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変わる世界  作者: オピオイド
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副話 武人な公務員

陣内の父親が死んだ死因は、病死や事故死などではない。

数年前のある日、陣内は父親に頼まれとある場所に呼び出された。

母は十年前に他界しており、たった一人の肉親である父とは大学に進学と供に疎遠になっていた。

男親と息子の関係なんてそんなものである。

話はそれたが大学卒業したばかりの息子に、父親が頼み事をしてきた。

その内容に陣内は驚いた、時代錯誤にも程がある命を賭けた『果たし合い』があるためらしい。

数十年に一度、風間流だけではなく他の流派も参加し、己の流派の威信を賭けて闘う闇の死合に出場すると言う事だった。

何の冗談かと聞き返すと、返ってきた答えは冗談でなく本気だと言う。

聞けばそれは公に出せない、人死にが当たり前の大会。

そんな危険な大会にたった一人の肉親が出るのを最初は止めたが、陣内は同じ武に携わる人として父親の気持ちを解ってしまい止められなかった。

間接的な死因はそれで、直接的な原因は対戦相手。

陣内の父親は最終的な結果は、当たり方も良く(対戦相手との相性が良かった)大きな怪我もせずに決勝戦まで勝ち上がる好成績だった。

しかし、最後の相手が悪かった。

その相手の姿は………。




「リャアアァァァ!!」


気合い一閃、身体の溜め無しで励起法でブーストをかけた足首だけを使う風間流独自の跳躍法で、陣内は前へと跳ぶ。


「ヌウッ!?」


恐らく天狗面の男には、陣内がノーモーションで跳躍して迫って来ている様に見えただろう。

励起法を使わなくても二メートル近くを詰める移動法で、天狗の鼻先に付くかと思った瞬間。

陣内は身体を捩り、その反動を利用して捩り伏せんとばかりに蹴る。


「ウッラアァァァッッ!!」


風間流『燕』と呼ばれる蹴り技である。

風間流とは実戦武術において多用されない跳び技(着地や空中の無防備さと言う意味で武術と言うカテゴリーでは多用しにくい)、特に蹴り技を中心に使う奇抜な武術。

修練も特殊で、数十キロにも渡る走り込みから始まり、横跳びや片足跳びから宙返りなどのサーカスかと見間違える程の、アクロバティックな技の練習を中心に行う。

門下生が少ないのはハッキリ言って練習の見た目が武術ではなく、中国雑技団レベルだからだろう。

しかしその練習も陣内の、この一撃の為にある。

ノーモーションの跳び蹴りは、天狗の虚を完全についた。

その証拠に天狗が再び打とうとしていた『烈風』の指のまま、その腕は陣内の蹴りを防いでいた。


「っ!? 風間流か!!」

「御明答!! まだ終わらんよ!!」


蹴った腕を支点に、陣内は身体を再び捩り反動を上につける。


「燕三連!?」

「そりゃ先代の技だ!!」


更に跳びあがり天狗の直上からの蹴り抜き、それを避けられると落ちながら身体の回転軸を縦から横へとかえ竜巻の如くの二連の蹴りを放つ。

着地と同時に飛び込む様に膝蹴りを放ち、その勢いを殺さない回し蹴りを天狗に叩き込む。


「どうだ、『燕』からの『燕五連』!!」


普通の人間ならば二撃目の時点で威力が半減する技だが、励起法を使う能力者が使うととんでもない威力となる。

その証拠に最後の一撃を躱し切れず、交差させた腕でガードした天狗の身体が浮き上がり、道の横に暗く存在する雑木林に突っ込む。


「やったか!?」

「まだだ!! 奴が俺の知っている奴と同じなら、ダメージにもなってないはずだ!! ウィル、此処は任せて早く行けっ!!」


雑木林に消えた方向を睨みつけたまま、陣内はウィリアムを促す。

切羽詰まった陣内の声に応えたウィリアムは、目線だけで仲間に合図を送ると駆け出していく。

闇に消えていくウィリアムと仲間達を視界の端に収めながら、陣内は雑木林の闇を睨みつける。

数年前、父親の最後の戦いの空気もこんな感じだったと、陣内は独りごちる。

父親の決勝戦の相手も顔を隠していた。

その時の相手はありきたりな修験者の格好をして、黒いカラスの被り物をしていた。

解りやすく言えば『カラス天狗』の扮装をしていたのだ。

あの時とは全然違うが、雰囲気や立ち姿が陣内の中でオーバーラップする。

何よりもあの楽しそうに笑う口元と、同じ流派の技『烈風』。

此処まで一致していていたら、陣内はむしろ確信した。

暗い雑木林の闇から現れる天狗面。

思った通り服が所々汚れているが、目立ったダメージは皆無だった。


「どうだ三剣神道流?」


構えは崩さず天狗面から一時も目を離さないとばかりに、陣内は睨みつけながら問い掛ける。


「………あの武道会では流派を言ったわけではないのだが」

「親父が死に際に教えてくれた。能力者が使う古流武術の祖となる神道流。中でも捕えきれない風の様な体捌きと、衝撃波を巧みに扱う武術は一つしかないってな!!」

「ふむ。確か風間流は今はなき、天川神道流のから分家した一派だったな。知っていてもおかしくはないか」


独りで納得している天狗。

一見隙だらけだが、陣内は攻めあぐねていた。

相手に感づかれないシフトウェイトを行い、いつでも跳べる様にしていたが、微細な動きから気取られ天狗面も微細な動きで対応して牽制してきていた。

いわゆる、見えない戦い。

しかし、陣内は最初の『燕五連』で、相手との技量の差をビリビリと感じていた。

五連撃となるあの技は、最初の四連撃は限りなくフェイントに近く、当てるつもりではなく当たったとしても牽制にしかならないモノなので躱されたのは問題ではない。

問題は最後の一撃のインパクトの瞬間、左右の蹴りからの直線的な蹴りで普通ならばクリーンヒットする筈が防御されただけではなく、天狗は力を受け流す様に自分から後ろに跳んでいた。

自然にそれを行える相手の圧倒的な武力とプレッシャー、恐怖感しか浮かばない神域結界に冷や汗をかきながら陣内は、局面を打開できる突破口を探していた。


(あの口調だと、俺が相手の事を知っている様に相手も俺の事を知ってる。あまつさえ親父と死闘をした奴なら、こっちの手の内もバレバレだ………どうする、どうする、どうする!!)


その時だった。

天狗面が何かを見失ったかの様に、左右を見回す。

視線が陣内を向いていない所を見ると、どうやら『目の前の』陣内を見失った様。


「夫の至らぬ所をカバーするのが、この国においての良妻と聞きます。………余計でしたか?」

「ウィルと先行しなかったのか?」

「あの人は隊長でしょう命令に従うのが当然でしょうが、私と共に歩く人は貴方です。貴方が死地に行くなら私は共に」

「まったく………打つ手が無かったから正直助かった」


陣内の後にはいつの間にかルーチェが立っていた。

黒の戦闘服の上から森に溶け込む緑のポンチョを着込み、右手には身の丈程の杖を持ち泰然と佇んでいる。

それは装いは違うが、尖んがり帽子を被せれば西欧の魔女を彷彿とさせる。


「………『幻霧の魔女』が日本に来ていたのは話には聞いていたが、此処で出会うとはね」


天狗の顔が陣内達を向いていた。

そう彼女は幻霧の魔女と呼ばれる能力者の一族。

その能力は光を操作し、相手の視神経を通じて偽の情報を相手の脳に叩き込むと言う力だ。

いわゆる幻覚や幻聴を見せる魔女。

今回は天狗に『陣内が見えない』と言う誤情報を見せているのだろうが、天狗は短時間の間で能力者と能力を見抜いていた。

陣内達を見る天狗の瞳が微妙にズレている所を見ると、まだ幻術かかっていて洞察力で場所を予想しているのだろうと陣内は判断する。

となれば絶好の機会。

陣内はルーチェの居場所が声でばれない様に目配せすると、大きく跳んだ。


「二対一で卑怯とは言わないよな神道流!!」

「勿論だ風間流。少し遊んでやる、来い」


二人の影が交差する。

陣内はこれなら何とかなるか? と考える。

ルーチェは相手の強力な神域結界に抗いながら能力を行使し続ける。

天狗面の『遊んでやる』と言う言葉の違和感に気付かないまま。


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