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変わる世界  作者: オピオイド
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小さな世界の中で

「オイ、聞いたか?」


時間は昼時、購買に行ってパンを買いに行くか学食に行くかと悩んで時だった。

それは席から立った瞬間背中に重みがかかり首に回された腕と共に聞いた台詞。

誠一は、またかと思いながら腕の持ち主へと鬱陶しそうに振り返る。


「桂…お前な、いやいい。お前に何か言うこと自体が無駄だと思う。」

「酷いな誠一君、いつもお得な情報を回している俺にその態度はないんじゃないか?」

「お前の持ってくる情報はデマしかないし、性質が悪い。」


誠一の首に腕を巻きつける男、『七瀬ななせ 桂二けいじ』。

茶色に染めた短髪・たれ目、口元にはいつも笑顔を浮かべ胸元を開けた軽薄そうな格好をした男だ。

誠一とは中学一年の時に席が隣だった時からの友達。

最初の出会いからなぜか誠一を気に入っていて、それから一緒に遊ぶ仲間の一人でもある。

仲は良い、気も合うので誠一はそんなに嫌ってはいないのだが彼には一つ妙な癖があった。


「なーに言ってんだ?この自称『高見原の情報屋』の情報に嘘偽りはねえってば。」


極度の噂好きなのだ。

桂の話す内容のほとんどは、高見原に流れる荒唐無稽な噂で構成されている。

例えば、あの学生に人気だった店が潰れるとか、もう一人の友達の拓海が小学校の頃に好きだった女の子が誰と付き合ったとかそういうものだ。

それ位ならば、身近なゴシップとして少しは楽しめたるのは誠一としては正直なところだった。

しかし、最近は少し問題があった。

彼の話す噂話が少々、きな臭く・都市伝説まがいになってきたのだ。

先日の『人食い蛇人間が、獲物を求め深夜の街を徘徊する』や『自分の死んだ子供を捜す幽霊女』『霧を纏った殺人鬼』の話やら気味の悪いものばかり。

だからこそ、誠一は少し辟易していた。


「いやさ、今回はちょーっと違うんだな?」

「何だよ、飯食いたいから早くしてくれ。」

「三組の篠崎知ってるよな?」

「篠崎?もしかして…この間告白した拓海が派手に玉砕した、あの篠崎か?」


美波拓海よしなみ たくみ』は誠一と桂二の共通の友人である。

中学校三年生の頃に誠一達の学校に転校してきた有名画家の息子で、学校内でも大きなサイズのトレンチコートを一年中着ていると言う変人と呼ばれる人間だ。

その彼が先月の始めに告白して派手に玉砕し三人で遊びまわったのは二人の記憶にも新しかった。


「ああ、その篠崎だ。」

「どうかしたのか?」

「昨日から家に帰っていないらしい。それで篠崎のグループの奴らがその行方を探し回っているらしいぜ。」

「拓海は知ってるのか?」

「知ってる。むしろ、もう動き出してるらしいぜ。」


誠一にとって三組の篠崎を含むグループはよく知っていると言う程ではなかったが、彼らの学校では結構有名なグループなので拓海の事が無かったとしても知ってはいた。

特に拓海が告白した篠崎莉奈しのざき りなは、儚い美人と言う感じで誠一の学年ではマドンナ的な存在。

その上、血の繋がらない男と一緒に住んでいると言うどこぞのゲームのような状況が、青い春を満喫する青年の話題には色々刺激的らしい。


「んで? 俺にそんな話を持て来たって事は?」

「御察しの通り、拓海からの伝言『手伝え』ってさ。お前、夕方から深夜にかけて練習に行くだろ? その時にでも良いから見付けたら連絡くれってさ。」

「はいよ、まったく振られたんだからすっぱり忘れろってんだ。」

「そう言ってやるなよ…。」


なんとなく予想通りだった話に誠一は、溜息交じりに頷いた。

それと同時に誠一の胸の中で妙な胸騒ぎがした。

嵐の前のような、焦りと高揚感が入り混じった何か。

そんな何かに駆り立てられている誠一を気にせず、桂二は絡めた腕を解く。


「まっ、俺からの連絡はそれだけ。んじゃなー。」

「飯はどうするんだ、桂?」

「今日は外。」

「またか…。」


桂二の言う外とは、大体が喫茶店『トラスト』で軽食を食べながら昼からの授業をさばる事だった。

彼の成績を考えると、誠一としてはどうなのかと思うところだった。


「何だよ誠一、相変わらず真面目だなー。」

「んだよ、わりーか?」

「いや、お前らしくて良いなって事だ。そして俺も俺らしくって事だ。」


ハァと一つ溜息を吐くと誠一は、それ以上言う事をやめた。

桂二とのこの様な会話は何度もやっているので無駄だと理解しているからだ。

この男には将来の不安とかないかと悩んでいた時だった。


「なあ、桂。お前いつか言ったよな?俺に集められない情報はないって。」

「ああ、言ったぜ。それがどうした?」

「あのさ、とある人物を探してほしいんだ。」


誠一の言う人物とは、先日助けた少女の行方だった。

先日助けた者の、なぜか釈然としないものを抱えた誠一は一度会って話してみたいと思ったのだ。


「ん?昨日お前が助けた女の子な…解ったよ。」

「ああ、って一寸待て…今スルーしそうになったけど、何故さも当然のように知ってんだ?」

「くくく、俺に知らないことはないんだよ。」

「怖いわ!!」


正直な所、ここで桂二に問い詰めたい誠一であったがある意味では彼の情報収集能力の高さを表れでもあるのでグッと我慢する。


「まあ、いい。そこの所は今度キチッと聞かしてもらおう、その代わりちゃんと調べてくれよ?」

「解ったよ。他ならぬ親友からの依頼だキチッとこなさせて貰うさ。んじゃ俺は行くわ。」

「ああ、灯さんによろしく言っておいてくれ。」


後ろ手に腕をヒラヒラさせながら桂二は教室のドアから出て行ったのを見送ると、誠一は教室の時計を見た。


「購買のパンもうないな…学食にするか。」


学食のメニューを考えながら誠一は、言い知れない何かを感じ溜息をもう一つ吐いた。

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