副話 遥か異境の空 後編
明けましておめでとうございます!!
去年のうちに本話を出そうと思っていましたが、間に合いませんでした。
原因は日本酒で酔っ払っていて、寝ていたと言うアホな理由ですが…。
では本編をどうぞ!!
フレイの下に泡を食って駆け込んできたのは、実質的にこのテロリスト達のリーダー的な存在だった。
最初は進攻してきた大国に対抗するべく結成されたレジスタンスのリーダー。
始めの頃は義憤と共に立ち上がったのだが、時代が移り変わり後ろ盾にいた第三国も居なくなり、資金難等から半ば山賊の様な犯罪組織になっていた。
そんなある日だった、『騎士団』の使いを名乗る男が仲間になってから、男の組織は過去の様に盛り返していく。
騎士団の使い、フレイは有能な男だった。
資金源を作る為のルートを作り上げ、武器を何処からか調達したり、効率的かつ効果的な活動を提案したりと男はフレイに感謝していた。
これでまた戦える、自分の正義に沿った戦いが出来る。
と、そう考えていた。
その光景を見るまでは。
酒を飲むべく、リーダーは洞窟内にある自室に戻る途中だった。
自室は身の安全を護るべく、兵隊が常駐する部屋を経由する様に出来ていた。
今日も仕事が上手くいき、悠々自適に通路ね扉を開けると、そこは地獄を思わせる様な惨状。
扉を開ければむせ返る様な血臭に男は最初眉をしかめたが、次の瞬間に茫然自失になる。
血臭の源は室内の至る所から撒き散らされた血糊、一際強い臭いは部屋の中央にある一人二人じゃすまない量の血溜まり。
血を湛えた真っ赤を通り越し赤黒い池、その中を花びらの様に散らされた肉片。
色々な戦場を見てきた男としても、この光景は異常過ぎた。
目を凝らして見れば周囲の壁には弾痕や争った後もなく、血溜まりの中にトランプカードや机の木片が混じっているので不意を打たれたのではないかと推測がつくだろう。
しかし、男は絶望的なかすれた声を上げながら、ある一点を見たまま後ずさりをしていた。
男は気付いてしまっていた、肉片は『全て』遠目から見ても解る程の綺麗な断面。
それはこの惨状は、たった一人の手によって行った事を示唆し、目を血溜まりから上げる途中で見てしまった。
それは戦場や裏の世界に流れる噂話。
何処からともなく現れ、現れた場所で殺戮の限りを尽くし、組織や集団を潰していく化け物。
四肢を切り落とされながらも、かろうじて生き残った人間達の証言によると『誰もかれもに気付かず現れる』『剣を持った』『天使の使いの様な白銀の光を持つ』らしい。
らしいと言うのは、証言者が熱に浮かされたかの様に、うわごとで呟いた証言だからだ。
その噂話からついた、噂話の主の仮称『セイクリッド ソード』が男の目の前に立っていた。
噂話と戯言と一蹴していた男だが、こうやって望まぬ対峙をして始めて解る、何故証言者がうわごとの様に呟いた後に精神に異常をきたしたのか。
これは対峙どころか出会ってはいけない、死を体現した化け物。
相手は殺気立ててる訳でも構えてもいない、ただ立っているだけなのに男は対峙して見ただけで心臓を鷲掴みされたような根源的な恐怖を覚えたのだ。
そして男は恐怖から考えるより早く、逃げ出した。
「馬鹿な、こんな辺境の小さな組織で『セイクリッドソード』に出会うだと!!」
部屋の端で潜む三人と、リーダーを後に庇いながら対峙するフレイは、悠然と歩いて登場した白銀のレインコートの男にそれぞれ混乱していた。
フレイ達は噂話が真実だった為に、アジズとリュシオールは見慣れた白銀のレインコートに。
「お父さん、あの人って………」
「ああ、学者さんだよな?」
「貴方達、奴を知ってるの!?」
周囲の緊迫感と当惑とは違い、アジズ親子は別の意味で戸惑っていた。
白銀のレインコートを着る彼は自分達の経営する酒場の常連客で、日本の企業から派遣されてきた地質調査をしにきた学者先生。
いつもカウンターの端っこで、料理を肴に酒を飲む理知的で物静かな男。
と、言う説明を簡単にするとフローは微妙な表情になる。
「どうかしたんですか?」
「噂の元の割には、普通の人っぽいから………洗いだしで解らないはずだと」
「噂…ですか?」
「一般人は知らないと思うけど、『セイクリッドソード』って………!!」
鳴り響く一発の銃声。
暴発かと思いきやリーダー格の男が、恐怖のあまりに拳銃の引き金を引いただけだった。
硝煙の臭いと共に静寂包まれる一同。
その静寂は白銀のレインコートの男が、胸まで挙げた左手にある。
「………流 『雷閃』の枝技『雷握』」
聞こえるか聞こえないかの小さく呟くと、男は左手にあった物を無造作に捨てる。
それは一発の弾丸、言わずもがな硝煙燻るリーダー格が持つ拳銃から放たれた物だった。
「馬鹿な………」
誰が呟いたか解らないが、その言葉はこの場にいる全員の思いだ。
リーダー格が撃った拳銃は、威力のそう小さなものではない。
床に放り捨てた弾丸から、強力な威力を持つマグナム弾だろう。
熊を一撃で仕留める事が出来る弾丸、そんな銃器を扱う者ならば誰でも知っている威力と速度を持つ弾を掴んだのだ。
「……いくら励起法が使える能力者といえども、傷付ける事が出来る500S&Wマグナムの弾を掴んだ!?」
フレイの愕然とした驚きに、さしものフローとて同意せざるを得ない。
特に励起法を使って一部始終を見てたアジズは目を疑った。
白銀のレインコートの男は、マグナム弾を下から振り上げた手で包む様に掴み取ったのだ。
言葉にするのは簡単だが、やった事は弾道とスピードを見切って掴み弾の持つ衝撃を相殺する神技とも言える技。
そしてその事実は、一部の能力者達に絶望感を抱かせる実力差を感じさせる。
「くっ………全員、撃てっ!!」
フレイの号令と共に、取り巻き達が自動小銃の弾をばらまく。
「っ!?」
機銃の嵐がたった一人に集中する中、アジズはレインコートの男と目があった。
能力を展開中にもかかわらず、正確にアジズの目を見て一瞬だけ口と顎を動かし『溶ける様に姿を消した』。
「!? っ忍者!? 東洋の神秘!?」
有り得ない現象に軽くパニクるフローとリュシオールを抱えると、アジズは好機と走り出す。
「こっコラ、待ってまだ私はやる事が!!」
「それどころじゃない!!」
学者先生の素性や、此処に乗り込んできた理由は解らない。
普通ならば能力を見破った事から警戒して、動けなくなるだろうが。
しかし、目が合った時見た口の動きは『今のうちに逃げろ』と言っていた。
(それに、またなって何時も通りの真面目腐った顔で言ってた………。信じるしかないな)
閃光手榴弾を投げ込まれたかの様な光と爆音を背に、アジズは二人を小脇に抱えたまま侵入ルートを全力で逆走していった。
静まり返る洞窟内。
血振りで振り払われた血が、粘液質な音をたてて床につく。
あの後、戦闘は呆気なく終わった。
銃弾の雨をアッサリと避けた彼が、反撃に移ろうとした時に激しい閃光を伴う爆発が部屋を蹂躙したのだ。
閃光が落ち着いた後に、リーダー格が頼ったフレイと呼ばれていた能力者の男がいない所をみると、奴は逃げる為に仲間を囮に逃げ出したのだろう。
ヤレヤレとレインコートの男――霧島葵――は溜め息を吐きながら、血まみれで倒れているリーダー格のポケットからUSBメモリを取り出すと、ポケットから携帯を出して電話をかける。
「………ああ、私だ。アフガニスタンのルートは粗方潰した。後は売買ルート………ん? 高見原でイベント? 天子が………ああ、解った。明日の朝の便で………」
電話で話をしながら葵は消える、去った後には生者を一人も残さずに。