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変わる世界  作者: オピオイド
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識る者

この世界には能力者と言う異能力を使う者がいる。

古い文献や神話、御伽噺おとぎばなしなどでしか出てこないそんな存在。

海外で言えば水を操り海を割るや、日本国内で言えば手を氷柱や剣に変えたなどと言う嘘か本当かわからない逸話などばかりだ。

だが、それは表側に出ていないだけでその存在は確固としてあるのが世界の闇の部分での現状だ。

例えば正史として表に出ている有名どころでいえば、ヨーロッパの魔女狩りや日本で言えば比叡山の焼き討ちなどもその一つだと闇の世界の『学府』では語り継がれている。

表向きでは政治的な方法であったと後年で伝えられているので、知る者は少ない。

しかし、その事件の原因は普通の人間であれば容易に想像が付くだろう。

時の権力者達は人智を凌駕した異能者達を恐れたのだ。

考えても見て欲しい、たった一人で軍隊を壊滅できる人間やどんなに守りを固めていても誰にも気付かれず突破出来る存在がいればどうなるかだ。

そのような事もあって、彼らは人智を凌駕した技を使い奇跡を起こしながらも人類から隠れ生きている。

例えば人里を離れ、人に紛れ、権力の下に使われたり、コミュニティを作り密やかに暮らしたり。

…彼らはその様にして生きていた。


だが、彼ら能力者に転機が起こる。


それは世界の存亡をかけるほどの転機だった。






彩の一種の名乗り上げの様なものに、黒のレインコートの人物は困ったように呻き呟いた。


「霧島神道流、推して参る。」


唐突に始まる戦闘。

しかし周囲の人間(少年達)には一瞬、何が起こったかわからなかった。

中でも一番、その戦いから遠く彩に投げ飛ばされた少年はその目でよく理解していた。


『なんだあれ。俺の力でも霞んで見える程度ってどんなスピードだよ!?』


少年、いや少年達は能力者だ。

特に投げ飛ばされた少年は一番の古株で、能力の事は同じようにつるむ連中の中でも良く解っているほうだ。

数年前のとある騒動で能力を研究する研究所から抜け出す前まで、能力者としての知識と経験を持っているからなおさらだった。



能力者の最大の特徴は三系統に分かれる事。


一に識者、三系統のうち最高の察知能力、識る者。三千世界を見通す知者。

二に導士、操る者、遍くモノを操作し奇跡を呼び起こす。

三に法師、世界の深奥を知る者、人智を超えた奇跡を作り上げる。


そんな伝承を研究者の一人から、口伝で伝えられていた事を少年は思い出していた。

少年の戸惑いはしょうがない事でもある。

何せ二人の戦いは、理解できない…いや正確には目視することが難しい。

少女二人はある一定の間合い(約一メートル強)まで近づいたきり動いておらず、二人の手元が霞んだ様に動いた次の瞬間には鈍い音が響くだけだからだ。

しかし少年一人だけその状況がおぼろげながら理解できていた。

『桜坂の剣士』が木刀を振りぬいた瞬間、ついさっき自分達がからんだ少女が持っている杖を使い弾いているのだ。


『励起法で強化した目で漸くってどんなスピードだよ!?』


少年は内心で叫び声をあげそうなのを押し留めながら、背中に流れる冷たい汗を感じていた。

彼の叫び続く。

『励起法』それは能力者のみが使えるとされる特殊な身体強化法である。

これは小説や漫画で聞くような気功法や強化法とは、一線を画する術法だ。

解りやすく説明するのであれば、漫画や小説の強化法は気や魔力などを体に纏わせて~や通して~などの方法をとっていると考えて欲しい。

しかし、励起法は違う。

使った人間の『生命の質』と言う物を劇的にまで底上げし、人間という枠組みを外して次のステージに持っていく。

故に励起法は術者の『生命の質』や術の進度ステージにより極端な効果が生み出される。

しかしその励起法で底上げした目ですらも見えない、いやかろうじて見えるのであれば逆に叫びたくもなるだろう。


しばらくして、そんな常軌を逸した少女たち二人の交錯が止まる。

意外な事に二人の攻防は、剣士の剣を杖がしっかと受け止めているところで止まっていた。


「たいしたスピードと反射神経ね、だけど…」


ニヤリと笑った彩は木刀を受け止めた点を支点として、杖を回転させながら踏み込む。


「技の練度としては私が数段上よ!!」

「っ!!」


踏み込んだスピードをそのままに、剣士の木刀を持つ手をつかみ懐に入った彩が肘と手首を極めた状態で一気に投げ飛ばす。

しかし剣士もさる者。

おそらくは自分で飛んだのだろう、勢いよく飛び空中で反転しながら着地。

剣士は着地をそのままに後ろに大きく飛んで間合いをあけた。


「簡単に決めさせてはくれない…か。」


お互い隙がなかった、彩は技で勝っているが剣士は身体的な総合面で勝っていた。

このままでは勝つどころか相手との地力の差で押し切られてしまう。

そう考えた彩は自分の勝率を上げるべく、不確定因子を取り除くことにする。


「…ねえ、あんた名前は?…フウン『筧 宣夫』って言うのね。」


最初に見せた不敵な笑みを変えずに彩は、投げ飛ばした少年のほうへと視線を動かさずに話しかけた。

話しかけられた少年の方は驚愕する。

面識もない少女から、いきなり名前を呼ばれたのだ少年の心のうちは驚きを通り越して直ぐにでも逃げ出したいぐらいの恐怖が広がった。


「怖がらなくても大丈夫。あんた能力者でしょ?戦える?」

「無理…今さっきまでの俺だったらわかんねーけどあんたらの戦い見たら無理、ぜってー無理。たぶん…いや確実に一瞬で決着がつく。」


恐怖を押さえつけながらも答えた言葉は、いつわり無い彼のー宣夫のー感想だった。

少し離れたこの距離で霞む位なのだ、あの二人の間合いに入ったら何もさせてもらえずに再起不能にされる。

そんな確信があった。


「ふうん。自分の実力はわきまえてるんだ。いいわ、ここは何とかしとくから早く逃げなさい。正直邪魔なのよ、あんた達。」

「…解った、あんたに色々聞きたいけど今はそうさせてもらう。お前ら早く行くぞ。」


少年達は二人の少女が形成する純粋な武力の空間から逃げるように退散していく。


「さて、続きと行こうじゃない?」


少年達が居なくなるのを傍目で見届けながら彩は剣士に牽制とばかりに殺気を叩きつける。



「…以前、聞いた事がある。他人の行動や考えを読む『サトリ』。」


おそらく少年の驚愕の表情と名前を名指しで言ったことから推測をつけたのだろう。

ヒントを出しすぎたかと内心舌打ちしながら彩は口を開く。


「へえ、よく知っているじゃない。だったら解っているわよね?私達、能力者の能力を阻害する『神器』たるその『霧衣』。剥ぎ取って私の能力『モーション・エモーション』で、あんたから必要な情報を搾り取らせてもらうわ。」


決着をつけようと彩が一気に間合いを詰めるべく杖を前に構えたまま飛び込んだ。

しかし、その結果は肩透し。

彩が飛び込んだ場所に剣士がいないのだ。

見回し気配を探ると、そこは路地の壁。

何も足をかける場所のない、建物の壁(二階相当)に剣士はしゃがんでへばり付いていた。


「それは、遠慮する…。」

「待ちなさい!!」

「さよなら。」


それだけを言い残すと黒いレインコートの剣士が一瞬で霞み消える。


「チッ、運足『いかづち』まで使えるか…あれは追うのには骨が折れる…。」


瞬間で消えた剣士の追撃を早々に諦め、少し落胆した表情で彩は杖をしまうと再び暗い路地を歩き去る。

彼女は考える。


『しかし、目的への手がかりは得た。後は…。』


彼女は来た時と同じく考え事をしながら、街に群生する緑の闇に紛れた。


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