秘術
数年前。
命を助けられた桂二は、自分の情報網を使い自分を助けた人間を偶然見つけ出し、拠点を突き止め乗り込むと言う暴挙に出たことがある。
そう暴挙だ。
いくら助けられたとは言っても、見逃されたのかもしれないのに危険性があるかもしれないのに近付くのは、暴挙と言っても過言ではない。
「しかし君は、それをあえて知っていて近付いた。何故だい? 七瀬桂二君」
拠点の一つにある大接間。
桂二はそこで三人の男に組み敷きられ、地べたにはいつくばってた。
目の前には顔は笑顔なのに、目の奥は全然笑っていない金髪碧眼の青年がソファーに座っていた。
「俺の名前………」
「知っているよ? 君は有名だからね、知りたがりの子供でね? 情報屋を気取るには君は少々派手だ、そう言う類は地味でいくべきだ………ん?」
そこで青年は、桂二がプルプルと震えている事に気が付いた。
恐ろしさでとうとう泣き出したか? これだけ恐い思いをすればこちらには関わらないだろう、と青年が考えた次の瞬間。
「師匠と呼ばせてください!!」
「はぁ?」
返答は斜め上から来た。
現在 高見原郊外
二人の戦いは牽制をしながらユックリと始まった。
相手の手札が余り解らない上に、普通の人間相手なので水龍が嫌った為だった。
それが気に入らなかったのか、はたまた水龍を本気にさせるつもりか桂二は、ここに至るまでの話を簡単にして急速にギアを上げる。
「ってのが、俺がこの世界に入った始まりだっ!!」
「っっ!!」
ジャッと頬に抜ける音と共に、脚甲を着けた桂二の右足が通り過ぎる。
躱した後に死なない程度の一撃を、水龍は入れようとするがそれは成らない。
軸足である筈の左足が、捻りを加えながら下から跳んで来る。
「クッ!!」
さながら逆踵落としの様な蹴りが、水龍の顎を狙うがギリギリで避ける。
しかし、体制が崩れてしまった。
「隙あり!!」
「うおっ!!」
桂二はキリキリと回転スピードを落とさず、片手で地面に手をつけ回転軸を変え、縦軸を横軸に変えながら更に捻りを加えた超低空ドロップキックを水龍の足にくわえる。
いくら人間よりも強いとは言え、能力と励起法を抑えている水龍にはこれは堪えたらしく、足に痛みを覚えながら後に押された。
見れば桂二は素早く起き上がって、水龍の方を見ていた。
「どうだ俺の体術、驚いたか?」
「………ああ、驚いたよ。しかし、いつの間にって奴だ」
「ふふん。そう簡単に種は明かせられないね………それより、来いよ水龍!! お前の力はこんなもんじゃないだろう!? 本気で来いやぁ!!」
「っくくっ」
何時もの桂二を知る水龍としては、余りにも熱くぶつかってくる。
水龍は、それがとても可笑しくて嬉しかった。
調息に始まり、気脈を回し、身体を感じ、深く深く意識を繊細に細胞の単位分子単位へと感じ取り操作する。
「今までは様子見だよ………本気でいくぞ」
行使できうる最大レベルまで励起法の深度を下げた水龍は、爆撃の様に左足で踏み切り右足は床を陥没させる程の踏み込み、そのエネルギーを殺す事なく右の掌打『打龍』を打つ。
普通の人間ならば吹き飛ぶ処か、胴体にに打てば貫通する程の威力。
励起法による爆発的なスピードも手伝って、桂二の命を紙の様に貫くだろう。
だがしかし、桂二は動かない。
いや動けないと言っても良いかもしれない。
しかし、水龍も一度打ち出した打龍は戻せない。
水龍の掌が桂二に届く瞬間だった。
「っ!?」
水龍の目の端に映り込む影。
金髪の青年の周りに立っていた人影の一人が走り込み、桂二の肩を蹴り飛ばし水龍の打ち込みの範囲外へと吹き飛ばす。
「んなっ!?」
気付けば水龍は囲まれていた、金髪の青年を囲んでいた人影が全員、水龍へと対していた。
次の瞬間、全員が一糸乱れぬ動きで各々のナイフや剣・拳・錫杖等で攻撃してきた。
「何だっこれは!? 痛っ」
隙のない連続的な攻撃、剣を躱し拳を受け止めたと同時に脇腹に錫杖が突き刺さり、意識が反らされた瞬間に水龍の顔にハイキックが叩き込まれる。
励起法のお陰でほとんどダメージにはならないが、水龍には不可解な問題がある。
「桂二、これはタイマンじゃないのか?」
そうこれは決闘、一対一の戦いの筈だった。
だけど水龍は桂二がこのような手を使うとは、今までの言動を聞けば思えなかった。
そしてその回答は肯定。
「そうだぞ?」
「えっ?」
水龍は驚き固まる。
肯定の声は人影に手を借りて立ち上がっている桂二ではなく、水龍の後に立ち拳を握る人影から『桂二の声』であったからだ。
「フッフッフッ、これが俺の与えられた力」
「数ある儀式法呪の中で複合儀式に分類される」
「己の姿をした『式』を打ち」
「術者の分身を作り出す陰陽士の秘伝儀式だ」
周りの人影全員から、桂二の声が聞こえる。
人影の一人が戦闘服の一部のヘルメットに手をかけると、現れるのは桂二の顔。
「隊長直々に教えてくれたこの術、そうそう破れると思うな!!」
戦いは続く、始まりとは違った様相を見せながら。