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変わる世界  作者: オピオイド
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副話 天狗と公務員

吹き上がる炎、逆光の中で立つ人影は異様の一言につけた。

と言うかなんだあれは、と陣内は心の中で呟いた。

さもありなん。

人影の格好が背広に紅い陣羽織、顔には上半分だけの赤い天狗面と言うクレイジーさだ。

炎の光に艶めく反り立つ天狗の鼻に脱力感を感じながらも、あれは襲撃者だと言い聞かせ陣内は意志を奮い起こす。

ふと気付けば光に煌々と照らされた同じ戦闘服を着た人影が、天狗面を中心に放射状に取り囲んでいた。


「貴様、何者だ!?」


囲んでいる面々は、もう一台の黒塗りのライトバンから飛び出たシェパード隊の人間達。

その中心に立ち声をかけたのは、くせっ毛の赤毛に厳つい顔をした西欧人。

陣内の良く知るシェパード隊の隊長、ウィリアム・リヒターだった。

見た目は怖面の軍人でいつも貴族然としていて、いけ好かない固太りのオッサンだが指揮に対しては定評のある奴。

なのだが、陣内は何故と疑問を抱く。

相手に答える必要性が無いはずなのに、いくら奇襲を受けたからと言ってもこちらの数が多い筈なのに。

何故、ウィリアムは天狗面の男を攻撃せずに語りかけたのだろう。

その答えは、意外にも陣内自身の身体が教えてくれた。


「なんっだ!?」


カタカタカタと自分自身の手が震えていた、気付けば周りの人間だけではなくウィリアムやルーチェも。

全員の身体が恐怖で震えていた。

感じれば目の前の天狗面から中心に展開されている神域結界が、この場の全員を包んでいた。

通常ならば識者で直径平均2メートル、導士であれば5メートル程。

しかし今、目の前の天狗面の神域結界はおおよそで10メートル近く。

それが示す事はたった一つ。


「『法師』だ」


誰かが怯えた掠れ声をあげる。


法師。

それは能力者の中でも、異質の存在。

現存する古い口伝を集めて調べても、確認されたその能力者は3000年の間に100にも満たない。

そしてそれ程の稀少な能力者であり、恐怖の対象なのは理由がある。

能力者の分類で以前、『三に法師、世界の深奥を知る者、人智を超えた奇跡を作り上げる。』と以前書いたのを覚えている方がいられるだろうか?(『識る者』を参照)

奇跡を作り上げる、その一文が全てを意味する。

実のところ能力者の能力には大別すると、三種類のシステムしかない。

『認識』『演算』『発現』の三種類だ。

一番身近な例として悪い例だが『水上誠一』をあげると、彼の能力『水系の理』はまず自分の体内の水を『認識』する。

次に身体中の水をどのように操作するかを『演算』し、そしてそれを実行するべく『発現』する。

途中の工程でかなり複雑な理論が存在するが、簡単に言えばこの三工程で簡潔する。

実際には、この工程の割合が能力者を決定するのだ。

『認識』の工程に偏りがあれば識者の能力者となり、『発現』の工程に偏があれば導士の能力者となる。

そして『法師』は『演算』に偏る事により、神域結界内の制御を絶対的なものにする。

それはどう言う事かと言えば………


「先制攻撃!!」


今まで恐怖に染まっていた空気を吹き飛ばすが如く、怒声の様な号令が払拭する。

訓練の賜物かウィリアム率いるシェパード隊の隊員達は、条件反射の様にそれぞれの武器に手をかける。


「っっっ!!!」


その時、陣内は見た。

天狗面をしていない下半分にある唇が楽しそうに歪み、右手が剣指(人差し指と中指だけを立てる)を形作っていた事を。

その光景を見た瞬間、陣内は無意識に叫んでいた。


「全員跳べっーーー!!」


天狗面の手が右から左に、振り抜かれる。

シェパード隊の何人かが遅れ動けなかったのを見ると、危なげもなく着地したウィリアムの横に駆け寄りながら陣内は自分自身を責めた。


「陣内!?」

「ウィル、すまんもう少し早く思い出せればっ!!」

「どう言う事……なっ!!」

「化け物め」


ウィリアムが陣内に問い質した次の瞬間、跳び遅れた人間の頭が




牡丹の花の様に首から落ちた。




法師能力者の恐ろしい所は、物理法則を完全に無視したその能力だ。

同じ技を導士能力者が行えるかと言えば、実際は出来る。

だがしかし、過程がかなり違うのだ。

恐らく先程の技は三剣神道流の剣技、衝撃波で対象を叩き切る『風刃』の派生技『烈風』を手で行ったと思われる。

もし導士能力者が行うならばどの様にするかと考えれば、まず能力による力で空間内に指向性のエネルギーを発現させ衝撃波に変換して打ち出すと言う何とも面倒臭く、戦闘時には時間が掛かって使えない技になってしまう。

しかもあの技は本来は剣を使い、励起法を高深度で行い使う技だ。

先程の簡単な手の振りだけで行って、出来る様な技ではない。

恐らく何等かしらの物理法則を神域結界内限定で書き換えて、引き裂く衝撃波を作り出したのだろう。

陣内は冷静に分析する、何しろあの技を見るのは『二回目』なのだから。


「ウィル、どうする?」

「考えれば撤退だが、一人相手に普通ならば撤退なんて有り得ない………威力偵察どころの話じゃあない」

「………一つ、提案がある」


そう言いながら陣内は一歩前に出て、ウィリアムを隠す様に立つ。


「進むにしろ撤退するにしろ、俺が此処で奴の足止めをする」

「………お前まさか、あれがそうか!?」

「ああ、十中八九間違いない」


ウィリアムは陣内の影で「そうか」と呟くと、意を決した様に生き残りの隊員に合図をあげる。


「我々は前に進む………陣内、死ぬなよ?」

「簡単に死にやしないさ」


それを皮切りに二人は別れる。

陣内は天狗面へ、ウィリアムは目的地へと。


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