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変わる世界  作者: オピオイド
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役割

高見原中央区と桜区を貫く、大きな幹線『産屋通り』。

森が深い高見原では珍しい、大きな幹線道路だ。

その道路上、中州にある桜区を繋ぐ桜大橋の近くに、その店はあった。


『アクセサリーショップ 八咫(やた)


川端公園の入り口の向かいにある商店街に続く小道、その一画にある民家を改造した様な、こじんまりとしたパステルカラーのファンシーな店だ。

白いガラス窓から見えるディスプレイされた商品は、色取り取りな小物やアクセサリーの数々。

ピンクのカバのガラス細工や卓上を飾る雑貨。

中でも目を引くのは店の奥に飾られたシルバーアクセサリーの類だ。

普通シルバーアクセサリーと言えば、男性が身に付ける様なイメージがあり銀の色としても女性にはあまり向かない。

しかし八咫にあるアクセサリーは少し違う。

デザインの種類やデザイナーのセンスなのだろうが、線の細く柔らかく暖かいイメージが浮かぶ作品ばかりだ。


「わぁーこれ可愛い!」


シルバーアクセサリーを手にとっている女子高生達が、きゃあきゃあと騒ぎながら話していた。


「あーあった! ねえ、コレじゃない?」


その中の一人が黄色い歓声を上げながら、見つけたモノを皆に見せる様にだす。

それは銀で作られた『三本足のカラス』が、葉がついた枝を持った姿。

実はこれ、最近高見原で流行っている『幸運を呼ぶカラス』のアクセサリー。

女子高生が持っているのはペンダントトップだが、種類は多々ありブローチや指輪など色々あり、それが女性週刊誌に載った事から始まった。

口コミで流行ったのは、高見原出身のアイドルが駆け出し時代に買った、ヤドリギを咥えた三本足のカラスのペンダントを『幸運を呼ぶペンダント』として有名雑誌の取材の時に話した事から。


「これ最後の一個だ…どうする?」

「るぅちゃんが買いなよ」

「えー、いいの?」

「私達はいつでも買える、でもアンタ転校するんだろ? だったら」

「みんな………」


淡い青春の一ページ、女の子達の友情の一幕を横目に、店番をしていた誠一。

彼は肩身の狭い思いをしながら、確かにこの傾向はマズイなとチラリと店の奥で、今の話を聞いて急いでカラスのアクセサリーを作る日向明日香を見て溜息を吐いた。



三日前 桜区石下『時枝鍼灸院』



「俺に依頼ですか?」


襖を叩く音の後、現れたのは柔らかく笑みを浮かべる金髪の青年。

東洋人の血が入っている顔付に妙な親近感を誠一は感じながら、先程彩から聞いた彼の経歴、第三大隊の長『三剣風文みつるぎかざふみ)』を思い出して身を震わせた。

第三大隊と言えば、いつぞや桂二が言っていた事を思い出す。


「第三大隊って言えば、たしか桂二の」

「そうだ、情報部中隊長・七瀬桂二の上司になる。あいつの呪禁術の師でもあるがな?」

「あんたが⁈」


目の前の男が友を裏の世界に引き込んだ一人と認識して誠一は一瞬激昂しそうになるが、前日の戦いの後に今までの事を桂二自身から聞いていたため怒りを抑えた。

桂二の話を聞くからには、自業自得としか考えられないからだ。

ただ、力がなければ引く可能性もあったから、力を与えた風文に恨み言の一つも口にしようとした瞬間、彩に手を掴まれ我に返る。


「駄目よ、相手は悪魔の様に口が回るんだから」

「オイオイ、酷いな人を悪魔扱いか? せめて意地の悪い大人くらいにして欲しいな?」

「さほど変わらないわ」


喧々囂々と続く舌戦、彩は厳しい目で見ているが傍から見れば仲の良い兄妹喧嘩にしか誠一は見えなかった。

恐らく風文が浮かべる優し気な笑顔がそう思わせるのだろう。

しかしながら、話が進まないのはどうだろう? と誠一は先程の思いを飲み込んで二人の口論を止めるべく口を挟んだ。


「ちょっと、二人とも話を続けていいかな?」

「あっ…ゴメン」

「ふふっすまないな、話を戻そう。今回君、と言うか君達に頼みたい事がある」

「頼みたい事……ですか?」

「ああ、さっき会った女性覚えているか? 彼女の護衛を頼みたいんだ」

「護衛ですか?」


ああ、と風文は頷き詳細を話し出す。

女性の名前は『日向(ひむかい) 明日香(あすか)』、高見原に住む能力者の一人である。

ただ彼女は唯の能力者ではない、数年前に飛騨高山にあった研究所から助け出された実験体の一人。


「実験体って⁉ まさか、」

「ああ、君達の追ってる相手、桃山財閥が所有する研究所の一つだ」


風文によれば明日香は普通の能力者ではないらしい、詳細は話してはもらえなかったが、かなり強力な能力を持つらしい。

それに気付いた研究所が明日香を拉致し、実験体として扱った。


「そこから救出して保護プログラムに沿って保護していたんだがな……、あのバカよりにもよって雑誌に載りやがった」


保護プログラムとはアメリカなどで裁判の時、重要な証人が危害や殺害されない様に護るプログラムだ。

このプログラムは証人を護るためにある、基本的には証人を人目につかない離れた場所で目立たなく暮して貰う。

しかし隠れて生活している最中、ここで重度のミスが発生する。

それが風文が言った雑誌に載るだった。


「普通の会社に偽装したウチの会社に勤めていただけなら良かったんだが……趣味の範囲でやっていた銀細工がインターネットのブログで紹介されて、それを取り上げられて雑誌に紹介されてしまってな」

「雑誌の差し止め出来なかったんですか?」


彩が意外そうに聞けば、風文は苦虫を噛み潰した様に顔を歪める。


「タイミングが悪く、重要な作戦中が重なった時でな。情報が上がった時は掲載された後だった」

「だとすれば、また隠した方が良いんではないんですか?」


そう誠一が聞けば風文は頭を振る。


「どうもハウンドの連中も嗅ぎ付けたらしくてな、追跡されたら面倒なんだ。会社を潰さないと断ち切れん……解ってるか? 明日香‼」


風文が語気の強い言葉で、襖越しに言うとガタガタと揺れる隣の部屋。

音が収まると同時に襖が開き、先程みた黒髪を銀のバレッタで纏めた女性が現れる。

肩までの癖のある黒髪を三本足のカラスをモチーフにした銀のバレッタで纏め、下付きのフレームの奥には普段ならば優し気な眼差し。

しかしながら、今その眼差しは気まずそうに伏せられていた。


「は、はい~」

「まったく…勝手な事をするなと言っただろうが。だが、これはチャンスでもある」

「チャンス?」

「ああ。これは明日香とも相談してとった作戦だ。我々、第三大隊は攻勢をかける」


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