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変わる世界  作者: オピオイド
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剣×剣×杖

まだテスト中ですが、ちょこちょこと書いていたのをあげます

避けられない危機的な状況と感じた時、人は世界がスローモーションで見えると言う。

それは瞬間的な集中力による、時間感覚の拡大と昔から言われている。

要するに一秒を十倍にして、十秒に感じていると言う事だ。

走馬灯もその一部あり、死ぬと思ったその瞬間に何百倍にも時間感覚が引き伸ばされ人生の追体験と言う学者もいる。

死の間際にしか無いようなその感覚、実は能力者の中でも『識者』では可能な技術である。




(やはり速いどころじゃない!! 限界まで集中して見てても、追い付かない!!)


天子と連携して戦っているが、彩は相手の技量に尻尾を巻いて逃げ出したい勢いだった。

その気持ちは天子も同じだろう、彩が横目でチラと見れば歯を食いしばりながらも木刀を振るっている。

彩と天子が恐れ戦くのには訳があった。

二人とも識者の能力者であり、感知系統は違うが能力者として絶対的な自信があったのだ。

しかし、その彼女達が感知は出来ていても、身体が追い付いていない。

能力者の基本三系統『識者』『導士』『法師』、彼等には能力に沿ったスキルが系統ごとに存在する。

法師が持つ『空間内絶対支配』や導士が持つ『多重平行能力起動』、識者が持つスキル、『身体感覚時間加速』がそれに当たる。

その中の識者が持つスキル『身体感覚時間加速』は、感覚が特化している識者の能力者にとっては能力起動と共におこる当たり前のモノであり、戦いにおいてのアドバンテージとなりうる武器だ。

しかし、今そのアドバンテージが崩れた。


(励起法と能力が合わさって、身体感覚時間はおおよそ75倍。それでも速いって!!)


身体感覚時間75倍、それは目が瞬く時間『刹那』が一秒に感じる速度。

解りやすく言えば一秒が七十五秒に感じる位だ。

本来ならば更に身体感覚時間を100倍以上に引き上げる事も出来ない事もないが、今の彩には無理だった。


(見切るならば引き上げないと無理だ………でも、これ以上引き上げても身体がついて行かない!!)


感覚時間を引き上げても、身体を動かすスピードが追いていかないのだ。

相手のスピードにおいての身体能力が、はるかに上だと彩は思い知らされながら相手の剣をギリギリの危うさで捌いていく。


(………だけど。私はともかく、天子は何とかなるはずなんだけど?)


そう、同じ『霧島神道流』を使う天子のスピードならば、捌くだけではなく反撃も出来るはずだからだ。

しかし、彼女の動きは悪い。

いや悪い訳ではない、攻めあぐねていた。


(速い………けど対処出来ないわけじゃない。なんでだろう? なんで、反撃できない?)


天子は攻めあぐねてる訳ではなく、実は攻められなかった。

目の前にいる、謎の人物が先生と同じ格好をしているからだろうか?

同じ流派の技を使うからだろうか?

天子は驟雨の如く打ち付ける剣撃を受け流し、避けつづけながら考える。

そこである事に気付く。


(………あれっ? これってまさか)


そうそれは自分の師にとても良く似ていた。

剣筋から体捌き、戦術から戦技まで瓜二つと言い切れる程に。

だからこそ天子は気付き、それを確かめるべく行動に移す。


(始まりは鳴る雷、群雲を走る)


天子はワイヤーロープの上にしゃがみ込み木刀を腰だめの居合の型に持つと、そこから抜き放つ高速の抜刀『鳴雷』を放つ。

漆黒のレインコートを着る人物は、フードから見える下半分を嬉しそうに綻ばせると剣を切り上げる様に打ち払う。


(群雲よりのぞくは雲切る雷)


打ち払われた木刀を身体に引き付けると同時に、レインコートの人物と交差するように天子は一気に踏み込む。

踏み込みと同時に打ち込まれる胴薙ぎを剣で受けると、レインコートの人物は前に倒れ込む様に背より迫る木刀の袈裟斬りを避ける。

抜刀『鳴雷』からの歩法『雷』を組み合わせた『鳴雷・貫刃』、そこから返し刀の袈裟斬りの一連の流れ『群雲を裂く雷』。


(走る雷は閃光、すべてを撃ち抜く)


避けられるのは予定調和とばかりに、天子は木刀の切っ先を水平に構え突く。

しかもそれは彩も突破出来なかった神速の三段突き、突き技『雷光』を頭・喉・腹へと突き込むその技は、避けるにも対処するにも難しい上に背中越しから………天子の本気が伺える。

しかし相手はそれを見ずに、頭へは首を喉へは身体をずらし、腹への一撃は振り向き様の切り上げで反らす。


(閃光の如き雷は地に落ち、地を薙ぎ払い天へと帰る)


反らされた木刀をそのままに振り上がった剣を、天子は全力で振り下ろす。

霧島神道流の基本中の基本『落雷』。

同じ流派ならば今までの流れとこの一撃は、簡単に避けられるのは天子には解っていた。

そう、この『一連の流れ』は天子には解っていた。

だから天子は、一連の流れの最後になる技を繰り出す。

打ち下ろしがたった半歩の踏み込みで避けられる、と同時に左右下段からの二段切り上げと共に天子は跳ぶ。

ガキンと鈍い音と手に響く振動を感じながら、レインコートの人物を飛び越え彩の隣のロープに音もなく着地する。


「どういう事?」


それまで手を出さずに、傍観者を徹していた彩が口を開く。


(………多分、私の技量。どこまで神道流の技を使えるかを見ていたんだと思う)

「……様子見って事?」

(ううん、違う。さっき稽古をつけてあげるって言ってたじゃない? あれ多分本気だと思う)

「……ハアァ!?」


彩はあまりの事に声をあげる。

真剣を使い一歩間違えば死ぬような鋭さと重さを兼ね備えた斬撃で稽古、有り得ない事はないだろうが彩は呆れ返る。

それに天子は声にして返す。


「………切り結んでいて何か違和感があって、それから気付いたの。霧島神道流の型『剣連舞』。その始まりを何度も繰り返してるって」

「そう。良く解ったね」


声に目を向ければ、レインコートのフードの下から嬉しそうに頷いている。


「気付いてないかとヒヤヒヤしたわー。でも霧島の人じゃないのに、剣連舞・終の段まで出来てるのはビックリしたわー」


剣連舞とは霧島神道流において、剣を舞う様に振るい剣の振るい方から術理を身体に覚え込ませる一連の流れをいう。

それには八つの大きな流れがあり、天子が行ったのは中でも『終の段』と呼ばれるモノで、一通り教えて貰ったという証明にもなるものである。


「なるほどね、私達の力量を計ってたのか」


納得した彩はようやく相手の意図に気付き、混乱する。

何故今、私達を試すように乱入してきたのかを。

確かに彼女達は、高見原の裏を賑わす実力者。

天子の裏の顔『高見原の剣士』となれば、襲い掛かってくる輩もいるだろう。

しかし、現状と天子の伝えた事実に、彩は訳が解らなくなってきた。

そんな困惑が彩の雰囲気に出たのだろうか、レインコートの人物はフフッと笑うとあっけらかんと口を開く。


「クフフッ今の私にはなんの思惑もないわよ? ただの暇潰しなんだから」

「暇……潰し?」

「そうよ? 私がちょっと暇になって散歩してたら、貴女達が戦ってたから。しかも一人は私と同じ流派、気にならない筈はない、でしょ?」


さも当然とばかりに言うが、だからと言って納得出来る訳でもない。

お互いの力をかけて戦う決闘に、そんな子供じみた理由で乱入されたら普通はそう思う。


「でも………」


その時だった。

呟く声と共に、彩と天子の身体にゾクリと悪寒が走る。

それは覇気や殺気などではない、とてつもない力が篭った純粋なる意思の声。

彩と天子は身構えながらも、動けないプレッシャーを味わっていた。


「霧島の者で終の段まで教えられる人を私は知らない………その人を教えて貰いたいわね、力づくでも」


その時二人は初めて本当の意味で、相手が本気で稽古をするつもりで手加減していた事に気付く。

それはどうやっても勝てない相手が、目の前にいる事に他ならない。

絶望の具現化をしたかの如く、二人は動けない。

一つだけ助かる可能性があるならば、それは天子が師の名前を告げる事。

天子としては、此処で終わる事だけは避けたい。

だから天子は師には悪いが、大人しく喋る事を選択し口を開こうとした。


「………私の先生はっ!!」


次の瞬間、誰もが信じられない光景があった。



たった目を瞬いただけ。

天子の目の前に、白銀のレインコートの大きな背中が現れた。




「………先、生?」


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