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変わる世界  作者: オピオイド
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意思の源泉


サイファ学園都市 実技演習区画 室内演習場


この学園はそれはそれは色々なモノや施設が、溢れ返る程ある。

機材や物資もそうだが、他の学校の人間が一番驚くのがその施設の多さ。

前回の舞台の工学部系実習区画もそうだが、農学部系には山一つと広大な農地と牧場、商業系には商業区画が丸々一区画貸し与えられている。

そんな実習区画の一つ、要人警護・警備専門コースの実習区画の屋内研修場で誠一は戦いを強いられていた。


「そらそらそらっ、しっかりと持っておかないと大怪我するぞ!!」


そう言いながら多々良は演習場の広場の真ん中で、彼自身の身の丈を越える巨大な鎚を振り上げていた。

それに対して誠一は、片手に身体を被う程の大きな盾の様なモノを構えていた。

誠一が持つその盾の様なモノに、多々良は鎚を力一杯振り下ろした。


「そらっ数えるぞ。一つ!! 二つ!! 三つ!!」

「ぐっぐうううぅぅっっ」


金属同士が当たっているとは思えない激しい音。

それを耐える為、誠一も歯を食いしばり盾の様なモノを持つ。


「四つ!! 五つ!! ………むう、皹がはいったのぅ。三国は70点と。さあ、誠一君もう一息」

「………たっ多々良さんっちょっとだけ、休憩………」

「ふぅ、励起法を使い、若いくせにもうバテたのかい」


誠一の持つ金属板に皹が入ると、多々良はポケットから手帳とペンを取り出し点数をつける。

多々良の猛鎚が止まった途端、誠一は手に持っていた盾の様なモノをを横に投げ出し座り込んだ。

話の流れから解るだろうが、実はテストの採点だった。

テストの仕方は簡単、鍛造した金属を合金にして盾を作り『頑丈さ』を見る。

採点方法は剛柔性などだが、今回は関係ないので割愛させていただく。



閑話休題



「若いって言っても限界あります。これでもう三十枚目ですよ?」

「これで半分じゃわい、もう少し気張らんかい。しかし、ヌシは励起法が少々甘いのう」

「甘い………ですか?」


励起法とは以前から何度も語られている通り、人を人以上のモノへと引き上げる『神の技術』と言っても過言ではない。

誠一の使うその技を多々良は甘いと言う。


「どんな所ですか? 差し支えなかったら教えて貰いたいのですが」

「何簡単な事。深度を下げるんじゃよ」

「深度を?」

「そうじゃ、しかもただ深度を下げるんじゃない。細かく行うんじゃ、解りやすく言えば限界ギリギリで止めて維持をする事じゃて」


励起法の身体強化のほとんどは能力者の演算能力に掛かっている。

解りやすく言えば、能力者の量子演算並の演算能力で自分の身体を操作していると言うこと。

深度を下げると言うことは大雑把に言えば、人体レベルの操作を臓器レベルへ、臓器レベルの操作を細胞レベル・分子レベル・原子レベルと下げて行くことだ。

しかし、この励起法は万能に見えて実は欠点がある。

ある程度までの強化は出来るがある深度を超すと、それ以上強化されなくなる。

それどころか、強化から一転して自壊を始めて死に至る場合もあるくらいだ。

多々良の言い分はそこにある。


「自分の限界を見極めろって事ですか」

「解りやすく言えばの。それさえ解れば立ち回りが上手くなるわい。パワーやスピードが変わっても、人も能力者も根本は変わらんって事じゃ」


そこまで話すと多々良はニィと笑い話を変えた。


「所でヌシはどんな武器を使いたいんじゃ?」

「突然ですね………実は俺自身、武器に適性がないんじゃないかと考えていたんです」


唐突な質問に誠一は真面目に返す。


「それじゃあなにかい? ヌシは武器はいらない、必要ないと考えとるんかい?」

「ぶっちゃけるとですね、自分にはこれがありますから。しかし………」


誠一は手甲を着けた手で拳をつくり誇示する。

自分の持ちうる最大の力の象徴。


「彩に聞いてるよ、力が通用しなかったんだって?」

「はい。ちょっとショックでしたね、今まで危険な戦いや格上との相手もしましたが、攻撃が通用しない相手はいませんでしたから。………でも良い経験でした、最近自分の力に酔って忘れていた事を思いだしました」


目的、自分の意志、それは世の中の理不尽を叩き潰す。


「そのために力を求めていました。そのために師の様に成りたいと願い師事しました。だから、俺は迷いません。『護天八龍』は武の体現、矛を止める為ならば武器だって使います………だから」



サイファ学園都市中央区画 教務課棟



サイファ学園都市の中央には色々なモノが集中する。

例えば市役所や警察署等がそう、町として機能するための公共施設等が集まるのだ。

だが、学園都市らしくこの町らしい特色の施設もある。

ガラス張りの四階建てのビル、それが教務課棟だ。

解りやすく言えば、学園都市の職員室とも言える場所と答えれば解るだろうか。

誠一が多々良とテストの採点をしている時、その教務課棟の廊下を彩は歩いていた。

やはりこの雰囲気はどこも変わらないなと彩は、能力『モーション・エモーション』の力を使い目を閉じ耳を澄ました。


『笹熊、最近テストの結果が悪いが………』

『スミマセン、今日の日誌を………』

『明日の授業のパワーポイントを………』

『今日は典子さんとデートだから、早く終わらせないと………』


彩の能力『モーション・エモーション』は脳から出ている神経インパルスを読み、相手の心理状態や感情、果ては次の行動まで読み取る脅威の能力だ。

彼女は今目的の相手を見付けるべく、視覚からの補正を捨て心の声を聞き探していた。


『高口先生………素敵』

『生徒の癖にエロい身体をして………』

『もう、こうなったら生徒と関係を』


相変わらずの人の心。

彩にとっての日常茶飯事の事だ。

彩は昔、これに悩み姉によく相談したものだ。

『人の心は醜くも美しい』とは姉の口癖。

あの頃はよく解らなかったが、色々な人に会い自分の能力を恐れず真正面から向き合ってくれた人に出会った今の自分ならわかると彩は考える。


『………これは、能力者!? しかも、この波動は折紙かっ!!』


見付けた。

そう呟いた後で、彩は心の声がした方へと歩む。

相手は忙しくて捕まらない上に、何かしらの情報を持っているにも関わらず会ってくれない。

だから彼女は、自分の励起法の波動をワザと放ち、自分の居場所を教えた。

その結果。


「やっと捕まえた。お久しぶりですね、重金教授」


『辰学院サイファ学園都市分室』と書かれたプレートがついたドアを開けた先には、苦虫をまとめて噛み潰した様な表情をした男『重金 浄』が座っていた。


「………ああ、久しぶりだ。折紙 彩」


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