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変わる世界  作者: オピオイド
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外話 波打ち際の残響

この話は本編『いつもの日々に戻るまで』の次話、次々話とリンクしています。


この町は異常なまでに神社が多い。

高見原の地図に神社の場所を書き込むと解るが、一キロ間隔に神社が最低でも一つある。

市内の神社の数を私自身が数えた訳では無いが、この町の秘密を探る人間の話に寄ると大小合わせて約150。

明らかに、この数は異常らしい。

他にも異常な理由はあるが今回の話には一切関係ないので、追い追い話すと言う事で割愛させていただく。

兎も角、こんな町なので、この町は不思議な話に事欠かない。

今回のお話も、そんな感じ。



高見原市海見区、海岸公園。

平日の昼。

向こうに見える一際大きな観覧車が寂しそうに男には見えた。

きっと遠くから聞こえる遊園地の音と、人も疎らな公園に吹く強い風が拍車をかけているのだろう。

白い石畳の公園と交じり合う白い砂浜、海岸公園と言うだけあって砂浜と連なって白い石畳と一体化している。

そんな公園の波打ち際に近いベンチで、今風のファッションに身を包んだ一人の男が、海を見ながら黄昏れていた。

日も暮れても無いのに。


「ハア・・・。」


見るからに落ち込んでいる。

まあ、それはしょうがないと言える。

男は先程派手に振られているから。


「たく、何だよ。男がいるなら言えよなぁ。こっちは進級課題の作品製作放っといて来たのによ。」


話は簡単、先日告白した相手と芸大の製作課題をそっちのけで遊園地に行く約束をした当日、彼女が男連れで来ただけの話。

要するに弄ばれたのである。

しかし、男が落ち込んで居る原因は別だった。振られ慣れている男にとっては、これ位は痛くも無い、問題は。


「でも、あそこで遊園地のチケットを『二人で行けよ』ってタダでやっちまうなんて・・・俺もお人よしと言うか、馬鹿だ・・・。」


自己嫌悪。

更に言うなら、チケットをあげた時の彼女の嬉しそうな顔を見れただけでも良かったなんて思ったのが追い撃ちをかけている。


「俺そんなに、あいつの事好きだったのか?」


怒る所と悩む所を大きく外れている気もするが、そんな男に海岸公園の目玉と言えるオブジェが目に入った。


「あそこで振られたら、まだ諦め付いたかもしれないなぁ。」


自分の女々しさを感じつつ、思わず愚痴をこぼしてしまう。

そのオブジェは巷で噂の『別離の境界』と言われるモノだった。

本当は有名建築士に依頼して作って貰った『残響の迷宮』と呼ばれるオブジェなのだが、ここで仲を拗らせたり険悪にしたりとするカップルが多い為にそう呼ばれている。

男は何もする事が無いのと、いつまでもウジウジしているのも嫌だったので取り敢えず近付く事にした。


「少しは気が晴れるだろ。」


だが、そのオブジェは人の心を和ませる様なモノでは無かった。

白い壁。

言い表すとそうだ。

大小合わせて数十の白い壁が、思い思いの方向を見るように立ち並んでいる。

大きさは大きいモノは縦5メートル四方の正方形の壁から、小さいモノは家のドアの大きさの長方形までだ。

大きさ故か、形状故か、それは妙な圧迫感を与えてくる。


「スゲー。」


近付くと解る、白い壁は何の装飾もされていない唯の一枚の厚いコンクリートの壁だ。

かといって感想は他に何もない訳では無い。

その白さが潔癖を表し、大きさが荘厳を醸し出し何とも言えない雰囲気を出している。

いやそれだけじゃあ無い、男にはそれが解った。

少し離れるとそれが良く解る。

壁に日が当たり陰を作る、その陰が他のオブジェにかかり全体を見る事により白と黒のコントラストを作っていた。

離れて見る男には、その光景に驚きを感じていた。

あのオブジェのある空間は非現実的な空間になっている、無造作に乱立しているのでは無く、まさに計算された尽くされた創られた異界。


「俺も、あんな作品造れるかな。」


芸大でインテリアを勉強する男にとって、オブジェは強烈な印象を与えたのだろう、感嘆の声が溜息交じりとなっていた。


「あんたはこんな悪意に満ちた物を作りたいのか?」

「うおっ!!!」


いつの間にかに男の傍に少年が居た。

時代遅れの上にワンサイズ大き目の灰色のトレンチコートを着た少年。

少年は髪の毛をオールバックにして眠そうな目で男を見ていた。


「あんた、何時からそこに!?」

「? 最初から居たよ、あんたがぶつぶつ言いながら後ろ向きに歩いて来たのには驚いたけど、もしかして気付いてなかった?」

「あ~。」


男は全然気付いてなかった。


「はは、ゴメンな。俺、集中すると周りが見えなくて。」

「いいよ、スケッチしているときに一寸邪魔になったけど…そんなに迷惑はしていないから。それより、あんな悪意の塊みたいなモノを本当に作りたいの?」

「へ?」


どういう事か男には今一良く解らなかった。


「むう、感受性が強い人間だったら解ると思ったんだけどなぁ。」


更に難解な話を続ける少年。

だが解る事もある、目の前の少年は明らかに自分の事を馬鹿にしていると。

この作品の事を言っているのだろう、『その作品の本質を解らないぐらいの貧相な感覚しかないのか?』と言われている。

そう男は思った。

先程の自分を弄んだ二人より猛烈に腹が立った、いや先程の爆発しなかった怒りが返って来たかのようだ。

男は青年の胸倉を乱暴に掴んだ。


「本当に困ったな。気付いてないのではなく、残響に憑かれているみたいだ。」

「ああ、何だってよ!!」

「今聞かせてあげるよ、潮騒の残響に隠れた雑音の残響を。」


少年は男の両耳を両手で優しく塞いだ。

ゆっくり見開かれる男の目、その耳には潮騒が聞こえていた、そしてそれに隠れる様な囁く声で何十何百何千もの人間が囁くかのような潮騒が聞こえる。


総てがお前を馬鹿にしている。

怒れと。


総てがお前を傷付けようとしている。

恐れろと。


総てがお前を否定している。

哀しめ。


総てがお前が劣っていると言っている。

憐れ。


総てがお前は何も出来無いと。

苦しめと。



「うっっっうわわわあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」



なぜか聞こえた、男は少年の手を狂ったように振りほどきその場にへたり込む。


「聞こえた?」


男は直感で確信した、これが噂の原因だと。

見上げながら、男は聞いた。

呆然と掠れた声で。


「何だこれ。」

「悪意の残響。」


少年は言った。



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