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変わる世界  作者: オピオイド
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副話 遥か異境の空 中篇その二

どうにか今日中にあげれました。

危うく一週間以上になるところでした。

それでは本編をどうぞ。

リュシオールを背に庇い、右手にナイフを構える少女の額に冷や汗が流れる。

自動小銃を構えた男達に囲まれれば、いかな能力者とて仕方がない。

歳のころは十代半ば、肩まで伸ばしているくすんだ金髪を後ろで一つに纏めた彼女の名はフロー。

もちろん偽名である。

彼女の所属する、国連に対してオブザーバー的な騎士団内のみで通じる名で、本人も本名に似ているので愛称としても気に入っている。

しかし、


「久しぶりだなフロー。数ヶ月会わないだけで見違えたなぁ」

「黙れ裏切り者!! お前にそんな呼び名で呼ばれたくない!!」

「そう言うなよ、お前が騎士団に保護された頃からの仲なのに?」

「ふざけるな!! あれだけの事をしておいて!! あなたは!!」


銃を向ける男達の中で、アフガニスタンにおいては珍しい北欧系の顔付きの男に愛称を呼ばれた瞬間に、フローは渋面で怒りをあらわにする。

フローの所属する騎士団は騎士とは名が入っているが、正式名称に病院が入る為に『病人を保護』する活動が主だ。

今まで本作を始めから読んでいる方なら解るだろうが、能力者とは元々脳の疾患から発展したモノ。

それゆえに騎士団の活動の範囲には、能力者も含まれる。

具体的な活動とは、能力者の『位置の把握』と『保護』。


「私達、能力者の同胞を売った罪は重いわ!!」

「オイオイ、たかが非登録者のリスト売り払ったぐらいで怒るなよ」


騎士団の人間は、ほとんど能力者によって構成されている。

それは騎士団によって保護されたり、同盟関係を持つ能力者集団との兼ね合いから所属する場合が多い。

かく言うフローは元ストリートチルドレンで、雪の降る夜にフレイに拾われ騎士団に登録されて活動している。

しかし保護されたとしても戦いが嫌や普通の生活をしたいととして、登録せずに各国で協力者としている能力者もいる。

それが非登録者だ。

この数年、非登録者の人間や家族が消えたり、惨殺されたりする事件が起こっていた。

一年当たり約10人単位で非登録者が消える、そんな異常事態に人命を尊重する騎士団は急遽調査を始めた。

しかしながら調査は難航を極める、犯人どころか手掛かりすらも見付からない。

『人間至上主義の組織』か『何等かの能力者組織』が関与している風は解るのだが、正体すら見えて来ない不気味な相手だった。

だがある時、とある伝で『サード・フォース』の情報部と名乗る男から有力な手掛かりの情報が入る。

曰く『世界各国で起こっている能力者の行方不明事件の被害者の半分は、騎士団で把握しているであろう能力者だ』と。

闇に隠れ未だに全貌すら何処の組織にも掴ませない『サード・フォース』の情報と言う事で、騎士団の誰もが疑い、当時の調査官をはじめ信じる者は誰ひとりといなかった。

そんな中、調査官の補佐としてついていたフローが妙な違和感に気付き調査官だったフレイに内緒にして調査した結果。


「貴方の凶行に気付かなかった私にも責はある。だからこそ」

「俺を殺るってか? やめとけ、あんな奴らの為に危険を犯すのは馬鹿だぜ?」

「あんな奴らですって!? 貴方の売った情報で失われた命がどれだけだと思っているの!? ………その罪、己の命で償って貰うわ。フレイ!!」

「熱いね、相変わらず。そんな正義感の篭った台詞嫌いじゃないぜ? 喜劇って意味でなっ!!」


次の瞬間、二人の手が動く。

フローはナイフの持つ手とは逆の振り上げ、フレイも銃を持つ手を振り下ろす。


「「炎よっ!!」」


敵味方という関係で紡いだ言葉は同じで、二人の間で爆炎が巻き起こる。

二人の能力は奇しくも同じ『火』を操る系統の能力だった。

正確には『プラズマ操作』系の能力者。

空気中の浮遊分子を帯電させ分解、ある意味燃焼させる現象を叩き出す。


「グッグウウゥゥッ」

「ハッハッハッ、どうしたどうした? これくらいで音をあげるんじゃないぞ?」


渦巻く炎、光をあまり伴わない熱が二人を照らす。

一方は嗜虐欲に塗れた笑顔、もう一方は苦しみに歪んだ表情。

能力者同士の戦いには特徴がある。

識者同士であれば、己の感覚に沿った死角の見つけ合いで、法師同士では神域結界の削り合い。

導士同士であれば、それは空間内操作物質の奪い合いである。

フローは今回、宿敵たるフレイ相手に二つの不利があった。

一つは彼女の後ろで頭を抱える様にしてうずくまるリュシオール。

もう一つは戦う場所と経験。

一つ目は言わずもがな、自分の放ったブラズマ炎にやられない様に出力が思うように上げられない事。

もう一つは能力者としての経験はフレイの方が上の為に、微細な処理能力かつ出力の絶妙さで空間内の分子の大半を掌握されてしまっていた事だ。

普段ならば気流を使い大量に酸素分子を含む空気を持ってきて使い捨ての物量戦に出るのだが、洞窟内の為にその戦法がとれない。

一方的になりつつある状況は、完全にとまではいかないが手詰まり状態を作り上げていた。


「さあフロー、質問だ。何度も以前も聞いたが、俺と共に来ないか?」

「くどい!!」

「あーあ、残念だよ。いい副官になるかと思ったんだかな?」

「誰が貴様なんかと!!」


徐々に掌握される分子がフレイに片寄る、数千度と言う能力者すら焼く炎がフローとリュシオールに迫っていた。


「ほらほら、焼け………何っ!!」


一際輝くプラズマ炎に二人が飲み込まれそうになる瞬間、フレイは二人の姿を見失う。

何て事はない、能力を使い横から忍び寄っていたアジズが掻っ攫っただけ。

とは言えやられる瞬間、炎が一際燃えた刹那に二人を抱えて、部屋の端に能力で隠れているだけだった。


「………っ!!??」


とは言え、いきなり掻っ攫った上に口を塞がれたフローは堪ったものではない。

同じ様に掻っ攫らわれたリュシオールが、安堵の笑みでアジズに抱き着いているのを見るまではフローは暴れまくっていた。

そこで彼女は助けられた事に気付き、警戒をしながら一息をつく。

何故ならば、フレイはまだ同じ室内にいる。


「………空間操作系の能力者か? いや、そこまでの能力であれば大掛かりに………と言うより、幻覚や隠蔽系の能力と考える方が自然だな。だったら………」


フレイの呟きはフローにも聞こえていた。

恐らく奴は、自分達が同じ部屋に潜伏している可能性を考えている。

このままでは遅からず近い未来に見付かるのは確実だ。

フローはこの能力を使っているであろうアジズに目配せして、ユックリとした脱出を促そうと思っていたその時。


「たっ助けてくれ、フレイ!!」


二つある出入口の一つから、浅黒い肌をした小肥りの中年男性が息も絶え絶えに走り込んでいた。


「………どうしました? 此処のトップの貴方が、そんなに慌てて?」

「そっそれどころじゃない!! しっ侵入者っがっ!!」

「それくらい部下に任せてさっさと」

「違うっ、みんな殺られた!! ヒッヒイィィッッ!!」

「何っ?」


開け放たれた扉、その向こうの薄暗い通路を見た中年男性は悲鳴を上げる。



暗闇の中、白銀のレインコートが浮かんでいた。


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