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変わる世界  作者: オピオイド
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副話 意外な出会い

書類片手に篠崎(しのざき) 莉奈(りな)は、サイファ学園都市の研究室棟をハイヒールの音をたてながら歩いていた。

表情は暗く引きずる様な足運びは、死刑台へと続く廊下を歩く受刑者のようだった。

彼女の心境を考えれば、それは解らなくもない。

なぜならば、彼女が今いる場所には彼女が苦手な人間が二人いるからだ。

一人は多々良教授、以前上司から出向を命じられた時に過労で死にかけるかと感じた相手。

もう一人は重金教授、今いる第三大隊に来た時に上司が教育にと呼んだ『智神』として名高い人物だ。

今でも重金教授の授業を受けていた頃を思い出すと、莉奈は震えがくる。

知識の暴力とはこう言う事かと呟きながら、朝日を浴びながらベッドに倒れ込んだのは莉奈の記憶にも新しい。

とは言え一番苦手な相手は、上司たる風文だったりする。

しかし、苦手な相手だからと言えども会わない訳にはいかない。

そんな原因が彼女の足を遅くしていたが、唐突に引きずる様な足音が止まる。

莉奈の前には『物質波動物理学』と書かれた扉。

ついてしまったからには仕方が無い、莉奈は浮かび上がるトラウマに数度逡巡した後、意を決して扉を開いて閉じた。


「………」


開いた瞬間、莉奈は見てしまった。

真っ黒く字で染まったホワイトボードとペンを持った重金教授。

それと撃沈寸前の日本人ではない、年は同じ位の女性二人。

女性は良い女性は。

問題は、教授がペンを持ち教鞭とっている事だ。

莉奈の最近の忘れていたかったトラウマが掘り返される。

短期集中学習と称して、休み時間・睡眠時間なしで二十四時間一週間授業を受けさせられた。

眠いと言えば無理矢理起こされ、体力がと言えば励起法で回復させろと言われ………。

思い出した地獄にグラリと身体をよろめかせた莉奈は、クルリと身を翻す。


「あー……帰ろう。私は何も見なかった、ウン」

「どこに行く」


もと来た道にとって返そうとした瞬間、莉奈の肩が掴まれる。

デスクワークの仕事が主な筈なのに、万力の様に掴んで離さない重金教授の手に、莉奈は顔をひきつらせる。


「ちょうどいい、今からテストだ。君もやって行くと良い。なに、前回と同じ試験範囲だ、簡単だろう?」

「ちょっ、前回とって‼ 範囲は六法全書五冊分っっーー助けてーっ‼‼」


莉奈の叫び声だけが廊下に響く。

『波動物理学』教室前廊下、別名『沈黙の廊下』。

その教室の前では、誰しも口を噤み避けて通る。

何故ならば、その教室の主に見つかったら最後、知識の暴力にさらされるから。

タイミングの悪い莉奈に合掌。




「「あー………」」


誰ともなく、ため息混じりの安堵の吐息が一つゼミ室に響く。

と思ったら同じような溜め息は示し合わせたかのような二つ。

莉奈は思わず溜め息がした方をみると、碧眼の綺麗な瞳と目があった。

視線を外すとくすんだ色をした金髪をポニーテールにした女性。

顔付きは典型的な欧米人の顔付きだが、パッチリとした瞳がやや幼さを醸し出し綺麗なと言うより女性を可愛らしさに見せていた。

と、ここで莉奈は顔を凝視している自分に気付き、誤魔化す様に挨拶をかわす。


「えっと、日本語の問題解けてたから、日本語解るよね? 私は莉奈、篠崎莉奈」

「えっ⁉ ああ、私はフローリア。フローリア・フラメンス」


なぜか二人は熱く握手をかわす。微妙に二人の間には、同情や共感を超えた死線を潜り抜けた戦友じみた友情の様なモノがあった。

とは言え会ってから二時間しかたっていないので、話が続かない。

ここでフローリアは、莉奈の持っていた書類の入った茶封筒に気付く。


「リナはここの職員? プロフェッサーに書類を持って来ていたみたいだけど」

「ああっ違うよ、私は外部から。ちょっと私の生検(生化学検査)の結果を見てもらいたくて」

「生検? 何処か身体が悪いの?」

「えっあー悪いったら悪いかな?」


麻痺した頭で喋っていたら、ついこぼしてしまった言葉。

莉奈は少し陰のある笑い顔で誤魔化す様に返す。


「外部からだったら忙しいんじゃない? プロフェッサーに早く見せた方がいいと思うけど」

「…うん、そうだね。私もそう思う、ありがとう」


言われる程に忙しくもないが言う事も尤もなので、莉奈は感謝の言葉を口にすると淨が添削しているであろう部屋へと足を向けるべく立ち上がった。

その時だった、慣れないハイヒールに足を縺れさせたのか書類をばら撒く様に倒れる。


「アイター」

「大丈夫?」

「大丈夫、励起法が間に合ったから怪我はないんだけど…」


ぶつけた膝をさすりながら立ち上がると、パンストが派手に伝線していた。


「あー新しいのに換えなきゃ」


莉奈はばら撒いた書類を集め、新しいパンストを鞄から取り出すと、そそくさと部屋からでていった。

眉間に皺を寄せたフローリアを残し。

それに気付いたのは、過酷な教育でぶっ倒れていたリュシオール。


「フロー、どうしたの?」

「何でもない。多分気のせい」


フローは、ばら撒かれた検査結果に気になる記述を見付けていた。

それは『PRCー48』、別名スレイブ因子と呼ばれる悪意の固まりの言葉だった。


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