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変わる世界  作者: オピオイド
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迎えるは山神

能力者の一族は日本だけではなく、世界中に存在する。

代表的な所で言えば、ドイツのバーンブルグ家やフランスのブランケット家・イギリスのフレイザー家などだろう。

しかしながら、能力者の一族が一番多いのは日本である。

理由はあるのだが、今回は本篇と関係ないので割愛させていただく。

その日本に数多くある能力者一族の中でも、とある任を受けた旧い一族がある。

天狗の末裔とされる『風神』一族の三剣家、一本多々羅や日照り神を祖とする『鍛治神』一族の多々良家、知識を溜め込み研究してそれを教える『智慧神』の重金一族など。

彼等の目的は『世界の安定』と『世界の危機を封殺』する事だ。

簡単に言うが古くから伝わるこの荒唐無稽な任は、とても大変な実力と組織力と資金がないと無理である。

それを行なう為に作られたのが『里』と呼ばれる、一族の集落だ。



午前0時 高見区ビルディング街中央交差点上空



「てのが、私と兄さんの関係よ」


素顔を曝した漆黒のレインコートの襲撃者ーー霧島双葉きりしまふたばーーの淡々とした口調の説明がおわる。

彼等二人は古くから連綿と続く能力者の一族、その中で血の繋がった兄妹らしい。

彩と天子が彼女の顔を見てみれば確かにそっくりだ。

鋭さのある葵の切れ長の目と、彼女の鋭さがあるが少し柔らかさがある目元。

葵の固く結ばれた口元と彼女のやや弧を描く楽しそうな口元。

など他にも色々細かい所が違っているが、その姿は瓜二つと言っても差し支えない程のものだ。


「これって、一種の兄妹喧嘩?」

「だとしたら、私達はそれに巻き込まれたって事ね」

「そんな単純な事じゃな~い‼」


葵と双葉の睨み合いそっちのけで話す彩と天子、その言葉に過敏に反応した双葉は叫ぶ。


「私が戦う理由をそんなのにしないでよ‼ 最強の霧島流よ、もっとこう…そう、人には話せない理由があるのよ」

「いや…ねぇ?」

「うん、明らかに兄妹喧嘩だよね~」

「ちっ違うもん‼ 私はねぇ」


完全に戦いの雰囲気は崩れていた。

葵の柄頭に添えてあった右手はレインコートのポケットにあり、完璧に戦う気ではなくなっている。

しかし、彼としてはむしろ好都合ではあった。

葵が所属する『八方塞』は、世界の安定や危機を封殺する事だ。

今現在の双葉の立場を考えれば、剣を振り下ろすのが当たり前になる。

だがその任を持つ彼自身の想いは、妹と戦う事を良しとしない。

組織としての目的と葵自身の思惑が違うと言う理由もあるが、唯一の肉親と切り結びたくないと言う理由もある。

だからこその傍観である…が、葵の手がポケットから抜かれる。

風切り音、しかも大きな物だと解る何かが飛んでくる。


「っ⁉」


一瞬だけ遅れて『音』を感知する天子が飛んでくる何かに気付き、そちらを振り向くと、放物線を描き飛来する灰色の物体。

よく見ると所々が血だらけなのだが、猛スピードで迫るソレを注意深く見る暇はなかった。

天子達はソレの通過線上にあったので方々に飛び散り、葵はその線上に移動する。


「ふむ」


ソレが葵に当たる瞬間を見切り、彼は運動エネルギーを殺す様な見事に捌きソレを受け止めた。


「ガッ、ゴホッゴホッ」

「大丈夫か紫門?」

「ゲガッガッ、ハァハァ…大丈夫だ、少し死にかけたが。時間稼ぎしていたら、危うく膾切りにされる所だ」


飛来してきたモノは人間だった。

灰色のウインドブレーカーを、所々血で赤黒く濡らした満身創痍の姿。

服のいたる所が何かで切られたかの様に切り裂かれ、紫門と呼ばれた彼自身の右手は肘から先が裁断機で切られた様に服ごと無くなっている。


「右手は?」

「回収してある」


紫門は左手を挙げると、そこには明らかに人の右腕と言うモノを掴んでいた。

何でもない様に話す二人の話の内容から言えば、それは多分彼自身の右腕だろうと推測出来る。

その証拠に紫門は無造作に右腕と傷口を合わせると、励起法を行い瞬く間に腕を繋ぎ合わせてしまう。

それを見て驚く双葉と天子。

敵味方と言う解り易い関係の二人が、同時に『オー』と感嘆の息を吐く。

それを見た彩はあから様な溜め息を吐いた。


「あんたらね…」

「いや、励起法も極めればあんな事も出来るんだなーって、ね⁉」

「ウンウン」

「あんた達、さっきまで死闘寸前まで行ってたのを忘れてないでしょうねっ⁉」

「えっ?」

「えっ?」

「何か真面目にやってる私が馬鹿なんじゃないかと思ってきた………」


何それと返される二人の返答に彩は頭を抱える。

彩の能力者としての常識や覚悟が揺らぎつつあり、自分の悩みの答えを探しに帰ろうかなと考えたその時、悩みに答えるかの様に彼女に声がかかる。


「能力者ってそんなモノよ。前も話したでしょう? 能力者とは意志が強く、むしろ頑固なまでにマイペースだって。あんたは生来から持ち合わせたモノもあるけど、能力の特性故に他人の心に敏感だから人に付き合ってあげすぎるって」

「この声はっ‼」

「久しぶりね、三年振りかしら? 日々の研鑽は怠ってないでしょうね?」

「守部師範⁉」


見れば紫門が飛んで来た方向から、何もない空間を踏みしめながら空を歩く小さな人影があった。

身長は彩や天子よりも小さな身体、手足も細く華奢で普通は儚い印象が前に出るのであろうが、彼女の持つ威圧感と力溢れる瞳が相まって真逆の印象を醸し出していた。


「お師匠さん?」

「うん、私の使う守部神道流の師範なんだけど……どうしてここに?」


そこまで言って彩は守部栞が持つ二本の小太刀と短刀に気付いたが、その答えは発されないまま彼女の言葉に遮られる。


「双葉、タイムリミットよ。迎えに来たわ」

「えーもう? もうちょっと兄さんと遊びたかったのにな」

「他人との実力差を考えなさい? こういうのは実力が伯仲するのが一番楽しいのよ」

「へ~そうなんだ?」


そこまでの会話で双葉は大きく跳躍すると、双葉は栞と同じ様に彼女隣りの何もない空間に立つ。


「今回は退くわ、また会いましょう」

「ちょっ師範⁉」

「彩、日々の研鑽を忘れない様にね? じゃないと、次会ったら私達は敵同士になるんだから」


栞はそこまで言うと、跳躍をしてこの場を離れる双葉の肩を掴み姿を消した。

残されたのは臨戦体制を解除した葵達と、展開について行けずに呆然とする天子と彩だった。


「て言うか、一体なんなのよーーー‼」


彼女が思わず叫んだのはしょうがないと言える。



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