呪禁導士
再テスト中なので少々遅れてお送りしています
バチンと弾かれるような音と共に、桂二の分身たる式神の身体や武器が弾かれる。
それは個別かつ断続的に怒った訳ではなく、タイミングを合わした四方からの同時攻撃に対して起こったのは、水龍の小さなただの一動作に因るものだった。
「なっ何だ!?」
訓練の中であらゆるどんな状況でも冷静にいると習い実践してきた桂二と言えども、今の理解できない光景は一瞬動揺した。
その一瞬を見逃さず攻撃が来ると思い式神の体勢を急ぎ整えた桂二ではあったが、水龍は掛かっては来ない。
桂二が何かの誘いかと訝しげに伺えば、水龍は式神達に包囲されている中心でユックリと腰を落として右半身に構える。
「正直、恐れいったし感心した。こんな方法があった事も知らなかった。俺の自分の無知さ加減を思い知ったよ。だからお返しに俺もお前に最近習得した技を掛け値なしに見せよう」
「最近習得した………!?」
「ああ、護天八極『旋龍』。防御と攻撃を同時に行う『秘技』クラスの技だ、死ぬなよ桂二?」
それを聞いて桂二は慌てる。
第三隊の特色としては、敵に合わせ変幻自在に攻撃や策を変え相手を倒すと言うものがある。
状況に合わせ戦術・戦略・策謀を変えていく。
それの根底にあるのは桂二が所属する、第三大隊情報部だ。
情報収集した状況に対して行うのだから、その重大さは押して図って欲しい。
だからこそ桂二は焦った。
同じ第三大隊の桂二だからこそ、彼の戦いに対するコンセプトも変わらない。
この戦いが決まった直後から、水龍の戦い方や技や行動を調べ上げこの戦いに望んだ。
だが、ここに来て不確定要素が増えた事により、対策が脆くも崩れ去る。
こりゃ後で隊長から『リスクマネジメントが甘いからだ、常に最悪を意識しろ』と説教がくるなとひとりごちながら、桂二は式神の一体を威力偵察とばかりに突っ込ませる。
持たせたナイフを、単純に突き込ませる。
「ふっ!!」
それに対して見るのは四方からの目。
こう言う時には便利だと、桂二は式神から送られてくる情報を冷静に観察する。
「ガッ!!」
ナイフを突いた桂二の式神は、予想通り吹き飛ぶ。
直前に打点をずらし派手に吹き飛んだが、式神の身体に掛かった負荷の洒落にならない重さに桂二は顔を引き攣らせる。
式神のナイフが当たる直前、水龍の右手が螺旋を描き掌打を撃ち込む単純な動き。
単純な動作にも驚いたが、問題は普通の人間ならば即死レベルの威力が込められている事。
「ちょっ洒落にならないっ!? お前、俺殺す気か!!」
「ハッハッハッ、言ったろうが手加減なんかしないぞ? それに式神だったか? お前の分身は本体の身体お前より身体能力が数十倍高い上に、何か能力に似た物理的防御を使ってるだろう? だったら手加減無用だろうが!!」
「グッ」
水龍が式神達が行う波状攻撃を龍旋で弾きながら言うと、桂二は内心でバレテーラと呟いた。
そう確かに式神達は、作った桂二の数十倍のパワーと耐久性があり、尚且つ師より直々に教えられた『呪禁』の力で完璧ではないが『物理的ベクトル』を『禁じ』ている。
解りやすく言うと物理攻撃を通らなくして、身体能力を引き上げた自分の分身を使い数の暴力を振るった訳だ。
しかしその目論見は崩れる。
桂二の作戦は水龍の『油断』と『躊躇』を前提として、畳み掛けるつもりだったからだ。
失敗の原因は水龍の能力『水系の理』による耐久性とパワーのブーストの恐ろしいまでの揺れ幅と、戦闘中に段々と冷静にシフトする彼を桂二が見抜けなかった事による。
作戦続行をさっさと切り上げると、桂二は舌打ちをしながら「どこの身体能力チートだよ」と呟きながら式神を下がらせる。
「ん? どうした?」
「なに、俺の得意なもう一つの戦いを見せようと思ってな?」
「もう一つ?」
「ん? それはな………」
桂二が二体の式神に両脇を抱えられ、後に大きく跳ぶ。
と同時に残っていた三体の式神が、腰にあるポーチから灰色の何かを水龍との間の空間に放り投げた。
それは何時か見た銀色のアルミ缶、しかも三つ。
「っっっ桂二いいいいぃぃ!!!!」
「撤退戦だ、ついて来れるか?」
強烈な閃光と爆音を連続的に撒き散らしながら、ホールが白光に染め上がる。
そんな戦いが繰り広げられている最中、次の展開が読めていた風文は、思惟を伴ってすでに屋外に出ていた。
森を背にするように二人が振り向けばとんでもない爆音が窓ガラスを粉々に砕き、レーザービームの様に光の線が闇を切り裂いていた。
「………『シャイニングフラッド』か。能力者にとっては殺傷力はない一番有効な手だけど………流石に連発はキツイわよ? 普通の人間なら心臓止まるし………大丈夫かしらね」
「彼なら大丈夫さ。話に聞いた彼の能力『水系の理』は、我々が思っている以上に強力な能力だ」
「うちのじゃなくて、あんたの所の子よ。儀式を授けたって言っても、普通の人間でしょうが」
思惟の心配は自分の教え子ではなく、儀式は使えてもあくまでも普通の人間である桂二だった。
しかし、それは杞憂だと風文はかぶりを振る。
「心配はいらん。能力者ではないが、第三大隊の中で訓練を受けた奴は早々には死なん。それに、あの術を使ってる奴は誰にも倒せない」
「それってどういう………」
思惟が疑問を口に出した瞬間、閃いた彼女の左手を風文が押さえていた。
風文が押さえた彼女の手には、銀色の和釘が三本握られていた。
「………待て、うちの隊員の一人だ」
「紛らわしい。私に気配を消して近づくなって教育しときなさい?」
「気配を消して近付くのがうちの隊では当たり前でな? 気付かない方が悪い風潮さ………まっそれはともかく、この気配は征矢か。どうした?」
次の瞬間、森の緑の一部が陽炎の様に揺らぎ、森林迷彩のポンチョを着た一人の男が滲み出る様に姿を現す。
その姿はヘルメットと顔隠すマスクのせいで目元しか見えないが、隠行を見破られ軽く命の危険に晒されたせいで動揺していた。
「落ち込むな征矢。相手は『インビンジブル』と呼ばれた、元世界最高峰の殺し屋だ。見破られて当たり前だ、精進するがいい。それより直接報告しに来るとはどうした?」
「情報部から市街の方で相手の一部が動き出したのを最後に連絡が通じません。ここら周辺一帯にジャミングがかけらた様です」
「特殊回線もか?」
「ハイ、四つ共雑音で連絡取れません。強力な電磁波か、電磁波を操るなんらしかの能力者の可能性がありますがどうしますか?」
そこまで聞くと風文は少し考え込み、思惟の方を向く。
「どうする?」
「ここにいる隊員は?」
「こちらも忙しいから二・三人ぐらいしか連れて来てないな」
「なら決まってるじゃない」
したり顔で頷く思惟は、風文の次の言葉を読んで懐から白いのっぺりとした仮面を取り出す。
「だな、守りに入るとマズイ。俺が単独でうって出る。思惟、後詰め頼むぞ?」
「解ったわ。でも、あの子達はどうするの?」
「折り込み済みだ。征矢はあいつらの戦いが終わった後、桂二の指揮下に入れ」
「どうなさいます?」
「奇襲した後に撤退、追ってきた奴を思惟が側面から襲え。その間に桂二に連絡をして置けコードδだ」