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変わる世界  作者: オピオイド
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研鑽と困惑と

「で? それから?」


ズシンズシンと人の足が音をだしていると、よもや思わない程の石畳を踏む音をだしながら誠一は、神社の本殿の縁側に座る二人に聞いた。

その二人は壁に身体を預ける彩と、その彼女に寄り掛かり微睡む天子である。



高見原市 桜区石上町 石上神社 境内 午前5時



「何がなんだか解らないまま、戦闘跡やロープを片付けて解散。後で連絡するって言ってたけど、どうやって連絡するのやらよ?」

「ハハッ、それは大変だったね。でも、二人に怪我がなくて良かったよ」

「それとは別にプライドとか色々なモノが傷付いたけどね、それより桂二君は大丈夫なの?」


そう彩が気だるそうに聞くと、誠一は苦笑しながら答える。


「彩さん、俺の心配は?」

「私の励起法を使った本気の打ち込みを平然と受け止める人に心配はありません」

「ヒデェ…あいつも一般人じゃないのに、なんか俺扱いが悪くないか?」

「もう、ブツブツ文句を言わないの」


口を尖らせ不満を呟く誠一に、彩が笑いながらたしなめる。

彩の目が笑っているのと、文句を呟きながらも誠一の套路は力強く淀みない所から、二人の会話は遊んでいるだけだと解る。

心配していないのではなく、お互いを信頼しているのが解る会話。


「桂二の奴は家に帰って寝るってさ、『能力者の無尽蔵な体力と比べるな』だそうだ』


確かにと苦笑を浮かべながら彩は頷く。

励起法の乗数強化は伊達ではない。

強化するのは誠一のバカ力や天子の速度などの分かりやすい目に見えるモノだけではなく、身体の頑健さや体力・回復力など身体能力に関する事が、『飛躍的』と言う言葉が霞む程引き上がる。

桂二がボヤくのも無理はないのだ。

しかしながら、その励起法でもカバー出来ない所がある。

誠一は套路を行いながらチラと天子を見る。


「でも、その相手は蒼羽をそんなに疲弊させる程に強かったのか?」

「ハッキリ言って二人掛かり、全力で相手をしてようやく互角に持ち込めるかどうかね」

「彩さんにそこまで言わせるなんて、余程の相手だな」

「正直、一人の時に相手したくないわ」


そう言って彩は頭のなかにあった考えを振り払う様に頭をふった。

霧島双葉が最初にいった『稽古をつける』と言う言葉。

それと彩がいま思えば、途中から双葉が少し本気を出していたとは言え、彼女に彩達に対してほとんど殺意がなかったのは確かだった。

剣の動きや戦術、力や速さは確かに驚異的で圧倒的だ。


「だって………」

「相手は切り札たる能力を一切使わなかったものね~」

「起きたの?」

「いまね~。んーっヤッパリ励起法使って寝るとスッキリするわ~」


聞こえない小さな彩の呟きに応えたのは、身体を預けて寝ていた天子だった。

彼女は身体を起こしウーンと背伸びすると、勢いをつけて縁側から飛び出る。


「どう言う事だ蒼羽?」

「天子で良いよ誠一君。私達が戦っていた時に違和感を感じていたんだよ」

「違和感?」


フフンと笑いながら、天子は感じた違和感について説明を始める。


「誠一君も知ってるよね? 能力者が能力を発する場合の前提条件」

「あー、確か励起法と神域結界だったかな?」

「そう、間違いないよ。その二つが起動してないと、能力者は能力を使えないんだ。識者・導士・法師と展開の仕方は色々あるらしいけど、基本はその二つにあるのは確からしいよ」

「へ~、天子は詳しいな」

「能力者戦闘において知識は大きなアドバンテージになるからよ」


誠一が感心していると天子が照れ笑いを浮かべ、彩が補足する様に言葉を継ぐ。


「戦っている時に違和感を感じていたのよ。霧島一族の能力は当然ながら誰も知らない。能力者だから能力の隠蔽は当たり前だからね? だから、最初私達はあの圧倒的な力の差は霧島双葉の能力が関係していたと思ってたのよ」

「でも違った?」


誠一の言葉に彩は指を組みながらコクンと頷く。


「あの時は一つのミスで命取りって状況だったから気づかなかったけど、思い起こせば解る。あの人、励起法は使っていたけど神域結界を使ってない」

「それって、俺みたいな神域結界が身体限定の身体能力増幅系能力者の可能性は?」

「それはないと思う。誠一君の能力でも私達識者は感知出来るんだよ?」

「それだけ本当に手加減されていたのよ………何て屈辱だわ………」


余程悔しかったのか、彩はギリギリと歯を軋む程噛みしめた。

彩が珍しく弱っていると思ったら、そう言う事かと誠一は納得する。

それに気付いた天子はスススッと誠一に近付くと、頭一つ分背が高い誠一の耳に背伸びして口を寄せると囁く。


「どうもそれだけじゃないみたいんだ。最後に出て来た彩ちゃんの武術の先生が関係している見たいなの」

「先生?」


裏の世界は、光の当る表の世界より広く深い。

様々な人間がいて、それぞれ色々な事をする人間がいるのは表の世界同様だ。

だからこそ新参の誠一はともかく、それなりに踏み込んだ天子や彩は裏の世界の深さや底の知れなさはよく解っていた。

そんな二人だからこそ知名度の高い『二つ名』持ちの恐ろしさを知っている。


「私の先生も『雷神』とか『ファントムミスト』とか二つ名を付けられてるんだけどさ、彩ちゃんの先生も有名人なの」

「それって霧島一族を相手する程?」

「概ね間違ってないかな? 『潰滅の守部』『サプレッサ』とかの二つ名がついている位だから」


また物騒な二つ名だと誠一は顔を歪ませる。


「しかも、その相手が最後に言ってたのが『次会った時は敵』発言でしょ」

「最強の敵が立ちはだかるってことかな?」

「大体がそんな感じ」


小声の会話が終り二人して彩の方を見れば、縁側で唸りながら悩む彼女の姿。


「俺達は何と言えないな」

「そうだね~」

「する事はあるわよ?」


突然かけられる声、誠一と天子は驚きながら振り向くとそこには紺色の作務衣の女性が瓢箪を持って立っていた。


「せっ先生⁉」

「誠一君の?」

「えっ⁉」


三人とも突然現れた人物に驚き目をやる。

誠一は最近全然顔を合わせていない師に驚き、二人は識者の感知能力にかからず突然現れた人物に戦慄しながら。


「久しぶりね。日々の鍛練は怠っていないみたいで良しね」


そこに居たのは誠一の師である、時枝(ときえだ) 思惟(しい)だった。


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