導き導く者
今回の話はぶっちゃけ『いつもの日々に至るまで』へと続く話にもなっています。
話が複雑化してきました、ここらで時系列を作った方が良いのでしょうか?
では本編をどうぞ
革靴であればカツカツカツと規則正しい音をたてるであろう足どりは、普段ならば几帳面さや生真面目さを感じさせる。
が、足音の主の表情を見れば今は怒りしか感じさせなかった。
深夜12時00分 高見原市海原区海神町 24hファミレス『Mrs.Patricia』
そう誠一は苛立っていた。
あの後、男が隊長格だったのか勝ち目がないと悟ったのかは解らないが、儀式による人払いの音と包囲が消えていた。
それこそ倒した男や戦った痕跡も跡形もなく。
余りの引き際の良さに、さっきの戦いは夢かと誠一が錯覚するほどだ。
誠一が自身の感覚を確かめるべく、頬を抓っている時にその連絡はきた。
ポケットに入れていた携帯電話が、一通のメールを知らせていた。
『一度、海原区を出て戻ってこい。海神町のパティで待っている。 桂二』
メールを開いて見れば誠一からの連絡だった。
名前を相手に知られているならば、監視をされている可能性がある。
そう思った誠一は、桂二の回りくどい指示に納得しながらそれに従う。
そこまでは良かった。
「いや、そんな事ないって。俺が好きなのは詩織ちゃんだけだって…………この間の人? ああ、姉さんだよ。ほら、歳が違ったし彼女婚約指輪しとただろう? 俺は歳上駄目なんだって…………そうそう、だからさ〜少し金を…」
「何処の詐欺師だっ!!」
「ゴガッップ」
人の疎らな深夜のファミレスに入って、最初に聞こえた会話に怒りと共に拳で後頭部を殴ったのは間違いではないだろう。
「…ってぇ、何をする誠一」
「それは俺の台詞だ、人が戦って遠回りして来てみたら何の会話をしている何の!!」
「いや知り合いの詩織ちゃんに融資の相談を…」
「典型的なヒモの会話だ、今のは!!」
まったくと溜息を吐きながら誠一は、桂二と同じボックス席の対面に男が座っている事に気付く。
テーブルに突っ伏す頭、無造作に伸ばした黒髪。
起き上がった頭から見えた目が合うと、そこには誠一の学校では有名人の顔があった。
「…確かリアルギャルゲー、」
「何だそれ」
「なんでもない」
思わず友達同士での通称を口走りそうになり口をつぐむ誠一。
そう、彼は誠一の通う学校内の男子生徒限定での有名人なのだ。
苗字の違う血の繋がらない美人の妹『篠崎莉奈』と屋根一つ下で暮らしている事と、学校では名の通った年上系の女子剣道部の主将『香住屋斎』。
更には、高見原学園のミス天然キャラに選ばれた(高見原学園男子生徒有志の秘密ランキングらしい)『蒼羽天子』と男子生徒の人気上位三人が、彼の近くにいてグループを作っているのだ。
その状況から周りは彼の事をこう呼ぶ『リアルギャルゲー野郎』と。
と、そこまで目の前の人物を思い起こしていると何故この場にいるのかと疑問が浮かぶ。
彼とは例の妹に告白して玉砕したあげく、この間の林間学校で難癖付けた親友の一人がいるのであながち無関係ではない。
だがしかし、この場の戦闘後のこの状況ではそぐわない。
どう言う状況だと考えながら桂二の隣に座ると、隣から爆弾発言を聞いた。
「こいつも能力者だ」
「ちょっ!!」
「おい、桂二って………ん?」
いきなりの暴露に慌てる誠一。
しかし慌てたのは誠一だけではなく、対面に座る彼もだった。
「まさか、お前の今さっきの用事ってコイツか?」
「御名答〜。以前から、チョイと情報を回しててなぁ」
桂二の話を纏めるとこうだった。
どうやら目の前の人物『船津東哉』は、失踪した例の妹を日夜探し回っているらしい。
妹が失踪した原因はどうやら何らかの『能力』の発現を見られたらしく、それをかしらの不思議な力に関連していると踏んだ彼は桂二に頼んで高見原で噂される『七不思議』を調べる事にしたらしい。
そして、その結果…。
「あー、お前はその地下研究所から脱出して来た?」
「あっああ」
「それで逃げる時に追っ手を振り切る為に、出入口を能力で破壊したと?」
「ああ、うん。…何か不都合な事でもあったか?」
不都合も何も…と力無く呟くと、今度は誠一がテーブルに突っ伏す。
「俺の努力が………」
「水の泡ってヤツだ」
「言うな」
どうやら彼が出て来た場所は、誠一が今から調べようとしていた場所。
それを出掛かりに潰されてたら脱力感に包まれるのは当たり前だろう。
誠一はここ二・三週間の苦労を思い返していると、ふと前に座る男から視線を感じた。
「…なんだ?」
意志の篭った目とでも言えば良いのだろうか、何かを決断する様な雰囲気。
誠一は何事だと訝しげに見ようとした瞬間、彼は頭をいきなり下げた。
「頼む!! 俺に戦い方を教えてくれ!!」
突然の事に誠一は何と言って良いか解らない。
状況も解らずただ流される気もない誠一は、ナンダコレと隣に座る悪友へと視線を移した。
「簡単に説明するとだ。 こいつは今までの事で自分の力不足を感じて何とかしたいんだと」
「で、戦い方って事か」
何となく誠一は共感した。
自分の無力さや力のなさは、自分自身も感じた事だ。
犯罪に巻き込まれた時や求めても力がなくて得られない時、誠一は何度も感じていた。
自分の時は思惟と言う師事出来る人がいたが、目の前の人物はどうだろう。
ましてや能力者の背景や今の高見原の状況を考えると、戦い方を知るのは必要だと誠一は考えた所で一つの提案を出した。
「俺は、人に教える程の力量じゃない。下手に教えると教えた奴を殺す羽目になりかねないから師匠に禁じられてる…だから、」
「それでも!! 教えて欲しいんだ。この間、教えてくれた人は『自分が知ってるのは護身術程度だから』って言われた。他の能力者の知り合いはいないんだ」
「最後まで話を聞け」
頭を上げずに噛み付かんばかりに言って来るのをピシャリと押し止めると、誠一は喋れなかった言葉を継いだ。
「修業に付き合うってのはどうだろう」
「修業?」
「そう、教える事は出来ない。だけど修業に俺の組み手相手とかだったら教えてる訳じゃない」
そこまで言うと、彼はようやく頭をあげる。
再び頭を下げる。
「頼む」
「頼まれた。それじゃあ、ヨロシク水上誠一だ」
「俺は東哉、船津東哉。よろしく頼む」