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変わる世界  作者: オピオイド
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姉の真実

少々グロっぽい事を書いています。

苦手な方は気をつけてください。

「工作員………ですか?」

「ああ、今は様変わりしているが昔は能力者と言えば、裏の世界でスパイや特殊部隊の人間と言う方が当たり前だった。君の姉から聞いた話だが、今でも思い出すよ。研究所の時の話を」

「研究所って、まさか貴女は!!」

「そうだ。桃山財閥の傘下の一つ、雉元化学の第二研究所の所長。それが私の肩書だ」


第一研究所の名前を聞いて、様子がおかしくなったのは天子だった。

いや正確には雉元化学と言う企業名。

天子の父親に『擬神薬』を渡していたメーカー『雉元製薬』は、雉元化学の一部門だからだ。

椅子を倒し茫然と立ち上がる天子の手は、いつの間にか神器の柄に添えられていた。

誠一が気付いた時にはもう遅かった、全身のバネを使い抜刀の直前だった。

しかし、それを先読みし柄に手を置き、封じた人間が一人。


「彩さん、助かったよ」

「私でも危なかった。モーション・エモーションを起動してなかったら気づかないまま、スイカの輪切りを見るところよ」


見れば彩の額に汗が流れていた。

どうやら彼女は話が妙な方向に行って、煙に巻かれて話がなくなるのを危惧し自分の能力を発動させていたらしい。

実際のところ話には嘘はなく、急激に膨れ上がった励起法のエネルギー波に気付きギリギリの所で止められたらしい。


「さっき取り乱した私が言うのも何だけど………落ち着いて、話を最後まで聞いてから剣を振るうべきよ?」


見つめ合う二人に沈黙が流れ、どちらが先とも言えず力を抜くと天子は唇を噛みながら頷いた。


「すまないな」

「気にしないで、貴女にはまだ聞きたい事があるからよ」

「それでもだ。罪人とて発言しなければ、正当な裁きを受けれない」


殺伐とした雰囲気と突き放した様な言葉、だけども含む言葉にはどこか優しさがあった。

そんな中で誠一は『素直じゃないなぁ』と呟いて、彩と天子に殴られた。




桜区上川端 喫茶店『トラスト』従業員控室 午後9時




その後トラストが夜の部になると言う事で、四人は店の奥へと場所を移す事に。

全員が思い思いの場所に移動すると、灯は部屋の真ん中のパイプ椅子に座る。

その姿は裁判にかけられる被告人の様だった。


「私と奈緒美の出会いは、サイファ学園都市にある辰学院の研究室からだった。当時の彼女は、14才と言う若さで裏の世界の最高学部に鳴り物入りで入った才媛だったよ」

「頭が良かったんですね」

「ああ、当時大学院の私を大幅に追い抜いていたからな。あの頃は『能力者ってズルイ』なんて嫉妬してたよ………でもな、やっぱり子供だったよアイツは」


そう言いながら灯は、書類の束を見せる。


「……これって」

「………マジかよ」


天子と桂二は、読み進める毎に顔色と言葉をなくす。

誠一と彩は今まで聞いてきた事から大体予想していたが、それでもその内容に顔をしかめる。


「人体実験のデータ………しかも、一人二人じゃあない。千人単位、なんてことを………」

「死亡、処理、処理、死亡………なんだよコレ。人がモノ見たいだ」


擬神薬の適合実験、用量実験、投与による発現実験、実験実験実験実験。

あらゆる実験を人を使い、データを出し処理したと書かれた書類。


「奈緒美は夢を追いかけたんだ。何がきっかけかは解らないが、基点は恐らく両親が私と同じく『桃山財閥』と関わっていた事だろう。それで学校を辞めた私達がこちらにツテで引き抜かれた。その時、奈緒美は言っていた。自分が能力者を辞める事が出来ないのならば、人を能力者にしてしまえばいいと」

「姉さん、何て事を………」


それは総て、妹のみならず――人間と能力者――人類総ての救済になる。

奈緒美の考えはそう行き着いた、と灯は言う。

彩は否定したかった、姉はこんな酷い事はしていないと叫びたかった。

しかし、今までの予想、今までの聞いた事や知った事が彩の否定する心を押さえ付ける。

そして思い出す、姉の奈緒美がいつの日にか言った言葉。


『いつか皆、隠す事なく笑って暮らせる世界がくるわ』


あの日の言葉が、残酷な現実を肯定した。




「泣き疲れて寝てしまったよ。恐らく、奈緒美が居なくなってからの八年近く、ずっと悩んでいて。知りたくなかった現実をみてから限界だったのかもしれない。もう少し時期を気をつけるべきだった、すまないな皆」


彩を居住スペースにある灯のベッドに横たわらせた後、彼女は深々と謝った。


「そんな………いつかは知る事かも知れない。俺達が側にいる時で、良かったかもしれません」

「誠一………もうちょっと女性の扱いを知ろうな?」

「そうだよ誠一君、今のは微妙だよ」

「誠一、まだまだだな」




「って何で俺責められてる!? てか、桂二。学校で修羅場やらかしたお前に言われたくないわ!!」


一気に空気が変わってしまった。

いつの間にか『女の子の扱いが下手』と言う烙印を付けられた誠一は心の底から叫ぶが、周りはそれがなかったかの様に振る舞う。


「………お前ら後で覚えてろ」

「………ハイハイ。まあ誠一の事はともかく、この資料にザッと目を通したんですが、コレは奈緒美さんって人のレポートですよね。不思議な事にコレらのレポート読んでいたら気付いたんですが、第一研究所の名義になってます。灯さんは第二研究所の元所長と言いましたけど?」

「目ざといな。そうだ奈緒美は第一『臨床試験』研究所の主任研究員で、私は第二『薬剤開発』研究所の所長だったんだ」

「薬剤開発、擬神薬はもしかして灯さんが?」


薬剤の名前に誠一が聞くと、残念ながら違うと彼女は頭をふった。


「一応所長と言う肩書だから、開発の陣頭指揮をとってはいたが、擬神薬は私が作った訳じゃない」

「それは私も知ってる。彩ちゃんのお姉さんのレポートを、私も読んだから。確か古くから存在する能力者選別の為の薬だったはず」

「その通りだ、擬神薬とは遥か昔から存在する、通過儀礼イニシエーションの為の薬だった。しかし、近代においては暴走体等の発生の危険性から撲滅した、いやされた筈だったんだ」


元々の使い方は能力者選別の為。

しかし、その危険性故に能力者自身が撲滅していた。

この中で戦った事がある身では、確かに危険過ぎると天子はそれに共感しながら唇を噛む。


「君達は何故この町で研究が行われていると思う?」

「何故って? 立地条件とかやりやすいとかじゃ?」

「誠一、それじゃ大都市の近くに研究所を建てた方が安上がりだ。今まで俺が集めた情報から考えると。やつら、この研究の為だけにこの町を作った節がある」

「なんだそれ?」

「やつら桃山財閥が主に着手したのが、研究所以外には道路や地下鉄だ。いくら国からの支援を受けていると言っても、規模も使う金も明らかにおかしい」

「そのとうりだ。金のかかり方が確かに異常だ。答えは30年前に見付かったある古文書にあった地図にある文章が原因だ」

「文章………?」






「この地の中心部に、黄泉比良坂の一つがあると言う文章だ」


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