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変わる世界  作者: オピオイド
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誰が為の試練

高見原の西には深い森がある。

高見原市内とは違い、森林保護した都市開発はされておらず極普通の森を保っている。

その森の入口付近にその建物はあった。




高見原郊外 公務員保養所



「なあ桂二」

「なんだ誠一?」


保養所の一室で誠一は、以前学園都市で作って貰った龍鱗を模した手甲と脚甲を装備する。


「本気でやるのか?」

「当然だ。あれだけ話し合って今更だろ?」


渋い顔で黙り込む誠一に、対する桂二も服を着ていた。

いつものチャラい格好ではなく淡い灰色を基調とした戦闘服。

彼の手には点検中の黒い鉄の塊、拳銃がありいつもの彼の雰囲気を一変させている。


「誠一、頼むぞ。本気でやってくれよ?」

「本気なんだな?」

「ああ、隊長は『試金石』と言われた。これからやるのは、これからの『人』の未来の為」


二人とも着替え終わり、部屋を出る直前。

桂二の返答に誠一は驚き笑い出す。


「何だよ」

「チャラチャラとしてて何だかんだ言っても、お前も男だなって思ったら笑いが込み上げてきた」

「悪りぃかよ」

「いいや、悪くない。誰しも譲れないモノだってある」


人のいない閑散とした保養所、実はこの保養所は一度壊して新しく建て直す為に職員がいないのだ。

いるのは桂二と同じ、戦闘服を着た20数人ばかりの集団。

その集団の一部が集まる玄関ホールに二人は向かい合わせに立つ。


「俺には俺の譲れないモノがある、身を焦がす程の知りたい事がある。だから俺は、今の戦いに身を投じた。お前にとっての戦いの始まりが今なのかも知れないな」

「かもな」


玄関ホールの端にあるソファーに、集団に囲まれる様に座っていた金髪の青年が、質の悪そうな笑顔で踏ん反り返って座っていた。

拘束しているわけではなく、スーツ姿にも拘わらず着崩れするのも気にせずリラックスして座っている。

いわゆる彼は見学であり、ジャッジでもあった。


「だから、来い!! 共に戦うために、この水龍が試練になろう!!」


誠一が龍の頭を模したマスクを被る、それが合図だったのか同時に金髪の青年が右手をあげ指を鳴らすと………二人の戦いが始まった。




発端は三日前にやった円の未来予測だった。




「やめた方が良いわ。あんた達、死ぬわよ?」


ドタバタとコントの様な話から一転、円の能力『ドラゴンフライ』で見た誠一達の未来は果てしなく暗かった。


「死ぬって、全滅ですか?」

「ううん、そう言う訳じゃないけど。どんな行動をしても、最低一人死ぬわ」


円の能力はまさに『条件によって違う世界』が、トンボの複眼の様に目に映るのだ。


「例えばよ? あなた達がある行動を起こすと、相手は分断を狙い孤立した彩ちゃんが倒れる。またある状況で戦うと、多人数の能力者による飽和攻撃で天子が倒れる………別の未来では誠一君が、はたまた全滅か………どれもこれも誰か死ぬ」


そんな未来は嫌でしょう? と円は締める。

誠一達は今までの戦って切り抜けた経験から、これからも何とかなると思っていた矢先だから少し衝撃が大きい。


「皆が生き残る確率はないの?」

「無い事はないけど? でもそれって、とんでもなく低い確率の事を何度も繰り返して起こる事か、当たり障りのない活動をするかの二択よ? それって貴方達の本意では無いんじゃない?」


それは活動をするしないかの話だ。

そんな話をする段階は既に過ぎている誠一達は、戦うと決めている以上後者の選択は受け入れなかった。

しかし、前者の話も受け入れる事は出来ない。

戦いは犠牲なくして進めない、とは頭では解っていても犠牲がでると確定しているのでは話は別だ。


「何とかなんないのかなぁ? 例えば私がその飽和攻撃? を捌ききれる様に修業するとか?」

「ウ〜ン、それも視野に入れて視て見たんだけど、貴方達がそれに対応した行動をとると相手もそれに応じて素早く対応を変化させてるのよ」

「打つ手がないよ〜」


それは相手側に優秀な指揮官がいる事を示し、そしてそれを実行できる統率のとれた練度の高い部隊が多く存在している事だった。


「相手は一筋縄じゃいかないわよ? 貴方達が頑張った位で何とかなったら私達の『組織』はとっくに潰してるわ」

「円さん達はどうやってるんですか?」

「情報収集を主に嫌がらせ見たいな活動」

「それって効果あります?」

「折を見て大攻勢をかけようと思っていたんだけど、八年も経っちゃうとメンバーのほとんどが今の生活があるから参加出来なくなっちゃってねー。今までの日常を壊し、人権を踏みにじってきた奴らに復讐するのに、命懸けて今の生活を壊してまで戦えって言えないでしょ? 今じゃ戦えるのって片手で数えるくらいよ」


確かにと誠一達、特に天子は納得する。

桃山に対して復讐する気持ちや、反抗する気持ちは確かにあるのだろう。

しかし八年も経ちそれぞれの生活を持った彼らの心は、少し復讐心が薄れ守るべき何かが出来たのかもしれない。

総てを奪った者達に対して、今あるモノを捨てて戦えなんて言えやしないし思えない。

何とも微妙な空気で静まった中、誠一が口を開く。


「一つ聞きますけど、何でそんな結果が出るか理由が解りますか?」

「理由? ………そうね、恐らくは相対的な確率を出す前に出た計算上、貴方達の条件数の分母に対して、相手の条件数の分子が大きく変化するのと、ファクターが高いのが原因だと思う」

「なるほど」


それからは暫くはいつの間にか彩と円の二人だけしか通用しない様な、専門的な言葉が飛び交う。

周りの人間は置いて行かれてしまっている。

それに気付いた円は、ゴメンゴメンと謝罪しながら説明を始める。


「解りやすく言えばね? 貴方達のバランスの悪さが原因で、相手側に天秤が傾いてるって事」

「そうですか?」

「個人で戦うなら良いけど、相手は巨大な組織よ? 力技だけじゃなく様々な手を使ってくる。戦うだけじゃなく、何か罠を使われたら? 複数の別系統の能力者に襲われたら? 搦め手や策謀を見抜ける? そう言う事よ、オフェンスの私達よりディフェンスの相手の方が取れる手が多いのが問題なの、貴方達の経験が少ないのも発端の一つだと思うけど………」


誠一は言葉を無くす。

確かに戦い、殊更に個人としての戦いには自信がある。

しかし円が言う戦いには、少し苦手な所があるのは否めない。

誠一と天子はどちらかと言えば前衛タイプ、武力にモノを言わせる奴らを蹴散らすのが得意。

誠一が彩に視線で尋ねれば、余り自信がないとばかりに首を振る。

彩自身としては能力を使うので短期決戦や瞬間的な戦いとしては自信があるが、長期的な戦いや罠などの戦いは能力は関係ないので苦手としていた。

このメンバーでは無理かと誠一が思っていた、その時だった。


「オイオイオイ、誰か忘れちゃいないか?」

「桂二?」


自信満々に腕組みして笑う桂二。

その姿に円はとある人を思い出し、顔を若干青くする。


「俺がいるだろう?」

「だけど、お前」

「能力者じゃないからってんだろ? 大丈夫だ、お前が前に立つんだから」

「そう言う問題じゃあない。今から戦いが激しくなる、お前を守り抜くのは無理だ!!」

「自信が無いのか誠一?」

「ああ、無いね」

「はっ気弱な事だ」


売り言葉に買い言葉だが、誠一は真剣な目で桂二を見る。

誠一としては円の言葉を聞いて、更に激しくなりそうな戦いに憂慮し桂二を戦力から除外していた。

しかし桂二はとあるプライドから、退くわけにはいかなかった。

だから桂二は、


「………だったら誠一、一つ約束しろ。もし、俺がお前を納得させる事が出来るなら、ちゃんと仲間に入れて俺を連れていけ」

「………桂二、お前っ!!」


立ち上がり桂二は、指を二本立てた剣指を誠一に突き付ける。

その意味に気付いたのは彩と天子。


「『剣』を突き付けた!? 桂二、貴方!!」

「ちょっと桂二くん、それは!!」




「第三大隊情報部中隊長 七瀬 桂二がお前に戦いを挑む!! 応えろ、水龍!!」




それが二人の戦いの始まりだった。


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