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変わる世界  作者: オピオイド
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水系の理

激しい炸裂音と閃光。

爆風により舞い上がった埃がモウモウと立ち込め、水龍とパッションレッドを包んだ。


「………水龍」

「まだっ!!」


パッションレッドの隠し玉、単純なフェイントほど実戦ではかかりやい。

解ってはいたが、自分の仲間がやられるのは違う。

彩は呆然と呟くが、座り込む天子がまだ終わってないと声を上げる。

それと同時に、煙からパッションレッドが現れる。


身体をくの字に折り曲げ、吹っ飛びながら。


「えっ!?」

「げっ!?」


地面とほぼ平行に吹き飛ぶパッションレッドに彩は驚き、天子は吹き飛び方に女性らしくない驚き方をする。

舞った埃が落ち着く、現れたのは左腕でガードし右腕を突き出した水龍。


「………あれはトンファー?」

「パッションレッドに対抗するために製作された、水龍専用儀式法具『氷龍・雷龍』よ」


突き出した水龍の右腕には龍の鱗をあしらった手甲、手には龍の頭を模したトンファーが握られていた。

それでパッションレッドを、力一杯突き込んだのだろう。

しかし、それでは疑問が残る。

パッションレッドのERAが破れない筈だ。

ERAは圧力に反応して爆発し、その爆発力で相手の攻撃ベクトルを『逸らす』事で相手の攻撃力を減殺する事にある。

その対象は総ての物理的攻撃にある筈なのだ。


「何て力技!!」


絡繰りに天子は気付き、そのあまりの単純さと実行出来る水龍に驚愕と感嘆を送った。

原理は簡単、励起法で最大深度まで身体能力を上げた上で、彼自身の能力『水系の理』で身体能力を更に上げトンファーで突き込んだだけである。

ただ突き込んだだけだと思われるが、実の所そうではない。

考えて見てほしい、1t近い車を片手で軽々と持ち上げる程の能力を得られる励起法に、身体能力を(特に耐久性と筋力)を飛躍的に上げられる能力で力一杯トンファーで突かれるという事を。

正確に計ってはないが、最低10tトラックのフルスピードで衝突したエネルギー位はある筈なのだ。

そんなエネルギーをトンファーの先に込めて突き込んだのだ。

それはERAの減殺能力を大幅に削り、パッションレッドに到達。

結果は地面と平行に飛び、コンクリートの壁に亀裂めり込むんだ。


「うっううっ………」


うめき声と共に瓦礫から現れるパッションレッド。

その身体には土埃だらけで真っ白に染まってはいたが、目立った怪我はない。

しかしダメージは甚大だったのだろう、立ち上がるのに少し時間がかかった。


「何故、私の『水煙』が………」

「単純な話、純粋な力で突き込んだ。お前の防御を打ち崩す程のな」


ふらつきながら立つパッションレッドは、身体に走る痛みを感じながら拳を握る。

水龍と言う人物は、恐ろしいまでの強さだった。

パッションレッドのERAは自身の励起法と防御を組合せる事により、ボーリングの機械すら無効化する。

それを打ち崩す程の化け物。

桜坂の剣士と連戦で、勝負を急いでしまったのも失策だった。

仕留めたと感じた心の隙と、大技の後の隙を狙われとんでもないカウンターを喰らってしまった。


「だが、私は負けられない!!」

「正義の為かパッションレッド!! ならば俺は我が師の教えの太道の話をしてやろう。人と言うのはそれぞれに生きる道がある、人はその道の真ん中を歩くのが真っ当な生き方だ。人は真っ直ぐには生きられない、外れれば外道となる様にな」

「それがどうした!?」


パッションレッドは痛む身体に鞭を打つ、前傾姿勢でジリジリと間合いを詰める。

狙いは電光石火のカウンター。

足で撹乱出来ない以上、それしかない。


「人はそれを正す人がいる。道を外れた人を正す人がな。貴様は俺に教えてくれた思い出させてくれた、最初の想いを、理不尽を駆逐し身近な人を守る想いを!! 貴様の正義は混沌に通じる!! 貴様の太道を修正してやる!! 沈め!!」


怒りにもにた水龍の言葉。

それと共に爆発したかと思える程の震脚で踏み込む、トンファーを持った左腕を突き出した状態での遠距離からの突き(他流派では箭疾歩と呼ばれる歩法からの突き)『駆龍』。

しかしパッションレッドは、それを待っていた。

突き込んでくる左腕の肘の内側に肘を滑り込ませる『クリス・クロス』で攻撃をそらし左腕のアッパーカットと言う一連の流れでカウンターを仕掛ける。


「甘い!! 腰が入ってない拳は俺の『水系の理』の敵じゃあない!!」


拳は右腕のトンファーで受け止められた。

だがしかし、パッションレッドの攻撃は終わっていない。

右のアッパーカットが残っている。


「あああああっ!!!」

「だから甘いと言った!! その身に受けろっ!!」


返す刀の右のアッパーカットを打つ瞬間、パッションレッドは見た。

水龍の最初の左トンファーが、身体にそっと添えられている事に。

その左トンファーの石突きに重ねる様に水龍は、右トンファーを当てていた。


「『吠龍』!!」


それは足、腰、肩、腕を同時に連動させて打ち込む暗勁と言う技法。

普通の武道家が打っても威力がある技だが、それを身体能力が異常とも言える水龍が打ったらどうなるか。


「………」

「………」


喧騒に包まれていた二人だけの戦場は、静寂に支配される。


「………透った」

「ガフッ」


パッションレッドのマスク越しに吹き出る血煙。

彼は膝から崩れ落ちる。


「やった?」

「殺ってないよ。『吠龍』は浸透性のある打撃の上に、トンファー越しだから励起法を使っても数日は動けないはず」


崩れ落ちるパッションレッドを確認して、彩が天子を連れてやって来た。


「さて、倒したは良いけど、どうしよう? こんな時はどうするの剣士さん?」

「私に聞かないでよ。私は倒すだけ倒したら、ほったらかすよ?」

「それ酷くね?」


倒したパッションレッドの始末に困る三人。

ここだけの話だが、能力者は簡単には死なない。

能力自体は意識を失った時点で停止するが、大怪我など負った場合、励起法は最低限で維持し生命を繋ぐからだ。

それを能力者は無意識に解っているので、血ヘドを吐いていても放って置ける。

しかし血ヘドを吐いている人間を放って去る何て出来ないので、困っているのだ。

変態は触りたくないや、放って帰ろう〜や、埋めて帰ろうと言い合う三人。

その時、


「ちょ〜っと良いかしら?」


艶のある『野太い』声が響くと同時に、三人は散り散りに跳び退く。

次の瞬間、倒れたパッションレッドの下に寄り添う巨大な影。


「げっ」

「増えた」

「頭痛い」


その姿を見て三者三様に顔を引き攣らせ、口を歪ませる。

身体全体を覆うのは黒一色の合成革のボンテージ、大柄な筋肉質の身体に幅広い肩、発達した大胸筋とVの字に開かれた場所からは立派な胸毛が存在感を誇示していた。

そして顔は、身体と同じく黒革のマスクに覆われている。

それを見た三人の内心は一緒、『変態が増えた』だった。


「ごめんなさ〜い、この人をどうかさせる訳にはいかないの〜」


何故にオネエ言葉と心で突っ込みながら、水龍は再び構える。

彩といつの間にか霧布を再展開させていた天子も、同じ様に構えていた。


「皆、せっかちねぇ。この人は私達、パッションジャーのリーダーだから連れて帰るだけ」

「語呂悪っ!! てか、戦隊かよっっ!?」

「まっそう言う事、またねぇ〜」


突然の暴露、あまりの事実と目の前にいる濃い『変態』に思考を止めた三人の隙を付いた新たな変態はパッションレッドを抱えて連れ去った。

激闘の後に残る、どう対応して良いのか解らない何とも微妙な雰囲気。


「………五人まで増えるのか?」


水龍の呟きだけが空しく響いた。


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