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変わる世界  作者: オピオイド
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副話 遥か異境の空 前編

彩と天子の戦いの途中ですが話の内容上、副話を挟ませていただきます。

彩と天子が鎬を削る数日前、高見原を離れる事約6000km。

中央アジアにある文明の十字路と言われた、アフガニスタンのとある町。

国土のほとんどが砂漠と砂利や粘土で構成された荒野で、町中は砂が舞い飛び大陸特有の乾いた風が吹いていた。

首都から離れた名もなきその町。

舗装はキチンとされておらず、所々が地肌が見えている。

昼を少し過ぎた時間帯、町一番の活気がある大通りでは雑貨屋や屋台がチラホラと建っていた。

その小規模な繁華街の中に場違いな人影が歩いていた。

周りの人間と比べて頭一つ分は高く体格は細身の長身、砂や埃でくすんだ周りの色とは対照的な白銀のレインコートの男。

色のコントラストで周りから明らかに、男は浮いていた。

しかし、おかしな事に誰一人として気にしないし気付かない。

この地域は雨があまり降らないにも関わらずだ。

見た目は白昼夢でみる幻影や幽霊のように動きの様で、フードを目深に被った白銀のレインコートの男はユックリと町中を移動する。

白銀の人影が歩く事数分、とある建物の前で立ち止まり中へと入っていく。


「あら、いらっしゃい。今日は早いのね?」


建物の中は、何処の国でも嗅げるアルコールの香りで充満していた。

そこは世界の何処の国でも飲まれている、酒を主体に出す店『酒場』。

男はレインコートのフードをとると、少し薄暗い店内を横切りカウンター席へと歩を進めた。


「………あー、店はまだ開いてな………何だあんたか」


足音に気付きカウンターの陰から現れた、口髭をたくわえた壮年の男が苦笑混じりに口を開く。


「今日は早いな? 学者ってのは暇なのか?」

「今日で大体の目処が立ったんでな。キリが良いから上がったんだ。マスター、水」


壮年の男こと酒場のマスターは、古びた瓶に入った余り衛生的に良くない様に見える水をコップに注ぐとカウンターに座る男に出す。


「日本人のアンタにこんなものしか出せなくて、すまないな」

「かまわないさ。ここいらの水事情は解っている」


素っ気なくマスターに応えると、喉が渇いていたのか男は水に口をつけると一息で飲んだ。

事実、アフガニスタンで飲料水として飲める水は人口に対して四分の一で、水に溢れた日本と違い貴重品になる。


「水が飲めるだけいい」

「…まっ金貰ってるからな。それよりも目処が立ったって、何か見つかったのかい?」

「ああ、レアメタルの鉱脈をな。周辺の村にある井戸が場所によって濁っているのを知っているだろう?」

「ああ。村の中で井戸を掘ったら数十メートルしか変わらないのに水が赤茶けた泥みたいに濁るって、昔フィージャて客から聞いた事がある」

「ここら辺の人間ならば、水の心配をするんだろうが化学者としての目とすれば金属錯体などの溶液………」

「ちょっとちょっと、待ってくれよ学者さん。俺らみたいな奴らは頭ワリイんだ。もう少し簡単に言ってくれよ」


難しい話になりそうなのを察知したマスターは、慌てて男を止める。

以前男は夜に来た時、酒場に来た客相手に難しい話をして、町一番の腕っ節の男を倒した(笑)事がある。

流石に仕事柄話を聞くのが上手いマスターとは言えども、同じ言語なのに何を言っているか解らない言葉で話されるとキツイものがあるらしい。

その様子を見て男は、それもそうかと話をまとめる。


「数十箇所の井戸を調べたら、色々な金属イオンを見付けたんだ。そこから井戸の流れや地質的な状態から鉱脈を逆算したんだが」

「何かあったのか?」


突然止まる話にマスターは訝しげに眉を寄せる。

それに呼応ように男はピッと壁を指差した。

普通ならば訳が解らないが、マスターには思い当たるモノがあった。


「あっちの方角は、まさか」

「最近騒がせてるテロリストのアジトがある、と言われている山に鉱脈があるみたいだ」


それはまた面倒なとマスターは顔を押さえる。

近年蔓延るテロリズム、記憶に新しい9.11の事件を起こした組織の本拠地はこの国。

このような状態になるまでは色々な戦乱の歴史があるのだが、説明すると丸々一話分になるので敢えて割愛させて貰います。

そのテロリストの筆頭がいるような国には色々な武装組織があり、中の一つが男が指差した方角にある山を拠点にして活動しているのは有名だからだ。


「やっぱり知っているんだな」

「当たり前だ。奴らはテロリストじゃない、ただの山賊だ」


吐き捨てる様に言うマスター。

普通テロリストとは政治的目的を実現するために、暗殺・暴力・破壊活動などの恐怖を手段として使う。

しかし、山を拠点としてるテロリストは違う。

なぜならば彼等は政治目的を実現するためだけではなく、近隣の山村や町を襲い金品や人を攫っていくのである。

そうマスターの言う通り、それはテロリストではなく『山賊』だ。


「奴らにはうちの町の連中も酷い目にあってるんだ」

「………それは、なんとかしないとな」

「ああっても、一般人の俺らにはどうする事も出来ないがな」


溜め息まじりにマスターは肩を落とし、男は苦笑を浮かべながらポケットの中の小銭を掴むとカウンターに置く。


「もう行くのか?」

「ああ………実は日本に戻る事になってな」

「そうか、寂しくなるな」

「テロリストの件が何とかなったら、また来る可能性があるさ」

「また会えたら………」

「アジズ!! 大変だ!!」


酒場に誰かが、大声で駆け込んでくる。

声のする方へ二人が目を向けると、肩で息をする青年がいた。


「サイード!? どうしたんだ、お前今日はリューと」

「リュシオールがっがはぁ、さっ山賊の奴らに攫われた!!」


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