桂二の思惑
だいぶ遅れて申し訳ありません。
今日一日で書いたので、おかしい所が多々あるかも知れませんがご容赦ください。
山の頂上、風が吹く夜の草原で言い争う二人の声が空に響く。
「だからと言っても、そりゃないだろうが!! 己の力量を全て出し切る決闘だぞ決闘!!」
「だーかーらー言ってるだろうが!! 俺は一般人、お前能力者!! 一般人相手に無茶苦茶な理想を持つな!!」
「お前の何処が一般人だ!! 普通の人は式神なんてアニメ見たいなもん使えんわ!!」
「アニメ見たいなんて言うな阿呆!! 陰陽術は旧くから伝わる由緒正しい儀式だ!! この身体能力のみチートめ!!」
「チート言うな!! 努力と修行の結果だろうが!!」
「鍛えすぎなんだよ!! 何だあの頑丈さは!!ステータス表示絶対バグってるぞ!!」
「んな訳あるかぁ!!」
夜長の山の上にある草原で男二人。
どちらかが女性であれば、高見原の夜景をバックに色っぽい展開だと見えるだろうが、いかんせんむさい男同士が胸倉掴み合いながら喧嘩していた。
そんな学生同士の良くある喧嘩に、笑い声がかかる。
「フフフ、桂二君? そろそろ時間よ?」
「えっ………ああっもうそんな時間!?」
「撤収は私達がやっておくから、話はなるだけ切り上げてね?」
声をかけたのはその場にいた戦闘服姿の人物の一人、今まで桂二の出した式神と思っていた上に、女性しかも年上っぽい声に誠一は驚く。
「おい、彼女は?」
「あん? ああ、同僚だ。二ヶ月前に入った新人。以前の作戦の時に拾ったって隊長が言ってた」
「なんだそりゃ、拾ったって犬や猫じゃないんだから」
「いや、うちの隊の方針なんだわ」
「方針?」
桂二が言うには彼女は数ヶ月、富士の樹海で人身売買組織に追われていた所を助けたらしい。(外話 樹海にて を参照)
何故助けた人間が、仲間になっているかと言えば、それは隊の成り立ちから始まる。
「うちの隊の通称『第三大隊』、正式名は『ミリタリー同好会・第三戦略戦術研究会』なんだが……」
「はいっ? 同好会!?」
話の内容にそぐわない単語が飛び出て、誠一は思わず聞き返す。
「同好会って、学校のか?」
「そうそう。聞いた話じゃ始まりはサイファ学園都市大学にあった普通の同好会だったらしい」
元々はサイファ学園都市にある大学部、その学生達によるミリタリー関係が好きな同士で作った同好会。
サバイバルゲームを行ったりミリタリーグッズを集めて楽しんだり、古今東西あらゆる戦史を検証して負け戦の原因などを探して遊ぶ同好会だった。
後に部員が増えて、第一第二第三研究会となっていく。
そんな彼らに転機が起きたのは、第三戦略戦術研究会の部員の友人が彼らの所に問題事を持ってきた事から始まる。
「突然話は変わるが、お前さ、能力者狩りって何で起きるか解るか?」
「えっ? 何でって………そういやなんでだ?」
言われて見れば誠一は、何で能力者狩りが行われているか解っていなかった。
彩に言われて人をさらうと言う、明らかに悪い事をしていると彼は漠然としか理解していなかったのだ。
「能力者には、ほぼ全てに共通するモノがある。励起法だ」
「励起? 俺はかなり練習して、やっとこさで覚えたんだが」
「お前の励起法は高深度励起法って言って、普通の能力者以上の身体能力を得る高等技術だ!! 周りの能力者と比べて耐久度と筋力が少しはおかしいと思え!!」
「ぐぬぅ」
周りに普通の能力者が居ないのもあるが、高見原タワー前で戦った時に相手の一撃を受けた事があり、自身の能力『水系の理』のブースト能力を抜いたとしても弱かったと今さらながら誠一は思い出し呻く。
「自覚しろよな、自分の戦力把握は最優先に知ることだぜ? まあ話がそれたが戻すとだな、難しい事を考えるのが苦手な誠一君に解りやーすく言えばな」
「くっムカつくが、言い返せない自分が一番腹が立つ」
「励起法の欠点は能力者の身体能力を人の域を簡単に抜かせる事なんだよ」
「………? それの何処が欠点なんだ?」
「人の域を抜く。それはな、生物としては完成された方向に進化すると言う事だ。だが進化と言っても良い事ばかりじゃない、生物は進化の過程で捨てるモノだってある。魚が進化して陸に上がった時、肺呼吸を得た代わりにエラ呼吸を捨てた。猿が進化して人となった時、二足歩行を得た代わりに尻尾を失った。それじゃあ人間が、人の域を超え絶大な力を得た代わりに何を失うと思う? ………それは、繁殖力」
どんな生物もそうだが進化はメリットだけではない、桂二が言うようにデメリットだって存在する。
能力者にとってのデメリットとは、励起法の弊害。
さながら食物連鎖のピラミッドの様に、進化の頂点に近づく程に固体数は激減していく。
「それを何とかする為に能力者は二つの手を打った。一つは励起法を行わない事。励起法はそれを行った者を強化するが、強化するせいでホメオスタシスと言う身体を常に一定の状態にする力も強化してしまい繁殖が出来なくなるからだ。この話は今だ実証がされていない。問題はもう一つ、自分にあった人間を連れて来る事だ」
「それってお前………」
「所謂、誘拐だな」
事実、古い神代の時代ではそうやって伴侶を探していた時期があるらしい。
それが現代では誤ったまま伝わった地域が今だあったりする。
「………まさか、問題って」
「話の流れで察しの通り。問題を持って来た男は識者の能力者で、弟がさらわれたっ助けてくれってな?」
それが始まり。
その後、同好会内で助けると決まるまで一悶着あったり、連れさらわれた閉鎖的な能力者が住む島に出撃して返り討ちにあったり、とある能力者三人による協力で無事奪還したは良いが連れ去らわれた先で恋愛していた呑気な弟に脱力したりの話はまた別の話。
「とまあ、そんなのがこの『第三大隊』こと『第三戦略戦術大隊』の沿革だ」
へえっと納得してから誠一は嫌な予感がした。
「なあ桂二………何で、俺に、そんなに詳しく喋るんだ?」
桂二の話が妙に詳しいとか、そう言う次元の話ではなく。
そういった組織は大体が秘密が多く、会話の内容に制限がかかるはずだと言う事が、今までの経験から誠一は解っていた。
だからこそ誠一は疑問に思う。
「………そりゃあ、お前決まってる」
嫌な予感がする誠一の疑問に、桂二は師匠ゆずりの人を喰った様な素晴らしい笑顔で返した。
「うちの隊にお前を取り込むためさ。言ったろ? 隊の方針なんだよ。この第三大隊に関わった人物には三つの選択肢を与えられる。一つは敵として戦う事、一つは仲間として共に戦う事、そして最後に協力者になる事だ」
「………お前な、人を嵌めるような真似はヤメロ」
「スマン、だがうちの規律だ、曲げる事は出来ん。規律は隊の仲間の命を左右する。例えお前を騙したとしても………俺はお前を敵に回したくない」
それは偽りざる桂二の本心、今まで見たことの無い程の真剣な目で誠一を見ていた。
「頼むよ、親友」
「………まったく、解ったよ相棒」
手を出された桂二の手を、誠一は力強く握る。
「そう言えば彩さんと天子もそろそろじゃないか?」
「ああ、多分な。………そういえば、あの二人は何処でやってるんだ?」
「高見区ビルディング街だよ」