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変わる世界  作者: オピオイド
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剣と杖

高見原の噂は大抵、若者達の噂話かインターネットの中だけに限定される。


曰く、何かしらの政治的判断で発展した『謀略都市』


曰く、何かしらのオカルト現象が多発する『オカルト都市』


曰く、森林都市ゆえに犯罪率が異常に高い高い『犯罪都市』


などなど、噂に事欠かない都市だ。

真実と嘘が織り交ざった様な噂が数多く飛び交っているのが今現在の現状。

しかし、問題はこの話は情報が自由なインターネット上でしか成り立たないと言う事だ。

だからこそ…



高見原市桜区楼閣町 路地裏

午後22時




緑に囲まれた街、高見原。

それ故に、この街は闇がほかの都市に比べてとても深い。

蔦や剪定されていながらも無秩序に生い茂る木々が街のあらゆる場所を覆い隠しているのが主な原因だ。

そんな要因があるために、この地は犯罪率が他の都市と比べ群を抜いて高い。

路地裏に入ればそれは顕著に現れる。

木々の生い茂るデットスペースにたむろす少年達。

暗がりから何かを勧めてくる、やくざ風の男達。

木々の匂い立ち込める中に混じる、タバコと香水の香りがいっそう暗い雰囲気をかもし出す。

こんなのが当たり前の日常、これが高見原の闇だ。


その薄暗い闇の中一人の少女が悠然と歩いている。

デニムのパンツ、茶色のカットソーとⅤネックのニット、黒い無地の帽子を被った少女。

私服で解らないが、帽子から覗く釣り目がちな眼は夕方『水上 誠一』が助けた少女だった。

明らかな危険を理解しているのだろうか?と聞かれたらしていないのではと疑われる程に悠然と歩いていた。

しかし、実際のところ彼女はそんな些細な事は気にしていない。

彼女の頭には夕方の少年のことで一杯だった。


『あいつは何だったのだろう? 私を襲った奴とは違うみたいだし…でもあいつも能力者だ。励起法なんて儀式使えるのは能力者しか居ないし…だったら私の能力が阻害されたのも…。』


この世界には能力者という者が存在する。

常識を凌駕した技を使う人を超えたモノ。

彼女もその一人だ。

名前は折紙おりがみ あや高見原から少し離れた街から来た少女である。

彼女はとある目的の為に、ある噂を聞いてやってきたのだ。

しかし、彼女の目的は調べようとした矢先に何者かに邪魔された。

そう、夕方に起きた交差点の一件だ。

彼女は病気や怪我どころか意図して交差点で留まって居たわけではない、何者かの能力もしくは『儀式』と呼ばれる業で金縛りにあっていたのだった。

相手は自分が能力者と知ってか知らずか仕掛けてきた。


『いや、違う。あれは無差別に仕掛けたわけじゃない。私達、能力者に対しての罠だ。』


自身の経験からか、そのような痕跡を見つけたかは解らないが、彼女には妙な確信があった。


『車が私目掛けて突っ込んで来た…怪我をしたらそのまま、避けれたら敵対の能力者ってとこかな?だとしたら、私を助けたあいつが危ないかも…。』


「なあ、お姉さん。」


考えながら歩く少女に声をかける少年の声。

ちらと見るとたむろしていた少年達が、下卑た笑いを顔に貼り付けて近づいてきていた。

その中の一人、茶髪にピアスをした少年が声をかけてきていた。


「ちっと俺らとあそばねえ?」


なれなれしく肩に手をかける少年。

普通の少女ならば、恐れるか嫌悪感をあらわに嫌がるだろう。

しかし彼らの目の前の少女はそんな生易しいものではなかった。


フッ


何か抜けるような音と共に少女の姿がかき消え、肩に手をかけた少年が宙を舞う。


「えっ!?」


間抜けな声と共に少年が大地に沈む。

それを見ていた少年達は驚き、呆然としていた。

数瞬、彼らは止まっていた。


「情けない。」


空白を破るように少女の声が路地裏に響く。


「これならば『偽神』と言うのも納得がいくわね。『神域』が弱い上に感知も荒い、出来るのは励起法ぐらいか…まさに大量生産品いや粗悪品に近いわね。」


瞬間、『粗悪品』の言葉で少年達は一気に激高した。

おそらくは彼らにとって、逆鱗に触れるような事だったのだろう。

いつもの彼らであればすぐにでも殴りかかっていた。

しかし彼らは襲い掛かることも飛び掛る事もしない。


ニィッ


そんな擬音語が当て嵌まる様に彩の笑顔に押されていた。

笑顔と猛禽類を彷彿させる眼差しを恐れた少年達は思わず後ずさる。

しかし、少年達はすぐに違和感を覚える。

彼女の目は数瞬前と違い自分達を見ていない。

それどころか、自分達の後ろを見ていた。

見た目と反した威圧感を感じさせる少女の視線の先を、少年達は申し合わせた様に振り返った。

そして彼等は振り返った事を後悔した。


「うっ嘘だろ。」

「桜坂の剣士か!?」

「こんな所まできやがった!」


そこに居たのは腰に黒い木刀、白のスラックスとワイシャツに漆黒のレインコートを羽織った人物がいた。

身長は160位の細身、目深に被ったフードから流れる黒髪とささやかに主張する胸の膨らみが女性だと伝えている。

しかし、そんな情報は少年達にとって、どうでも良かった。

彼女の黒の装いと木刀が問題だった。

高見原にはいくつもの噂がある。

自分の子供を探し夜な夜な徘徊する怪人の噂。

深夜マンホールから顔をもたげる巨大蛇の噂。

人を喰う化け物の噂、そんな都市伝説が高見原にはいくつもある。

その中でもライトで有名な物が『桜坂の剣士』の噂だ。

噂の内容はありきたりな勧善懲悪な話。

簡潔に説明すれば、正義を行う謎の怪人の話。

夜な夜な現れては、悪事を働く悪人達を再起不能にしていく物騒な噂である。

それは普通に生活している人間にとっては有り難いことであるので、噂の中でも『そんな人がいたらいいよねー』で済まされる話だ。

普通の人間であれば。

裏路地にたむろす健全と言い難い少年達にとっては違った。

実際に彼等は見て来ているのだ『再起不能』あった人間に。

それ故の恐怖。



しかし、そんな少年達の横を擦り抜け桜坂の剣士に相対する人間がいた。


「見付けたわよ。『霧島の剣士』。」


不敵な笑みを浮かべた彩である。

彼女は悠然と少年達と剣士の間に立ち塞がると背中に背負っていた細長い袋を手にとる。


「黒の『霧衣』を着てるって事は実戦に出てる実働部隊の人間。私はあんたに聞きたい事があって此処まで来た・・・白の『霧衣』を来た長身の男を知らない?」


そこからは劇的だった。

何の反応も見せなかった桜坂の剣士から気迫が漏れ出し、腰の木刀を抜き放ち下段に構えたのだ。


「問答無用?いや話すつもりはない訳ね…いいわ、だんまりのその口、無理矢理でも開かせる。」


そういいながら彩は袋から鉄で拵えた杖を取り出し右手で構える。


「守部神道流…参る。」


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