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変わる世界  作者: オピオイド
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過去への扉

彼にとって数日ぶりの学校。

今日の授業は五教科全部受ける事ができたが、授業の内容は休んでいたせいか解らない事だらけでとても疲れたのか動きが少し鈍い。

数日分、完全に授業に遅れてしまった取り戻すのに時間がかかる、と誠一は溜め息を吐きながら教科書を鞄に入れていると、突然名前を呼ばれた気がして周りをみた。

悪友の桂二辺りが呼んだかと思ったが、それは違うと頭を振る。

何しろ『水上みなかみ君』と可愛らしく桂二が言う訳がないし、そんな言われ方されたら誠一は本気で抹殺するかもしれない主に『後の貞操』的な意味で。

まあそれ以前に悪友共は、みなかみと言いづらい苗字より名前で呼ぶので違うと考えながら誠一は、呼んだであろう教室の入口にたつ少女へと目をやる。

女子高生にしては標準的な体型よりやや細め、シャギィの入った黒髪にやや垂れ目がちの優しそうな顔付きをした少女が誠一の方を見ていた。

それを確認した誠一は、ようやくかと呟きながら前回の一件に関わる人物の一人『蒼羽あおば 天子あまね』に手を挙げて解ったと返事する。


「オイッ誠一!!」


それを見ていたクラスメイトの黒門君が、突然誠一の肩を掴み迫ってきた。


「おっ、ちょっと待てどうした!?」

「誠一、お前あのリアルギャルゲー野郎と最近仲が良いと思ったが………そう言う事か!! 総ては奴の牙城を崩す為だったか!!!」

「はあ?」


目を血走らせながら熱く語る黒門君に軽くヒきながら、誠一は思わず聞き返す。


「奴は最近目に余る!! 身の回りに集まった『幼なじみ』『クール系眼鏡っ子』『癒し系の天然娘』とリアルギャルゲーどころか、見ていない所でリアルエロゲーをやってると噂されている奴、船津の野郎に我々『モテる野郎に鉄槌会』は活動をする所だったのだ!!!!」


何だそりゃ何処の部活動だ、てか何故に俺? とやや現実逃避気味に誠一聞く。


「そんな時、誠一!! 君がやってくれたのだ!! 我々、誰もが出来なかった偉業を君が!! 略奪だ!! NTRだ!! 流石『学内一のストイック男』だ!! そこに痺れる憧れるぅ!! さあ同士達よ彼の門出を祝おう!!」


顔を引き攣らせながら誠一は、訳の解らない応援と拍手を背に教室を出る。

そこには天子と、入口の壁に背を預けた桂二がニヤニヤしながら待っていた。


「災難だな」

「ああ」

「実は今お前の方がリアルギャルゲーっぽくなってると奴ら知ったら大変だな」

「そうなの?」

「………それを言うな」


誠一は授業で疲れ落とした肩を更に落とし、二人を連れ立って廊下を歩きだした。




桜区上川端 喫茶店『トラスト』




木で出来た焦げ茶色のテーブルと椅子を、暖色系のライトが照らし温かい雰囲気を醸し出していた。

煉瓦造りのパーティションと観葉植物、所々歴史を感じさせる店内。

夕方はいつもどうり昼の喫茶店から夜のBarへと変わる時間帯なので、人がいない。

誠一が最後に此処に来たのは半年前、車に轢かれそうになった彩を庇い代わりに轢かれて駆け込んだあの日以来。

久々に訪れたトラストに誠一は、妙な懐かしさを沸き上がらせていた。

カウンターに目をやれば、そこには長い髪の毛をバレッタで一つ纏めにし格好よく制服を着こなした女性がコーヒーを煎れていた。

細い眼鏡を掛けた切れ長の眼をした女性が、目線はサイフォンと同じ高さでしゃがみ込みミリ単位でコーヒーを煎れる。

バックに三角フラスコや試験管などが見え隠れするのが、シュールな光景を更に助長していた。


あかりさん」

「ん? 誠一か、久しぶりだな。半年ぶりか? ………また、珍しい面子だな」


誠一が声をかけると、変わらない鋭い視線だけを彼女は向けた。

しかし、彼女が向けた視界の中に厳しい顔をした天子を入れた途端、表情を歪めた。


「天子………」

「この間の話した水龍、覚えてます?」

「まさか、君か誠一」


表の顔は癒し系天然娘と言われる学生、しかし裏の顔は高見原の悪を尽く打ち倒す『桜坂の剣士』。

彼女の戦いに横槍をいれて、裏の世界の戦いに身を投じた誠一を灯は水龍と呼んだ。

その会話だけで誠一は二人の関係と、灯がどちら側の人間かが解ってしまった。


「……灯さん?」

「ああ、知っていた。君が半年前に車に轢かれて慌てて駆け込む前からだ。………あの日、事実と状況から判断して君が励起法を使っていると知ってはいたが、私にも事情があって話す事が出来なかった。すまない」

「いや、灯さん。謝らないでください。何も知らない時の俺だったら不満に思ってましたけど、今なら解ります。だから」


そう、あの時のまま。

何も知らずに巻き込まれ、自分か誰かが傷付いた時に聞けば誠一とて怒っていたかもしれない。

しかし彼は自分の持つ技術の危険性と、変わってしまった自分の世界(日常)を考えれば怒る気持ちは毛ほども沸き上がらなかった。

最低限の励起法で普通の人間ならば軽い一撃で葬れる程の力、それに派生するバイオレンスな裏の世界。

本来ならば知らない方が幸せなのだ。

だからこそ灯は口をつぐんだ、と理解すると誠一は気遣いに感謝こそあるが文句などあろう事はなかった。


「いや、それでもだよ誠一。私には謝罪を、償いをする義務があるんだ」

「え? それってどう言う事………」

「それは私も聞きたいわ」


第三者の声が割り込む。

見れば店の入口に、彩が険しい顔で立っていた。


「何十にも張られた儀式結界。隠蔽に認識阻害、能力者に対する能力削減の儀式の重ね掛けされた店。その店での待ち合わせ………意味を聞きたくなるわよね」


待ち合わせに遅れていた彩。

それは、この店の違和感を感じて調べていたためらしい。

調べた結果は想像以上の物で、対能力者の拠点以上の防備で彩の不信感は跳ね上がっていた。

天子も初めて知ったらしく、誠一が彼女を見れば驚いた顔で知らなかったと返してきた。

誠一も長く此処に通っているが、初めて知った。

どういう事かと灯を見れば、彼女は幽霊を見たような顔で彩を見て呟いた。


「奈緒美?」


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