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変わる世界  作者: オピオイド
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真実に至る道は

彩の目の前にある荘厳な机に座る中年の男。

太っている訳ではないが、やや厚みのある胸板と広い肩幅が彩にはプレッシャーとして見える。

短く刈り込まれた髪に、理知的な光を湛えた鋭い瞳が目の前の相手が世界最高峰の頭脳の一人とは感じさせない。

彼の名前は『重金 浄』、極東最高の頭脳と呼ばれる男。


「なのに、分室の室長で収まった左遷された教授」

「人聞きが悪い。私は自分の意志で此処にいるんだ」

「実質上の左遷よ? ユーラシア最高峰と名高い『辰学院』の学長候補を蹴って来るなんて」

「………まったく、相変わらずで何よりだな」


重金教授は彩の言い分に眉一つ動かさず、やれやれと溜め息を吐いた。

彼女の挑発的な態度には意味があった。

『辰学院』とは、表には出せない知識や研究を管理し秘匿する、裏社会の最高学府の一つ。

イギリスの『ブリティッシュカレッジ』中東の『アレキサンドリア ライブラリー』、中国の内陸部にある『黄学府』北アメリカの『Atlantic knowledge』に並ぶ人類の知識の粋が集められる場所。

そんな場所の学長の立場を蹴ってまで、このサイファ学園都市の分学長として来る意味が解らない。

彩は言外にそう言っているのだ。

とは言え、実はこの会話は昨日今日で始まった事ではないので、彼自身あしらいかたも慣れたもので。


「暫く居なくなって、静かになったと思ったんだがね」

「おあいにくさま、私は何度でも来るわ。姉さんの行方が解るまで………」


彼と彼女は睨み合い、彩は吐き捨てる様に目を逸らす。

その姿にヤレヤレと重金は竦める。

重金は彩の能力を知っていた。

彼女の能力は他人の脳波、脳神経インパルスや運動神経インパルスを読み取り『相手の行動や心』を読む能力だ。

とても危険かつ便利な能力に見えるが、実は欠点がある。

『記憶』は読めないのだ。

彼女が読むのは『今』であり、『過去』ではない。

相手に質問し関連付けで思い出した事は読めるが、それに関連していない場合読めなくなる。

その能力ゆえの会話である。

挑発紛いの言葉で相手を油断させ、ちょっとしたキーワードで相手に連想させ情報を引き出す彩の常套手段だ。

だが重金も知ってるが故に、もう一つのブロック方法『励起法』の高深度行使による読み取り阻害を行う。

それを感じた彩は読み取るのを早々に諦めた。

と言うのが先程からの一連の流れである。


「………いい加減に諦めたらどうだ? その件に関しては多々良老や風文はともかく我々の口からは漏れない。それよりも」

「自分の事を考えろって言うんでしょ!! 解ってるわよ、そんな事。でも、私は何度も考えた末なのよ。何をしようとも後悔が表に出てきて、心が痛くて、自分自身が情けなくて見えない何かにがんじがらめにされて動けないのよ」


彩の声は少し泣いている様な色をしていた。

顔を逸らした彩の表情は、重金の方からは見えない。


「折紙………しかしだな、真実を知ったとしても、それが」

「桃山財閥、高見原、姉さんの仕事、『超能力が使える薬』もしくは『神に会える薬』………私も馬鹿じゃない。此処までの情報があれば、大体予想が付くわ」


そこまで言うと彩は、もう一度重金と向き合う。

彼女の瞳は泣いてはいなかった。

真実の先にあるのが哀しみや苦悩であろうとも、突き進む意志が瞳の中にあった。

その意志を汲み取ったのか、重金は諦めたかの様に椅子に背中を預ける。


「………ヤレヤレ、偽神薬まで行き着いたのか」

「やっぱり知ってたのね………」

「当たり前だ、あの薬は千年程前に『重金』が作り、あまりの危険性故に封印していたものだ」

「そんな物が何で?」

「解らんが、予想は立てられる。元々、あの薬は高見原の地が発祥だ、誰かが何かを見付けたんだろう」


その言葉に彩は一つ思い当たる節がある。


「もしかして、桃山財閥があの町を開発した理由は」

「推論の段階だが、我々の見解ではそうだ。………折紙、良いのか?」

「真実の先がどうであろうと、私は知りたい」


重金が彩の瞳を覗き込む、その意志を確かめる様に。

彩は視線を受け止める、自分の意志は揺るぎないと証明するように。


「………」

「………」

「………解った、今出来る分の情報のみ開示しよう。後は、君自身が確かめるんだ」

「確かめる?」

「………ああ、私達の言葉だと公平にならないからな。君は八年前、高見原の研究所で火事があったのを知ってるな?」

「ええ、姉さんが勤めていた所」


その言葉を受け重金は頭を振り、否定する。


「我々の情報に因れば、君の姉が所属していたのは火事のあった『第一研究所』ではなく、『第七研究所』だ」


エッと彩は疑問の声を上げる。


「でも、あの時…」

「君の能力は『今』その時の『心』しか聞こえない………その時は『第一研究所』だったんだ」


彩は勘違いをしていた。

最後に姉と会ったとき、彼女は『第一研究所』に行くと心の声で聞いていた。

だから火事で焼け落ち更地になった場所を探しても、行方不明となった姉は見付からないし手掛かりもないと考えていたのだ。


「それじゃあ………」

「第七研究所を調べてみると良い………そこに彼女が残した何かがあるはずだ」


ずっと探していた姉の行方。

ようやく見付け、得られた手掛かりに彩は力が満ちるのを感じる。


「………一つ聞いて良いかい?」


早く何らかしかの行動に移すべく、扉へと踵を反した彩の背に声がかけられる。


「何ですか?」

「君がそこまで決意した理由はなんだい?」


歩みを止めて背中を向けたまま、彩は耳を少し朱く染めながら答える。


「私が『読心系の能力者』って事を知ってる上で、心を隠さず居てくれた人が怖れず言ってくれたんです『君の力になる』って」


そこまで言い、彩は扉の向こうへと消える。


「ふふっ若いねぇ」


重金の楽しそうな声は誰に聞かれる事もなく虚空に消えた。


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