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変わる世界  作者: オピオイド
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副話 遥か異境の空 中編 その一

諸事情で遅れました、申し訳ありません。


酒場のマスターことアジズ・サルワリは、この町の生まれだった。

小さい頃から英雄になるとか金持ちになるとか考えてない、将来は余り変わらずに過ごしている何処でも居るような普通の子供。

彼の運命が変わったのは12歳のある日。

彼は今でも覚えている、大国の進攻で軍人・民間人関係なしで攻撃をされた真っ只中、家族を目の前で撃ち殺され逃げ回っていた。

アジズは物陰に身を隠し、周りをうかがった時に気付いた。

身の回りの色々なモノが、いつも以上にハッキリと感じられるのだ。

それこそ身体の周りを包む空気に含まれる、酸素分子の一つ一つを感じ取れる位に。

命の危機に何等かの力が働いたのか、彼は能力者として開花したのがその時だった。

彼が能力を使うと、周りに居る人間から姿を隠す特殊な能力。

後々に彼自身が付けた能力名『カーテンハイド』は、戦火から逃げる彼にはうってつけで、その能力を使いアジズは逃げた。

逃げて逃げて逃げて逃げた。

能力を使い姿を隠し、戦場を避けるように走り抜け、大きな町に一時的に隠れ住み、飛行機に潜り込み国を脱出する離れ業に近い事を行った。

海外まで逃げきった彼はそれから色々な事をやった、ストリートチルドレンからマフィアまがいのチンピラや傭兵等。

それから十数年。

時が過ぎ死の恐怖にも慣れ戦いを覚え飛び込み、そしてそれが日常になったある日の事。

アジズは故郷を思い出した。

生きるために忙しい日々にある日ポッカリと空白が出来た見たいに暇が出来たのと、精神的に余裕になったと言うのも相まって唐突に過去を思い出したのだ。

胸騒ぎにも似た郷愁に彼は、能力者の傭兵稼業は意外と儲かっていて、一財産と言える程の蓄えが出来ていたので、内戦が落ち着いたのを見計らって帰郷する。

逃げ出したルートを遡りたどり着いた時、懐かしさと共にアジズは喪失感を覚える。

元々は人口も少ない寂れた小さな町だったが、長い戦いと内戦で町は廃墟同然になっていた。

人の気配が希薄で、壁に穴が開いたり半ばまで破壊された建物が辛うじて建っている、そんな荒涼とした町並み。

家族が住んでいた家、友達と遊んだ場所や顔見知りがいた雑貨屋。

小さいながらも色々なモノが詰まっていた町が、空虚なオモチャ箱の様に静まり返っていた。


その風景を見たのが、彼の二回目の転換点。


それからの彼は、何かに突き動かされるかの様に動いた。

町の隅々まで歩き回り、残っていた町の人々を探し出し、隣町まで行き今まで貯めたお金を食料を買い込み皆で食べた。

それを皮切りに町の色々な場所を回り生活に必要なモノを直したり調達したりと、アジズは町の復興に手を尽くした。








人為的に造られた洞窟の通路。

点々と白熱電球が灯る薄暗い通路の中、アジズは小銃片手に通路の端を慎重に歩いていた。

十数年前まで傭兵稼業に身を置いていた彼は、昔とった杵柄で周囲を警戒しながら歩く。

彼の能力『カーテンハイド』は、励起法を使わなければと言う前提条件さえなければほぼ無敵に近い。

展開すればカーテンに包まれた様に身体を覆い、光学的・電磁波的のみならず分子移動すらも遮断し、外からはアジズを透明にしたかの様に見える。

科学的に言えば身体から特殊な分子を昇華させてイオン操作によりフィルターをと言う説明があるのだが、某ネコ型のロボットが出す胡散臭い道具や海外の額に傷を持つ魔法使いの少年が持つ姿を透明にするマントの発展系と言えば解りやすいだろう。

その能力と傭兵の経験を駆使してアジズは、ここテロリストの拠点に忍び込んでいた。

なぜならば彼は、自分の力で養女リュシオールを助けるつもりでいるからだ。

リュシオールとはアジズがこの町の復興を始めた頃に出会った女の子で、今では18歳になる彼の養女。

最初はボロボロの服を着た少年と間違う程の痩せっぽちの汚い子供で、復興の為の食料物資をあさっているところを捕まえたのが出会いだった。

最初は近くの子持ちの家族に引き取ってもらおうかと思っていたのだが、彼女のアフガニスタン人らしくない容姿に気付いたアジズは家で引き取る事に決めたのだ。

容貌の違い、それはおそらく彼女は進攻してきた大国の兵士と出来た子供なのだろう事は、アジズには容易に解った。

戦場を渡り歩いた経験があるアジズにとっては、そんな光景は日常茶飯事だが、故郷の人間と言う意味ではとても他人事と思えず引き取った一番の理由だった。

一緒に暮らした時間はとても緩やかで、喧嘩や対立もしたりと色々な事があったが家族として過ごした日々はアジズにとってかけがえのないモノ。

そんな穏やかな日々を奪われたのを、まがりなりとも能力者のアジズが取り返さないはずがない。

更に美しい容姿を持つリュシオールが、山賊共に手を出されないはずがない。


「いや絶対手を出す!! あんなに可愛いリュシオールに手を出さない奴はいない!! 出さない奴は人間の屑だぁぁ!!」


何がどうしたか解らないが、唐突にボルテージを上げていくアジズ。

どうも父性愛に妙な回路が繋がっているらしい。

そんな緊張感が薄い探索をアジズが続けていると、彼の感覚に引っ掛かるモノがあった。


「………振動? 落盤か!?」


彼の足から伝わるのは、微細な振動だった。

人の手で掘った穴は落盤の可能性があると、アジズの足は自然と早まる。

暫く早足であるいていると、少し大きな場所に出る。

天井も高く体育館程の広さの空洞。

ゴツゴツとした天井の鍾乳石を見れば、明らかに人の手で出来たものではないと解る。

しかしアジズは、そんな周りを気にしている場合ではなかった。

彼が入ってきた入口とは反対側、そこで小銃を持った集団に囲まれたリュシオールとその彼女を護るように立ちはだかる少女がいたからだった。


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