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変わる世界  作者: オピオイド
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副話 剣士の師匠

彩と謎の人物が戦っている場所から、5キロ程離れたビルの屋上。

そこの落下防止用の鉄柵の上には、白銀のレインコートを着た長身の男性が立っていた。

彼が見つめているのは、彩達と切り結ぶ細かなデザインが違う漆黒のレインコート。


「………情報の誤りではない? ………解った、引き続き頼む」

「情報は?」

「当初の予定通りで問題は一切ない。予想としてはアイツの『気まぐれ』らしい」


彼の隣で携帯を片手に厄介な事だと肩を竦めるのは、灰色のウインドブレイカーを着た身長175cm位の中肉中背の男。

顔の作りはどこにでもある様な平凡な顔で、整ってはいる顔なのだがどこか覚えられない、そんな印象を持つ人物だ。

彼の名は七凪紫門ななぎしもん、風文達第三大隊と同じく潜入や偵察等を専門に行う『第四隊』の中核たる人物。


「あそこにいる霧島は休暇を挟んで、本来三日後に来る予定だったらしい。所がだ、何があったか知らないが休暇返上して三日早く来たと言う事だ。理由はわからんが、厄介な相手だ」


霧島の人間は気まぐれな変人だらけかと、溜め息を吐く彼の背中は少し煤けていた。

第一〜五隊まである部隊の中で、潜入や偵察等を受け持つ第四隊の紫門は苦労人である。

ただでさえ敵地等で情報を収集する役割をになっているので、彼等の失敗は部隊全員の死に繋がると言う責任がある。

その上に彼の仲間である友人達は、事あるごとに無茶ぶりだと称して良い依頼をしてくるので彼の負担は計り知れない。

気苦労がただでさえ多いのに敵方のイレギュラー、しかもそれが友人の一人であり気まぐれに見える依頼ばかりしてくる『霧島葵』と同じ『霧島』の名を持つ者ならば、ぼやきたいのも仕方がないだろう。


「………霧島の一族の思考は、高速戦闘を身上とする」

「だから状況や状態により戦術が変わり易いか? 聞き飽きたわ!?」

「………」


バツが悪いのか、葵はツツーッとさりげなく紫門を視界から外す。


「はぁ、まあいいさ。能力者のほとんどは例外なく意思が強く、自分の思いや考えに突っ走る傾向が多い奴らばっかりだしな」

「あー………いつも助かってる。感謝してるよ」

「とって付けた様に言うなよ…ったく」


紫門が悪態をついた、その時だった。

バッと二人が同じ方向を見る。

鋭敏な感覚を持つ能力者として感じたのは、凍てつく様な殺気と能力者が使う空間干渉波動。

隠蔽なんて考えていないその力の強さに紫門は舌打ちする。


「チッ今度は何だ!?」

「少し遠くて解らない、気配から考えると状況が変わったんだろう」

「で、お前はどうする?」

「決まってる」


葵の鉄柵の上にしゃがみ込み、陸上競技のクラウチングスタートにも似ている姿を見て紫門はニヤリとしたり顔で笑う。


「行くのか?」

「ああ、いくら同じ流派といえども相手が悪すぎる。弟子を救い導くのも師の勤め」

「………葵。前も言ったが変わったな、お前。良い意味でな?」

「そうか?」

「数年前、お前と初めて相対し戦った頃と比べれば別人だ」


少し楽しげに語る二人。

張り詰める様な空気の中で、二人は日常生活の様に語る。


「だから変わったお前が行きやすい様に、此処は任せろ」

「………頼む」

「任された」


二人の会話が途切れたと同時に、音もなく姿を掻き消す白銀のレインコート。

それを見届け紫門はウインドブレイカーのフードを被り振り返ると、何処からともなく取り出した二本の剣を逆手に構えた。


「………居るのは解ってる、出てこい」


紫門が呟くように言ったと同時に、何処のビルの屋上にもあるであろう大きな給水タンクの陰から小さな影が現れた。


「………何だ、子供か」

「反応おかしいでしょっ!! 何その『気配に気づいたら小さな小動物だった』みたいな言い方!! 深夜のビルの屋上で、子供が居るなんて普通に考えたらおかしいでしよ!! てか、子供って何よ子供って!!」

「………ツッコミご苦労な事だ」

「あんた解ってやってるでしょ」


大声でツッコミながら現れたのは小学校高学年の平均身長、140cm位のとても華奢で小柄な少女。

見た目は明らかに美少女然とした小学生の様な幼い顔付きをしているが、小学生とは思えない所があった。

それは力強く理知的な光を宿した瞳と、身体から吹き出ている様に感じられる威圧感。

明らかに少女どころか普通の人間や能力者には出来ない芸当に、紫門は持った剣を強く握り締めながら気を引き締める。

なぜならば裏の世界では実力が上位に近い紫門といえども、相手が相手だからだ。


「心臓貫かれて死んだって聞かされていたけど、生きてたのね疾薙紫門しちなぎ しもん

「見ての通りさ、ピンピンしてる。足もあるし肌艶もいい。君も元気そうで何よりだ、守部栞もりべ しおり


笑い合う二人は知り合いだった。

古い顔なじみと言う方が近いかもしれないが、二人の間にはその一言では語り尽くされない何かがあった。


「………とりあえず、やり合おうか?」

「あら? 勝ち目のない戦いを避けるアンタにしては珍しいわね?」

「なに年長者としての気遣いさ」

「三十間近だと考える事が多いって事?」

「やかましい、歳の事は言うな。さっきの意趣返しかっ………たく、知り合いで殺し合いはやりづらい」

「どこの世界でもそうじゃない?」

「……そうかもな。でも、」

「避けれる戦いはさける? 昔っから変わらないわね、アナタ」

「性格や主張はそう簡単に変わらないさ」


気楽にすすむ会話の中で、ゆっくりと引き上がる殺気。

ジリジリとひりつく様な空気のなか、二人は臨戦体制に入る。


「さあ私達も、はじめようか?」

「勝ち目が少ないけどやる気?」

「当然だ、数年ぶりの兄妹の再開を邪魔をさせないさ」


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