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変わる世界  作者: オピオイド
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外話 サイファ学園都市 中編

「何だこれ」


警視庁特殊部隊(Special Assault Team通称SAT)の分隊長の都築は、意識を保ちながら痛む身体をコンクリートの壁に預けながら呆然と呟いた。

ただの合同演習の命令だった筈なのに。

今さらながらそう思いながら、辞令が降り上司に『温い』と直談判をしに行った都築は自分を呪う。

合同演習。

他国の特殊部隊等の演習は公にはならないが、それ自体はよくある話だ。

しかし、今回は別の部隊が入ってきた。

『サイファセキュリティサービス』と言う企業お抱えの部隊。

常日頃から過酷な訓練を行ってきた都築にとっては、ハッキリ言って邪魔だった。

強くなりこの国の安全を護る、向上心あふれる彼の理想のカンに障ったのだ。

定年で去ったり、天下り警官が集まって出来た志のない軟弱な奴らとしか都築は考えていなかった。

そんな奴らと合同演習と聞いて、彼は怒りに任せて上役に噛み付いた。

『なぜ民間の警備会社風情が間に入るのか』と。

それに対する上役の回答は、『何事も経験だ。井の中の蛙の君には、特に良い経験になるだろう』と何とも人を喰った様な言い方だった。

上役は宥めたつもりかもしれない。

しかし都築にとっては逆効果、国の市民の生活を護るのは自分達というプライドに障ったとも言う。

だが鼻息が荒くサイファ学園都市に来た都築は、自信のプライドが呆気なく砕ける音を聞く。



それが冒頭に続く。



ズゥンズゥンと連続した重く身体をの芯を響かせる音。

雷が爆ぜる様な音にも似て、戦場の様相を醸し出していた。

それがこの合同演習場で死屍累々と倒れ伏している全員が共通して思っている事だった。


「本当に何だこれは…」

「これが能力者同士の、しかもドップレベルの戦いだよMr.ツヅキ」


都築が呻く様に紡いだ言葉を誰かが継ぐ。

都築が目だけを横にやると、そこにはヘルメットから覗く碧い目が彼を見ていた。

都市迷彩を着込んだ大柄でガッシリとした体格が都築と同様にコンクリートに背中を預けている。


「あんたは確か」

「こんな格好で申し訳ないがSASのリーガルだ」


都築が思い出したのは、演習前に顔合わせをしたSASの方の小隊長。

彼自身もさることながら、彼の周りの隊員の練度を見て都築は唸ってしまったのも思い出す。

しかし、今はそんな問題ではない。

彼のいった言葉が問題なのだ。

都築自身が知る能力者とは超能力者のようなもの。

世間一般では公にはされていないが、東京などの大都市では不可解な事件の裏に居るであろう存在。

SATの中では有名な話で、それを専門にする部署も出来ているぐらいだ。

しかし…


「能力者だと? 馬鹿なこんな」

「驚くのも無理が無いさ。軍部にいる私とて聞きはするが見るのはこれが初めてと言う事だけど」


リーガルがふと目を移すと、それに釣られるように都築もその目線の先を見た。

そこには嵐のような戦いがあった。








「ったく。そう突っかかるな紫門」

「やかましいわ。自重しない貴様が悪い!!」


やや疲れ気味な言葉を吐きながら風文は、満面の笑顔で太刀を袈裟懸けに振り下ろす。

普通の人間の動体視力であれば捉えきれない異常な剣速。

しかし、それを二刀をもって危なげも無く受け流す男――七凪紫門――がいた。

濃紺のウインドブレーカーを羽織り、表情が見えないくらいフードを目深にかぶり左手を逆手に右手を順手に直刀を持ち嵐の様に打ち込まれる風文の剣撃を悉くいなしていた。

袈裟切りを受け流し、切り払いを打ち落とし、切り上げをほんの少しの踏み込みで避ける。

それが世間話のようなトーンと共に喋りながら…常人から見ればハッキリ言って異常な戦いだ。


「自重といってもな。俺は俺らしく振舞っているに過ぎないんだがな?」

「貴様、自重という意味を知っているか?」

「知っているぞ? 言動を慎み、軽はずみな事をしない事だ」

「アホか貴様!! もしくは解ってて言ってんのか、ああ!?」


世間話と言うより掛け合い漫才の様相になりながら、二人の戦いは巧手を交代しながらも続く。

風文の烈風の如き横薙ぎを、紫門は大きく腰を落とし体勢を低く保ちやり過ごしクルリと魔法の様に右手の直刀を逆手に変え叩きつける様に振り下ろす。

それを予見してたかの様に、返す刀を一瞬だけ地に着く下段に構え振り上げる。


「む」

「ぐ」


風文の狙いとしては昇り風(三剣の使う剣術において、切り上げの総称)からの颪(『おろし』上から吹き付ける風を指す。これも打ち下ろしの総称)で牽制で体勢を崩して、旋風(相手を中心にして回るような歩法からの攻撃の総称)を叩き込むつもりであった。

しかし、その思惑は紫門の思ったより激しい切り下ろしによって、衝撃波を伴うぐらいの激しい音と共にお互いはじかれるように吹き飛ぶ。

風文はアスファルトで固められた床を削りながら後ろへ、紫門はアーチを描くように空中へ投げ出されながらお互いに体勢を整えた。

追撃をかけるべく風文は紫門が落ちて来るであろう場所を見るが、影も形も無い。

風文が視線を上げると、そこには『壁を走る』紫門。


「チッ。どの神道流に共通する歩法『神足通』か」


風文も演習場内に建てられたビルへと向かうと、同じように壁を走り出す。

『神道流』と言えば、宗教で言う所の神道を思い出すだろう。

しかし、風文の言う『神道流』はそう言うものではなく『武術』と言う意味でのモノだ。

だが純粋な『武術』の『神道流』と言うのが正解か、と言われても微妙に違う。

それは日本最古の剣術『香取神道流』とは一線を画し、正確に言えば『能力者』が使う『武術』体系の大本が『神道流』なのだ。

考えてみると良いだろう、『武術』の中で人智を凌駕した身体能力を急激に跳ね上げる『神威(励起法の事)』があるだろうか?

衝撃波を発するほどの戦い、壁を普通に駆け回る、肉眼で追い切れない動きを出す事が出来るだろうか?

答えは自ずと解る、風文の言う『神道流』とは能力者が使う武術体系だと。


「貴様の戦いは全てを巻き込む!! その二つ名『風天神』の名の通り嵐となって関係ないモノもな!!」

「ハッ、甘いわ紫門。すでに賽は投げられてる、俺の意思なぞなくても戦いは戦禍は広がる」

「それでは何故人を集める!! この間お前が頼んできた莉奈と言う少女はどうするつもりだ!!」


二人は同時に壁を蹴り、空中で近接戦闘の間合いに入り互いに切りかかり弾け飛ぶ。


「『能力者』とはそう言うものだ。紫門貴様もわからんでもないだろうが!! 古くはヨーロッパの魔女狩りや日本の比叡山の焼討ち。能力者とは常に災禍と共にある。身を守る術をを学ばせるのは当たり前だろうが」

「ハッ、そうやって手下や仲間を増やすのが貴様の常套手段だろうが!!」

「当然だ」

「少しは否定しろ!!!!!!!!」


二人とも地に落ち、紫門は再び踏み込み風文は詰められた分の間合いを離す。

風文が太刀を持たない右手が剣指(指を剣に見立て立てる。風文の場合は人差し指と中指のみを立てている)を形作っているのを見た瞬間、紫門が慌てて横へと跳んだ。


「うおっおおお!!」

「マイガッ!!」


紫門が横へと跳んだのと、風文の右手が振り上げられたのは同時だった。

瞬間、風文の手より放たれたのは衝撃波を伴う風の刃。

刃は大地を引き裂きながら壁にもたれ掛かる都築とリーガルの間を抜け、彼らの間に深々と爪あとを残す。


「三剣神道流『烈風』か」

「いかにも…さて、もう少し付き合ってもらうぞってぇ!!」


風文が今までとは違う軽く腰を落とした構えを取ろうとした瞬間、彼は顔を後ろにそらした。

顔の前を通り過ぎる黒い小さな鉄塊、その軌跡を見ればコンクリートの壁に深々と刺さる鉄釘が見えただろう。

しかし、風文はそれを見ずにその釘が飛んできた方を見た。


「思惟か」

「思惟かじゃないわ…まったく、あんたは相変わらずね。はあ、『八方塞はっぽうふさがり』の緊急招集」


そこに居たのは、目元だけを開け黒いノッペリとした仮面を被った思惟が立っていた。

風文はそれを聞くとヤレヤレと肩を落とす。


「紫門ここでお終いだ。フレイア、後始末を頼む」

「了解しました。行ってらっしゃいませ」


右手を胸に当てながら深々と礼をしながら、納得行かない顔をした紫門を引き連れるように去っていく風文を見送るフレイア。

それを座ったまま都築とリーガルは見ていた。


「ミスタ都築。世界は広く遠い…そう思わないか?」

「ああ、そうだな」




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