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変わる世界  作者: オピオイド
80/90

絶技 後編

少々遅れました。

申し訳ありません。

「何を目的として、どう言う鍛練かが全然わからない」

「まあ、奥伝クラスの技を見て良いなんての言う位だから解らないと思ったけど、本当に解らないわ」


思惟と誠一の戦いを見ながら彩と天子は呟く。

さもありなん、傍目から見れば一世代前のカンフー映画の様にしか見えないからだ。


「ルーキーじゃ解るのはそれ位か」

「むー、だったら第三隊の司令殿はどう見るんです⁉」


売り言葉に買い言葉の様に、天子と風文の言葉が飛び交う。

ちなみに二人の険のある会話に巻き込まれないと、彩と明日香は縁側の隅に退避している。

さて話は変わるが、肉弾戦に置いて強さの指針は何だと聞かれれば大体の人間は、体格や筋力と答えるだろう。

それは概ね間違っていない、それは身体の持つ純粋かつ原始的な力だからだ。

しかしそれは普通の人間の話で、能力者には当てはまらない。

何故ならば、能力者には励起法があるからだ。

話は突然変わるが、励起法にも弱点が二つある。

一つが励起法使用している間の肉体的な成長が一切ない事。

これは励起法効果の一つアブソリュートホメオスタシス(絶対的生体恒常性)が原因で、身体を常に励起法により強化した状態に維持する為と強化状態から通常状態に戻った時の成長率の低下からなる。

そしてもう一つは励起法に頭打ちがある事だ。

励起法のレベルは深度で現され、深度一が励起法を行わない通常状態・深度二が普通の人間がオリンピックに出る様なトップアスリート並の肉体まで引き上げると言うのが能力者達の共通認識。

しかし、その深度には頭打ちがあり、最大深度は八である。

何故頭打ちがあるのか?

それは最大深度の別名、『限界深度』がすべてを物語る。

結論から言おう、最大深度を超えると身体が持たないからだ。

身体を構成する原子単位での調整を行い、神域結界が作る空間エネルギー差を利用し莫大なエネルギーを作り増幅させるのが励起法の正体。

しかし、いくら身体を強化しようとも、身体が扱えるエネルギーには限度がある。

それが限界深度だ。

ここまではただの解説見えるだろうが、実はこの限界深度が能力者達が武術を使う理由となる。

それは一人一人の身体は同じではないからだ。

思惟と誠一の体格を見て見ると良く解る、誠一の身長は大体175センチ程の中肉中背。

対する思惟の身長は158センチの細く小柄な身体だ。

ここで考えて見て欲しい。

思惟と誠一、二人が同じ深度で励起法を行えばどちらが強いのかと。

答は簡単、誠一の方が高いはずなのだ。

では何故二人は普通に打ち合えるのかと言えば。


「思惟の奴が手を抜いて合わせているせいもあるが、二人の打ち合いには意味がある。それは戦術、技の組み立てだ」

「技の組み立て?」

「ああ、一撃一撃の技の威力はあの少年の方が上だろう。むしろ能力者の間でもトップクラスどころか上から数えた方がいい。しかしながら、聞いた話によると上位能力者や相性が悪い相手には苦戦しているみたいだろう? それが彼の弱点なんだろう。」

「弱点? 必殺技の伝授じゃないの?」

「馬鹿者、ゲームや漫画と混同するな」


世界中の武術において、秘儀や奥義クラスの技で漫画やゲームの様な単体で使える技はほとんどない。

威力の大きい技と言う物は、動きが読まれやすく技の直後の隙が大きくなりやすいのが常である。

では、それを補うにはどうするかと言えばと言えば、技の組み立ての中に組み込めば良いのだ。


「今までの少年は技の意味を知らずに、ただ流れで打っていたに過ぎない。それを正すと同時に、絶招を教え組み込むつもりなんだろう」







誠一は唯々頭が下がる思いだった。

思惟は誠一の技を振るう度にズラし・打上げ・反らし・誠一の技が当て難い立ち位置へと流れる様に移動したりと、あらゆる方法を使い無力化していく。

それはあたかも誠一が足りない戦術を伝えるかの様に、思惟の拳が一撃また一撃と誠一の身体へと打ち込まれる。


「ハアァァッ‼」


誠一もそれに応える様に、一撃また一撃と思惟に受けた技を同じ技を仕掛ける。

打ち合いが段々早く精密に、戦術が磨かれ複雑な駆け引きへとなっていく。

それはボクシングで言う所のミックスアップを利用した、思惟の計算による誠一を急成長させる策だった。

思惟の思惑は大当りし、誠一の実力が秒単位で引き上がる。

打ち合いが千を超えたくらいだろうか、思惟が笑みを浮かべながら誠一から間合いを開いた。


「先生………?」

「誠一。防御や反撃は良いけど、力を抜きなさい。決して入れちゃ駄目よ?」


同時に変わる思惟の雰囲気、それは誠一が今まで感じた事がない必殺の気合いだった。

誠一は言われた様に身体の力を抜く、それを確認したと共に思惟がユックリと自然に歩く様に見えながらも一息で誠一の懐へと入り込む。


「ッッ!!」


驚きながらも誠一は右肘を巻く様に打つ『龍鎚』を放つが、何気もなく半歩だけ下がった思惟にかわされる。

追撃とばかりに放たれる左中段突き、それも思惟は身体を回転させ誠一の腕にくっ付く様に背後に移動する。

体勢を整える為に身体を翻すが、もう遅かった。


「いくわよ」


呟く様な一言、その言葉に含まれた恐ろしさに反射的に力を入れそうになるが、誠一は意思の力で無理矢理力を抜く。

同時にトスンと誠一の腹に添えられた思惟の拳が、爆発したかと間違える程の衝撃が身体を駆ける。


「ゲフッッ」

「完全に力を抜ききれなかったか………これが二つある絶招の一つ『龍声(りゅうせい)』よ」


今までに味わった事のない衝撃と、思惟の声を聞きながら誠一は倒れた。

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