出会う世界 5月15日加筆修正
高見原学園 二年生廊下 午前10時
授業の合間の休み時間は、日本のみならず世界の学校どこだってざわついている。
教室のみならず廊下でも、人の笑い声や話し声が色んな場所で溢れていた。
そんな中、まだ授業があると言うのに、帰り支度をしてあるく男がいた。
彼は学校にもかかわらず大きなボストンバッグを背に、目当ての教室へと入って行った。
「東哉」
低い低音域の声で彼が呼ぶと、二人の女性と男性と談笑していた東哉と呼ばれた男がアレッ? と声の主を見た。
「珍しいな、誠一がコッチのクラスに来るなんて」
「いや、朝連絡するつもりだったんだが忘れててな」
「連絡? 何だって荷物が多いな?」
とそこまで言うと誠一と東哉は、三人の視線に気付く。
「どっどうしたんだ皆?」
今まで見たことのない視線を感じて、東哉は怯みながら聞き返す。
「いやなぁ」
「東哉君が私たち以外の友達がいたんだって驚いたんだよ〜」
「ちょっ天音っいくら本当の事でも言っちゃだめー」
「何か最近、天子が黒い………」
「いや、東哉? 元気だせ? な? な!?」
落ち込み椅子の上で膝を抱える東哉、それをフォローする男。
傍らでは黒い雰囲気を撒き散らす笑顔の少女と、その少女を宥めるつもりでトドメをいれたクール系の少女。
ハッキリ言ってカオスだ。
その状況を打破するべく誠一は話し掛ける。
「東哉………あー彼らは?」
誠一の言葉に東哉は気を取り直すと、彼等を紹介し始める。
「みんな紹介する。隣のクラスの水上誠一。こっちは浩二。俺の腐れ縁」
「片渕浩二だ。よろしくな」
「彼女は香住屋斎、女子剣道部の主将」
「君の噂は聞いてるよ水上。中国拳法やってるんだって?」
「ははっ。かじってるだけさ」
俺の紹介大雑把じゃねと落ち込む浩二をよそに、東哉は斎との会話に『どこが』かじった程度だと心で突っ込む。
まあ、能力者とか励起法とかの説明なんて出来るはずもなく、紹介は続く。
「んで、こっちが天子。蒼葉天子………ん? どうしたんだ誠一」
と天子を紹介していると、誠一の顔が強張っていた。
何事かと誠一に聞くが、『何でもない』と返される。
釈然としないが、話が進まないので東哉は続ける事にした。
「天子、友達の誠一だ」
「………こんにちは」
「ああ、よろしく」
が、依然として雰囲気は何故か殺伐としていた。
「…ああっそうだ、誠一は東哉に何の用なんだ?」
それに堪え難たのか浩二が、話を強引に変えてきた。
「………ああ、そうだな。東哉、話があるから少し良いか?」
そう言いながら、誠一は東哉を廊下へと連れていく。
他の人間の視線を集めながら。
だからだろう、彼等は天子の呟きを聞き逃した。
『水龍』と。
「で、話って?」
「簡単な話だ。少し高見原を離れる」
廊下に出て二人は密談をするために、非常階段の踊場まで歩いてきた。
そこでさっきまで殺伐としていた雰囲気の誠一に東哉が話を切り出すと、返答はアッサリと尚且つ簡潔に返ってきた。
「突然だな。理由を聞いても?」
東哉はとある一件から誠一と出会い、彼が身近な戦闘の先達と知り、この数週間の間に朝練と称して修行している。
その修行をともにしている彼が突然町を出る、と言えば少なからず気になるのは人の常だ。
「昨晩変態が出てな」
しかし予想は斜め上を行く。
高見原を出る事と、変態が出た事があまりに繋がらない。
毎朝手合わせをして解っている誠一の実力を考えれば、変態を恐れる事はないので尚更意味が解らない。
そんな困惑の表情を浮かべてた東哉に、誠一は苦笑混じりに昨晩の説明をした。
「………って事は、今この街にはパッションレッドと言う変態が徘徊してるって事か?」
「そう言うこった。しかも今まの俺の実力じゃ良くて相打ちだな」
「最悪だっ」
思わず叫ぶ東哉。
ただでさえ誠一相手では、毛ほどの傷一つ負わせられないほどの差があるのだ。
そんな相手と戦って勝てる訳がないので、東哉は叫び声に近い声を上げた。
そこで東哉は気づく。
「ん? だったら何で高見原を?」
「ああ、その時居合わせた人間と話し合った結果、俺に武器をあつらえようってなってな」
「………っん? はぁ?」
東哉は一瞬言葉の意味を忘れる。
「まあ、武器で戦う事になったらまた修行付き合ってくれ」
「いやいやいやいや!! 待て早まるな!!」
そう、毎朝訓練と称したある意味イジメや虐待に近いアレに武器が加わる。
火を見るより早く、自分の凄惨な未来を幻視した東哉は思わず誠一を止める。
「どっどうした!?」
青だか白だが解らない顔色し錯乱する東哉を、誠一は心配する。
それを何でもないと手で制する。
今まで死と隣り合わせの戦いはあったが、一番の死神は身近だった衝撃的事実に東哉は絶望した。
(ヤバイ早く何とかしないと死ぬ、主に俺が!!)
必死の覚悟に近い心の叫びを東哉はあげていた。
数分後
「落ち着いたか?」
「ああ」
数分経ちようやく錯乱が抜けた東哉が、腹を押さえてうずくまっていた。
話が続かないので、励起法を使ってない状態で東哉の腹を打ち付けたのだ。
「でもイテェ」
「話の腰を折るからだ、話を続けるぞ。まあ、そんな訳で一週間程留守にするから変態に気をつけろよ? 決して戦おうとするなよ?」
「解ってるよ」
「………まあ、連絡はそれだけだ。お前の友達にも、よろしくな」
そう言うと誠一は、東哉の肩を叩き非常階段を降りていく。
「誠一、所でどこにいくんだ?」
「あー彩さんの知り合いの鍛冶屋らしい、なんか時代錯誤だろ? ああ、行き先だったな」
振り返る誠一が不敵に笑う。
「サイファ学園都市さ」