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変わる世界  作者: オピオイド
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境界線


「んっ」


彩が目を醒ませば、そこは知らない部屋。

見渡せば、落ち着いた感じの色調の部屋が目に入る。

淡いクリーム色の壁紙に、額縁に入った赤い花の絵。

量販店で見た事がある机と椅子、花柄の布をかけた本棚。

部屋の隅におかれた大きなパソコンデスクの上にある明らかに専門的なゴツいパソコンはあるが、暖色系のカーテンから漏れる光がここが女性の部屋だと言っていた。


「ここは、そうか昨日………」


段々と彩は目を醒まし、頭がハッキリとしてきた。

昨日(正確には今朝)は、姉の本当の話を聞き泣いてしまったと彩は思い出す。

灯に抱き着いて泣いて、そのまま寝てしまったのまで思い出すと、恥ずかしいなぁと彩は頬を紅く染める。

しかし彼女は昨日、色々な事を知った。

姉の奈緒美の事や姉の考え、そして過去。

考えると少し涙が滲み出る、姉は自分の為に罪に手を染め死んだのかもしれない。

そう考えると胸が裂ける様に苦しいと、彩が腕を抱いてうずくまっていると扉を叩く音が聞こえた。


「………誠一?」


何故か誠一なのかもと思い返事を返したが、入ってきた人物は意外な人だった。


「あなた…」

「誠一君じゃなくて残念だったね、彼なら桂二君と一緒に学校行ったわよ」


扉の前には紺のジーンズパンツ、白のインナーの上に少し大きめの草木染めした緑色の薄手の服を着た天子が立っていた。


「貴女は行かないの学校?」

「誠一君達と違って私、出席率は良いのよ? 一応、真面目で通っているし」


私服を着た彼女の印象は少々違う、学校で制服姿しか見ていない者であれば柔らかい印象と打って変わり、少し快活さをもった可愛い少女に見えるだろう。


「猫かぶり………」

「ん? 何か言った?」

「タヌキでもいいわよ」


天子の能力は大分解ってきた彩は悪態をつく。

彼女の戦い方を見ていて彩は、違和感を感じたのだ。

それは目を余り使わず戦っていると言う事。

フードを目深に被って戦う時点で視角にあまり頼らない戦いをしてるとは思ってはいたが、流石に死角からくるパッションレッドの鋭角なフック等を未来予知じみた動きで回避していたら彩はおのずと理解した。

あれは多分、音波に関係する識者だと彩はそう断定する。

そう断定するとさっきの、彩の呟きを聞いていない筈がない。

腹芸も出来るあたり、タヌキと言った方が良い。


「タヌキって酷いな。そう、つんけんしないでよ」

「貴女とは、まだあの時の決着がついていないから」

「ああーもう、話が進まない。少しは信用してよ」

「貴女が今展開している、神域結界を解除するならね」

「貴女ね〜」


天子としては話をしにきただけだった。

しかし、彩は今でも泣きそうな顔で頑な態度。

彼女の境遇や能力を考えれば、今朝まで続いた話はとてつもないストレスで警戒心があがっているのは確かだ。

でも野生生物じゃないんだから少し位は心を開いて欲しいな、と考えながら天子は神域結界を解く。


「っ!!」

「神域結界を解けって言ったのはそっちよ? わざわざ誠一君に頼んで、貴女と話す機会を設けたんだから」

「私と?」

「そうよ、私としては貴女達と共闘したい。だから話すのよ」








「大丈夫かな彩さん」

「まーだ言ってんのか、天子ちゃんも言ってたろう? 『女同士じゃないと無理』な部分もあるんだろからって、お前もそれで納得したろうだろが」


学校帰りの校庭で、誠一と桂二の二人は連れ立って歩きながら喋っていた。


「そうだけどさ、何かザワザワと嫌な予感しかしないんだよ」

「能力者の予感か?」

「なんだそりゃ?」


能力者の絶対条件に『計算能力』の異常な高さがある。

自分の得意な計算のみであるが、それは最低条件で。

今までの能力者を例にとれば、パッションレッドの体内分子操作による圧力感知炸薬製造、フランベルジェの領域(神域結界)内の震動操作、東哉の領域内の細分化等、総て能力者の高い計算能力によって行っているのである。


「要するにだ。その計算能力がたまに未来予測にシフトすると、未来予知並の予感になるって事さ、解ったか?」

「む、なんとか。俺の能力がナノ単位のコロイド分子操作による身体強化だから、その膨大な計算を一瞬で行う処理能力が未来予測に移ると未来予知並の力を得るって事………桂二、なんだその顔は………」


ふと誠一が横を見れば、桂二がいない。

後ろを見れば、目を見開き桂二が驚いて誠一を見ていた。


「せっ誠一が難しい事をっ」

「ばっ馬鹿にするな、それくらい解るわ!!」


ツカツカと歩き桂二に近付くと、ガツンと誠一が殴り付ける。


「ってめ、やりやがったな!!」

「やるか!?」


そして始まる殴り合い。

周りの下校中の同級生達は、『ヤレヤレ、またか』と一瞥して通過していく。


「イツツ、本気で殴るなよ」

「誰が本気だ。本気で殴ったらお前、死ぬぞ」


実際、誠一が励起法を使って本気で殴ったら頭が吹っ飛ぶ所ではない。

二人は取っ組み合いで汚れた制服を叩きながら、再び歩きだす。


「多分、彩ちゃんのお姉さんって追い詰められてたんだろうな」

「多分な。彩さんと同じく『読心』系の能力者って聞いてる。彩さん以上に追い詰められてたんじゃないかと俺も思う」


多分彼女は独りだったんだろう。

能力者故に独りになりやすい上に、彼女は妹の彩と同じく『読心』能力を持つ能力者。

彩の様に能力のオンオフは出来たのであろうが、彩曰く人の心とは麻薬の様なモノで、一度知ってしまえば知らないと逆に恐怖してしまうらしい。

能力者として誠一は彼女達の苦しみを知り、味方・仲間のなさに歯を噛み締める。


「桂二」

「あん?」

「ありがとう」


それは紛れも無い誠一の本心。

あの時の桂二の『お前がいるなら』と言う一言が、孤児として不安定な自分の心の足場になり誠一を支えてきたのは間違いない。

だからこその言葉であるが………


「………で? 桂二なんだその顔は?」

「臭い台詞吐くんじゃねぇ!!」

「同じネタを二回も使うなぁ!!」


互いに顔を朱くしながら、二人は喧嘩しながら歩いていった。


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