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変わる世界  作者: オピオイド
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黄泉比良坂

昔々、ある所にイザナギと言う男神とイザナミと言う女神がいました。

その二柱の神様は子供達に囲まれて幸せな生活を送って居ました。

ある時、子供がイザナミのお腹から産まれる直前の事です。

イザナミは苦しんで死んでしまいました。

原因はお腹の中の子供が『火の神様』で、イザナミのお腹で火を出して焼殺してしまったのです。

怒り悲しんだイザナギは持っていた『十拳剣』で母を殺した子供を斬ると、彼は死んだイザナミを黄泉返えらせる為に黄泉の国へと旅立ちました。



「黄泉の国の入口。それを黄泉比良坂と言う」



灯の童話にも似た昔話に、三人は顔をしかめる。


「子供、殺しちゃうんだ………」

「嫁さんをとったにしても、ひど過ぎる」

「蘇れるんだ………子供も生き返らせないのかよ」


三者三様でブルーになっていた。

立て続けに重い話を聞いて、気分が落ち込んだのもあるが一番の原因は別にあったりする。


「なんだ君達、元気がないぞ?」

「立て続けにヘビィな話をされた上に、所々に専門用語の解説を延々とされれば精神的に疲れますって!!」

「あーははは、深夜3時過ぎ。朝方になるねー」

「………授業の千倍辛い」


要するに30分もせずに終わる話を、4時間まで引き延ばした挙げ句、講義のさながらの口調で喋り倒したのだ。

体力と持久力が売りの能力者と言えども、これは大分堪えたらしい。

意外な弱点である。


「てか、灯さんは何で元気なんですか………」

「ふふふ、辰学院の重金教授の講義はもっとキツイゾ、アノヒトハ人間ノ脳ノキャパヲ………」

「ちょっ灯さん!? 目のハイライトが消えてるって、戻って来て下さい!!」


一体何を思い出したのか、灯の目から正気の光が消える。

彩がいれば『重金教授は相変わらず』と納得してくれたのだろうが、いかんせん彼女は寝ていた。

慌てて三人は、彼女を揺さ振り正気に戻した。


「失礼。見苦しい所をみせたな、話を戻そう。黄泉比良坂とはそう言う場所なのだ。そしてこの高見原の地下遺跡にそれがあったのだ」

「地下遺跡ですか?」

「君達は地下鉄を不思議に思わないか? これだけの森林があるのに、しっかりとした地下鉄がある。それは元々地下にあった広大な空間を利用して造られていたからだ」

「そんなに広いんですか?」

「ああ。30年前に行った桃山の遺跡探索チームによれば、外周はちょうど地下鉄と鉄道を囲まれた範囲らしい。その中心から地下100メートル程、蟻の巣の様にカタコンベがあり一番最下層に、あれがあったらしい」

「………あれ」

「イザナミの遺骸さ」


30年前。

とある遺跡探索チームが見付かった古文書を元に、高見原の地下へと入った。

地下は不思議な空間で、人の手が入っているようでありながら、蟻の巣のような洞窟の連なりでもあった。

その途中は死体の横たわったカタコンベ(地下墓地)や探索チームには良く解らない葬具や儀式具の数々。

何度か潜り続ける事一ヶ月、最深部にそれはあった。

黒い鳥居に朽ち果てた社、腐り切った供え物の五穀の向こうに遺骸。


「それがイザナミと?」

「社に残されていた葬具等からの判断だがな? ただ、それ以外の物が見付かったのがこの一連の話の始まりだ。埋葬品の中に擬神薬があったんだ」


と、ここで話は終わったと灯が黙り込む。

暫くの沈黙の後、誠一が口を開く。


「一つ疑問に思いました。灯さんはさっきから自分の事を『罪人』と言っていましたが、話を聞くかぎり何をしたと言う感じじゃないんですが?」

「違うよ誠一、罪の大きさが問題じゃあないんだ。関わってしまった、知って恐れて何も出来なかった時点で罪なんだ」


灯はこの一件を知った時、実験内容の非人道的なおぞましさと凄惨さに狂いそうになった。

だが、狂えなかった。

いっそ狂ってしまった方が楽だったのに、辰学院で培った強靭な思考力が狂うのを許さなかったのだ。


「それに償いと言っても私が出来たのは奈緒美の手伝いと、いなくなった彼女が作った組織を引き継いだだけだ」

「組織?」

「八年前、奈緒美が実験台になっていた少年少女達を先導し、組織を作り反乱を起こしたんだ。海原区の火災を知らないか? あれがそうさ。彼女が居なくなる直前、彼女は私に相談しにきたんだ、私の苦しみを能力でしった上で」


それは灯が実験の真実を知り悩んでいたある日。

相談があるとフラリとやって来た奈緒美が、灯にこう言ったのだ。


『反乱に手を貸して下さい』と。


「細かい事を聞いて驚いたよ、実験台の子供達を能力別にして組織を作ってるとまで聞いたんだ」


悩みに悩んでいた灯にとっては、その案は渡りに船だった。

幸いにも灯は『雉元』、桃山財閥を構成する三大企業の一つを支配する一族の人間だったので、情報や抜け道をしるのにはうってつけ。

それも狙っていたのであろう奈緒美は灯に協力を取り付けると、きっちり一ヶ月反乱を起こした。


「ハッキリ言って、一番能力者を恐れたのはあの時だよ。研究所内とは言え一ヶ月で反乱とかな、確実におかしい」


計画の発覚を恐れて急いだのだろう、と灯は言うがそれを境に居なくなった彼女の事を考えると、急ぎすぎた感も否めなかった。


「それじゃあ彩さんのお姉さんは、八年前の第一研究所以来?」

「ああ。私に実験体にされていた子供達を託した後、やり残しがあったと言いながらどこかに走って行ったのが最後だ。それから彼女は見ていないよ」


後を追っていれば助けられたのかもしれない、と灯は言う。


「それから私はまだ若かった円達を………」

「えっ………」

「ええっ!!」

「どうした誠一、桂二。そんなに驚いて」

「まっ円さん能力者なんですか!?」

「あのいつもカウンターの奥でニートさながら寝て過ごして、軽く女性捨てたスタイル抜群の円さんが能力者!?」

「桂二君、けなしてるのか褒めてるのかどっち?」


軽く収集がつかなくなった。


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