光が明日香の手元をに集まる様に発振機が設置されている。

レーザー光は明日香の作業しやすい高さで交わり、その交わった上では銀塊が『光に支えられる』様に浮いていた。

これが風文に強力な能力と言わしめた明日香の能力『天之加久矢(アメノカクヤ』。

その能力は『光の性質変化と操作』と言う、単純ながら恐ろしい能力。

何故恐ろしいかと聞かれたならば、まず光と言うモノを簡単に説明しよう。

光とは皆さんの身近にあるものだ。

太陽から降り注ぐ光が身体を温め、動植物を育む。

光があるから人は物を見る事が出来、活きる事が出来るのだ。

しかしその実、光と言うモノを知らない人が多い。

光とは簡単に言えば粒子と波動をの性質を合わせ持つモノと考えると解りやすい。

粒子とは粒である、光の粒子はとても小さく質量(重さ)はない。

波動とは波である、これは形のないエネルギーと一緒で仲間には紫外線や電波、X線や放射線でお馴染みガンマー線やベーター線がある。

上記二つを合わせ持つモノと考えて貰えれば解りやすいかもしれない。

実際はヤングの実験、コンプトン効果や光電効果の実験を交えると証明しやすいのだが、ここで語ると大学の講義並みになるので割愛させてもらいます。

話を戻そう。

彼女の能力は光の性質を変化させる、それは光の粒子としての性質と波動としての性質。

具体的に言えば波動の波長操作・粒子の性質操作。

とまあ、この説明もやり過ぎると完全に専門的な話になる上に、訳が読み飛ばされる可能性が高いので結論をだけ言おう。

彼女の能力は『光を自在に操る』能力。

その力は光に質量を持たせペンライトをミニ粒子砲にしたり、周囲の光を電子線に変えて即席電子レンジを作ると言う恐ろしいモノだ。

その説明を聞いた後に見る今の光景に、誠一は幻想的ですらあるなと心で呟く。

レーザー発振器から発せられる三条のレーザー光に中空で支えられた銀塊が、全方向・色とりどり様々な光が銀塊の表面を削ってシルバーアクセサリーを削り出しているのだ。

明日香本人から聞いた恐ろしさと対極な能力の使い方に、今までの能力の攻撃的な面しか見ていない誠一は胸がすく思いをもつ。

そうこうしていると光がおさまり、そこには数個のシルバーアクセサリーが浮いていた。


「終わりですか?」

「今日の大量発注分はね。能力使って作るのは早いけど精神的に疲れるー」


はあーっと明日香は椅子の背もたれに体重を預け背伸びする。


「ごめんねー私に付き合わ、ううん、巻き込んじゃって」

「いや、風文さんの依頼は俺たちも渡りに船だったんで。学校の方も桂二が何とかしてくれたんで」


実際に桂二は誠一の姿をした式神をうって、出席日数が足りない誠一の代わりに式を学校に行かせている。

それ以前に彼らの標的に対して一手を打てるのは、誠一の言う通り渡りに船なのだった。


「それでもだよ。学生時代のなんでもないような日々ってのは、どんな事だろうと後から思い出すと大切だったと感じるものよ。ふふっ、年寄り臭い?」

「いえ、明日香さんはまだ若いじゃないですか」

「そぉ?」

「魅力的な素敵な女性だと思います」

「ふふっアリガト」


顔を赤くしながら誠一は言う。

その顔を見た明日香はとても楽しそうに笑っていた。


「からかわないで下さいよ」

「ごめんねー、誠一君かわいいから」


楽しそうに笑う明日香。

余裕がある年上の女性と言うような華やかな笑顔に、誠一は顔を平静に保てない。

しかし、


「一つ聞いて良いですか?」

「ん、なーに?」

「今見ていたんですけど、明日香さんは何故護衛を?」

「ん? ああ、護衛を依頼したのは幾つかの理由があってね」


明日香が言うには護衛を依頼したのは、彼女の能力は強すぎる為にある。

考えて貰えれば解るが、秒速30万キロメートル光の早さで粒子が来るのだ。

弱い能力の集団とて十把一絡げに一掃する、オーバーキルも良いところである。

それとこの作戦は『囮作戦』である、強すぎる力は恐怖を呼び逆効果にしかならない。


「でもね、そんな事は些細なの。実は私はね、神域結界の範囲が広い分、励起法の最大深度が低いのよ」

「低いって、どれくらいですか?」

「えっと、重金教授の励起法の深度指数で言えば最大で3、安定値は2.6かな?」

「それは確かに……」


誠一は言葉を濁す。

重金教授の統計によると、能力者の励起法指数の全体平均値は最大値で約4〜5、安定値は3.5と言えば解って貰えるだろう。

最大値が天音・誠一の6、彩の5.5と比較して貰えれば解りやすいかもしれない。


「強い相手が来たら能力で戦うしかない。そうしたら……」

「問答無用で殺すしかなくなる訳よ。相手が相手だからそんな事言ってられないんだけどね。だけど、出来るだけ手をかけたくないわ」


物憂げに俯きながら語る明日香に、誠一は彼女の肩に手を置く。


「大丈夫です」

「えっ?」


明日香が目を上げると、誠一の強く輝く瞳と重なる。


「俺が貴女に能力を使わさせません」


強く輝く目だが、その光には何処かしら気遣う様な優しさがある。

それを感じとった明日香は内心ふふふと笑う。

明日香が人を傷付ける事に対して忌避していると考え気遣う事に嘲りではなく、汚れている自分を気遣う彼の真摯さに純粋に嬉しいと思ったからだ。

作戦の最終段階の事にその考えは変わるかもしれないが、明日香は黙って心からの言葉を満面の笑みで返した。


「ありがとう」

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