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変わる世界  作者: オピオイド
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サイファ学園都市

高見原駅から電車を乗り継ぐ事4時間。

緑の占める高見原ほどではないが、海に面した町並みは誠一の住む町とあまり変わらなかった。

電車のボックス席に座る誠一は窓の外を眺めながらボーッとしながら考えていた。


「町並なんてどこも一緒よ」


声の出所である向かいの席を誠一が見れば、彩が読んでいた文庫本を閉まって彼の方を見ていた。


「………いつも言いますけどナチュラルに人の心を読まんで下さい………。修学旅行以外で町を出たことないから」

「不安になった?」

「いいえ。楽しみですよ………」


そう言いながら誠一は再び窓の外を見る。

町並みが段々と賑やかになってきたのが、到着を予感させる。


『間もなく学園都市中央駅に到着します。千穂線にお乗り換えは四番乗り場に………』



サイファ学園都市商業区画 『刃物の多々良』



サイファ学園都市の一画、中央の大通りから少し外れた場所にその店はあった。

古い店構えの店内は、薄暗い闇が静謐に漂っていた。


「もう、お爺ちゃんはまた………」


その店の状態を見て彩は、溜め息と共に肩を落とした。

さもありなん、店のドアに『閉店』の札が掛かっていたからだ。


「休み?」

「違うわ。店主が出てるだけ………まったく、バイト雇って店番させた方がいいって言ったのに」


そう言いながら店のドアをポケットから鍵を取り出し、彩は手慣れた手つきで鍵を開けて中に入る。


「ただいまー」

「お邪魔します」


ドアをくぐれば、少しヒンヤリとした空気が誠一の頬を撫でた。

店の中を見渡せば、ガラスケースに納められた刃物の山。

右を見れば包丁、左を見れば鋏。

肉切り包丁に出刃包丁、柳刃に鱧切り、剪定挟みに理容師用の鋏、果ては爪切りにツールナイフや日本刀と。


「………日本刀!?」

「あー触んないでね? 一応ガラスケースの鍵には儀式が使われているから大丈夫だけど、能力者でもぶった切れるらしいから」


周りの日常品に近いものから一線を画す、そのヌラッとした光を放つ鈍色の品にを覗き込んでいたら彩の注意がとんでくる。

慌てて離れる誠一。


「離れて見てるなら大丈夫よ。それより荷物をこっちに置いて、すぐ出かけるわ」

「どこに?」


誠一が見れば、店の奥から彩が顔だけをヒョコッと出していた。

店の奥は一段高い座敷になっていて、そこに荷物を置けと言うことらしい。

だが、彩はすぐに行動するらしいので誠一を急かしながら、座敷の部屋から見えた壁掛けのホワイトボードに書かれた予定表を指差す。


「お爺ちゃん、どうやら今日は実習の日らしくて、研究室にいるらしいの」

「研究室? …お爺さんって?」

「この学園の教師。たしか鍛造化学の教授」


教授と言えば凄い人なんじゃないと言えば、彩は家じゃ何でもない普通の人よと言う。

とは言うものの教師と言う人種は学生にとって、何時でも緊張を与えるモノである。

誠一は仕方がないかと心で折り合いをつけると、出掛ける用意をした。



サイファ学園都市 工学系区画 鍛造化学研究室



彩に連れて来られた場所は見た目工場だった。

研究室と聞いて、なにか最新機器がたくさんあり、所せましと実験器具があるのを想像していたので誠一は驚く。


「驚くのはしょうがないわ。私も見た時はとても驚いたわよ」

「まさか工場が研究室とは思わないよ」

「まあ、お爺ちゃんの研究室だけじゃないのよココ。サイファ学園都市の工業系実習室も兼ねて、元々あった工場を改造してるの。確か鍛造化学科や鋳造科、合金科とかも」

「にしても広いなぁ」


見上げれば凄い存在感と共の巨大な煙突がドンッと建っている。

誠一はこの学園の規模の大きさに、感嘆の溜め息を吐いた。


「とりあえず、こっち」

「あっああ」


彩に手を引かれ歩く事しばらく、誠一の耳に怒号の様な声が届く。


「吉村ー!! 目を離すなー集中しろ!! 石澤ーー!! 炉の温度は一定だぁー!! 下げるなっ!!」

近付けば近付く程大きくなる声と共に、打ち鳴らされる金属音が身体を震わせ熱気が段々と強まってくる。

角を曲がると、目の前の大きなトラックが入る程の巨大な入口見えた。

おそらくはそこから声や熱気が漏れているのだろう。


「むっ」


入口を入ると物凄い熱気が誠一を襲う。

それもその筈。


「なんだこれ」

「工業用の巨大電気炉。一回溶かした金属は、溶けている間に学生に配られて打たれるの。ほら」


広大なな空間の真ん中に、巨大な漏斗型の炉がありそこから放射状に小さな炉に繋がっていた。

その小さな炉、一つ一つに白い神職の服を着た青年達が各々で鎚を振るっていた。

音の大元はここかと思った瞬間、換気の流れる音以外が消える。


「えっっっ!?」


全員が誠一の方、いや誠一達を驚愕の表情をしていた。


「えっ」

「あっ………」



「彩ちゃんが彼氏連れて来たー!!!!」



男達の怒号の如き叫びが響いた。




「あー驚いた」

「グハハハッ災難だったなあ」


あれから揉みくちゃにされながら色んな事を根掘り葉掘りと聞かれた誠一だったが、それを治めたのが目の前の白い髭を蓄えサングラスをかけたバンダナ姿の老人だった。

彼の名は『多々たたら 忠雄だたお』、彩の説明通りサイファ学園都市の鋳造化学の教授である。

彼はグハハハハと豪快に笑うと彩に答える。


「仕方がなかろう。今まで誰にもなびかず、浮いた話もないうら若い娘が男を連れて来たらのぅ」

「お爺ちゃん!! もう、言ったでしょう!! 彼とはまだ何でもないの!!」


ほぉ〜と言って楽しそうに笑う多々良に、真っ赤になって否定する彩。

そんなに否定しなくても、と誠一が教授のデスク前のソファーで落ち込む。


「それよりお爺ちゃん? 電話での用件なんだけど」

「解っとるわ、儀式装備が欲しいって事じゃろう? 一つは出来とる。ほら」


ドスンと机が軋む重い音。

見れば白い布で包まれたモノが机の上に乗っていた。

彩が包みを解くと、そこには光消をされた黒色の金属の塊。


「これは手甲ですか?」

「弾性・剛性・粘性の三つの金属からなる合金に、儀式で極限まで強化した『ただ頑丈なだけ』の手甲じゃ」


むしろその方が良いと誠一は肯定の意味で頷く。

しかし、その答えでは納得いかないのは彩。


「お爺ちゃん、武器は?」

「出来とらん」

「なんでよ!!」

「ちょっと待って彩さん。頼んでるのはこっちだし、訳を聞きたいんだ」


また再び口論になりそうなのを誠一は止める。

彼の言い分を聞いた彩は、渋々ながらも怒りの矛先を治めた。


「武器が欲しいと言われて作るのは良いが、武器のバランスや特性を持たせるには使い手の情報がないと作りづらいわい。まあ、そんな訳でぬしらを待っとった」

「そうなんですか?」

「そうじゃよ? まあ、後は………」


ガシッと誠一は肩を捕まれた。


「血は繋がっとらんが、可愛い孫娘が………世話になったみたいだしのぉ」


振り向くたくても誠一は振り向けない。

振りほどこうとしても、肩よ砕けろと言わんがばかりの恐ろしいまでの力で掴まれて動けない。


「ちょっと、お話聞いちゃおうかのぅ」

「ちょっ多々良さん!? 落ち着いて!?」


ズルズルと奥の方にある『懲罰房』と書かれたプレートが掛かったドアへと引きずられる誠一。


「やれやれ」


いつの間にかにコーヒーを用意して飲んでいた彩はソファーに枝垂れかかりながら息をつく。


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