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変わる世界  作者: オピオイド
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普通とかけ離れた青少年の悩み

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誠一が師事する拳法の達人、それが彼女『時枝(ときえだ) 思惟(しい)』だ。

彼女と誠一が出会ったのは、数年前にあった『高見原デパート篭城事件』。

当時、政令都市になる前の高見原は人口の急激な増加に従い、犯罪率も鰻登りに跳ね上がっていた。

それはただ犯罪に手を染めた人間が増えて跳ね上がっていた訳ではなく、組織で動く犯罪者達が大量に流入している事でもあった。

そんな中で起きたのが『高見原デパート篭城事件』。

当時出来たばかりのデパートの集客の為に行われたイベントに、『世界の宝石箱』と言うモノがあった。

世界中の宝石と装飾品を展示すると言う、ありきたりな目玉イベントだ。

ありきたりだが展示するモノは一級品ばかりで、文化遺産の様なモノから歴史に関係あるモノまで様々。

そんな理由から当時小学生だった誠一は課外授業の為にその場に訪れていた、ちょうど外から来ていた国際的な窃盗団と鉢合わせる様に。

今でも誠一はあの時の光景は忘れない。

泣き叫ぶ同級生、犯人達の怒号や銃声が響く中、自分の方に背を向けたとても大きく見えた小さな背中を。



「今日は貴方に教える事があってきたのよ」

「教える事……ですか?」

「そうよ、見たわよ今日の戦い。まだ若いけど、相手が『あの』第三隊の小隊長にまともな一撃を与えさせないのはよろしい‼」

「みっ見てたんですか⁉ て言うか、知ってたんですか?」

「知ってるも何も、第三隊の総隊長『三剣(みつるぎ) 風文(かざふみ)』は十年来の顔馴染みよ。この高見原の地で起きてる事は大体教えてもらってるわ」


その代償に色々仕事を押し付けられたけどねと、声もなく呟く思惟。

誠一が思惟と会わなくなってから約二ヶ月近く、実は風文から色々な仕事を頼まれ彼女は日本全国を飛び回っていた。

だから思惟は誠一に久しぶりと言ったのだった。(時系列的には『試験…それから』から二ヶ月経っています。それから現れなかった理由は『副話 彼等の知らない場所で』と『外話 サイファ学園都市』を参照してください。)

とまあ思惟が最近の事を思い出していると、誠一がやや俯いているのに気付いた。

どうしたのかと思惟が声をかけようとした時、ガバッと思惟に振り向いた。


「先生‼」

「えっあ、はい? なに⁉」

「俺はっ」

「チョット待って、座って話そう?」


何か言いたそうな誠一を引きずり、思惟は神社の縁側へ移動する。

ちなみに彩と天子は誠一の様子のおかしさに気付き、何時の間にかに消えていた。

思惟としては少しはなれた茂みに隠れている気配からいるのを知って『若いな~』と思っていたりする。


「で? どうしたの? そんな顔して」

「戦いに、迷いがでるんです」

「迷い? 人を傷つけるとか?」

「いえ………以前先生は話してくれましたよね、最強の拳士の話」

「ええ、二の打ちいらずの拳士……まさか、貴方ずっと⁉」


誠一が弟子入りして初めて鍛練した日、思惟があまりのハードさにへばった誠一を介抱する片手間に語った、とある拳士の逸話。

今の誠一の戦闘スタイルを見ていて、思惟はまさかまさかとおもっていたが正解してしまい思わず絶句してしまう。

だが、思惟はその事で誠一の悩みに簡単に思い当たる。


「成る程ね。伸び悩みか」


誠一はコクリと声もなく頷いた。

発端は、トラストで円が予知した内容だった。

『死』。

一字なれども文字の持つ意味はとても強烈なモノだ。

誰もが忌避し、恐怖するものだから。

それは戦いに出ている誠一とて例外ではない。

円に言われた死の宣告ともとれる言葉は、自分のみならず彩や天子が死ぬかもしれない可能性を誠一の目前に突き付け、彼の心に否応なくのしかかっていた。

それは桂二が仲間に入り確率的に下がったのだが、決してゼロになった訳ではないのは誠一は解っていた。

だからこそ誠一は、仲間が死なない為の方策として力を求めた。

彩や天子の様な能力に合わせると戦い以外にも使える能力や、桂二見たいに策を弄する力もない誠一に残された役割としてはそれしかなかったのもある。


「と、考えた所で自分の力のなさ……ううん、違うな。絶対的な力、決定打のなさに気付いたのね?」

「…その通りです」


以前から薄々気付いていたが、桂二との戦いで誠一は確信したのだ。

彼はゆっくりと拳を握り思惟の前にかざす。


「自分は拳を振るってきました。先生に出会ってから毎日欠かさず、ずっとです。だからこそ自分の拳には自信がありました。最強の拳士程ではなくとも、それに近付いているくらいは………」


最初は彩だ。

彼女の動きは誠一にとって初めての投げ技や組み技、捌きを専門とする相手で、彼にとってはとても相性が悪い相手。

誠一の自信を一番揺らがしたのは赤色の変態パッションレッド。

かの変態は初見であるはずの誠一の本気の一撃を、能力も込みだが見事に防ぎ切った。

そして誠一が悩む決定的になったのは、数時間まえの桂二との戦い。

彼は能力者ではないのに、誠一と違った武力で一時的でも捌き切り、目的のみを達成する事により誠一から勝ちをもぎ取った。


「戦いは自分に教えてくれました、戦い方には色々な形があり、勝ち方があると。だけど、自分は拳を振るう事しか出来ないだから先生に教えて欲しいんです。今のまま俺は強く成りたいんです、全てを守れるとか大それた身の丈に合わないモノじゃなく、仲間を守れる力が欲しいんです‼ だから先……生?」


真剣な顔をして力を求める誠一が思惟の方を見れば、彼女は面白そうに笑っていた。

その顔に誠一はポカンと張り詰めていた気が抜ける。


「フフッ、要するに今の戦闘スタイルを崩さずに強くなりたい。そういう相談ね?」

「えっはい」

「必死な顔して……最初に会った時はちっちゃな子供だったのに、男の子してるわねぇ」

「先生っ茶化さないで下さい‼」

「ゴメンゴメン。茶化してないわ、ちょっとした感傷よ」

「先生………」

「男の子が、そんな顔しないのよ。しかし、タイミングが良いわ…」


思惟に遊ばれ様に感じたのか誠一は軽く涙目になっていた。

それを諌め軽く誠一の頭を撫でながら縁側から飛び降りると、彼女は彼に向き直る。


「さて、私の用件も聞いてくれるかな?」

「先生?」

「私の用件はね、絶招を貴方に教えにきたのよ」


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