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変わる世界  作者: オピオイド
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意外な遭遇

「意外と早かったな」


人も疎らになった深夜の高見原タワー前。

物影から呆然と高見原タワーを見上げる誠一の背に、不意に声がかけられる。

ここ数日の彩との訓練の成果で、励起法で一瞬にして身体能力をトップギアまで引き上げると振り向きざまに掌底を打ち込もうとして止める。


「桂、お前…」

「よっ誠一、学校ぶり」


そこには何時も通り、胸元を開いた軽薄な格好をした茶髪の男が笑顔で立っていた。

軽くでも当たれば普通の人間であれば即死するであろう一撃を食らわすところだったと、誠一は安堵の息を吐きながら肩の力を抜く。

もう少しで悪友に簡単に殺されそうになっていた当の本人は、そんな事も知ってか知らずかケロリと笑っている。

やっぱり打ち込むべきだったかと内心思いながら、誠一は目の前の悪友に問い掛ける。


「お前、何でここに?」

「何でとは酷いな。お前から聞かれた事を更に精確に教えてやる為に、追加調査をしていた、こ・の・俺に」


桂二の言い分としては、どうやら前回聞かれた『超能力が使える薬』について精確に教えてやれなかった事が、『自称情報屋』としていたくプライドが傷付いたらしい。


「このままでは俺の沽券に関わると思って、此処まで出ばった訳だ」

「お前、意外とマメだな」

「ふっ今になって俺の魅力に気が付くとは、惚れんなよ」

「惚れるか阿呆」


何時も通りの学校の日常を彷彿とさせる会話に、誠一は肩の力と警戒心が霧散しそうになる。

流石にこの状況で気を抜くのはマズイので、誠一は気を引き締め直して桂二に問い掛けた。


「ハァ…お前の情報網の凄さは解ったけど、そんだけ知っているなら今どれだけ危険かわかってるか?」

「解ってるさ」

「どこがだよ」

「能力者……だろ?」


その単語を聞いた途端、誠一は顔が強張るのを感じた。

気付きたての能力者で、つい最近まで一般人であり能力者の迫害の歴史を彩から聞いていた誠一としては隠しておきたかった事柄。

普通の力を持たない人間にとっては理解出来ないであろう異質な力。

恐れるのは当然であろう力を持ち、世の中の理不尽さに立ちはだかろうと決めた誠一にとっては恐れられると言うことは彼自身辛い事だろう。

しかし、


「だったら、お前がいるなら俺は大丈夫じゃねえ?」

「…はぁ?」


恐れとはまったく逆の、あっけらかんとした断定気味の物言いに誠一は肩透かしを喰らったかの様にアングリと口を開き桂二の顔をマジマジと見てしまう。


「どういう意味だそりゃ?」

「意味ってお前…付き合い長いんだから、それくらい分かれよな? 例えばだ…ここら辺に頻繁に目撃されている能力者を狩っている連中がいるんだが、そいつらの構成員の殆どが能力者の上に励起法を使える訳だ。フツーの人間の俺としては、そんなのにガチでやり合えない。そこで、お前が登場して………」

「マテ、マテ、マテ。…なんかちょっと待て。こんがらがってきた、少し整理させろ」


誠一はいきなりの展開に混乱する。

それは仕方がない事かもしれない。

桂二が言った通り、長い付き合いの悪友から最近知り得た情報が簡単に出てきたのだ。

しかも、話の内容から考えるに相手は誠一が能力者と言う事を前提に話している。


「…どこから突っ込めば良いか解らん。ただ言いたいのは、お前は俺の事」

「ああ、知ってるぜ。ヨーロッパの方で有名な武闘派の能力者『フランベルジェ』と相打ちながら倒した能力者って…ん?」


その時だった。

何かに気付いたかのように桂二の視線が動く。

誠一が釣られてみれば、高見原タワーの方から何かしらが崩れ落ちる様な地響きが聞こえる。


「こりゃあ何か起こったな」

「何か?」

「わかんねぇよ。ただ高見原タワーの方が慌ただしくなってやがる。この間の地下鉄の落盤事故、で奴ら躍起になってるからな。奴に流した情報の結果から考えると、一番確率が低い予想か? んっあれは…」

「…? おい、桂二。お前何を言ってるんだ?」

「わりぃ誠一。用が出来た、後頼む」

「ちょっと待………っっっ!!」


突然呟きだし、訳が解らなくなった悪友が何かを見つけたかのように走り出す様を見て誠一は慌てて止めようとした。

しかし、それは叶わない。

自分を見る視線に気付いたからだ。


(……1、2、5。マズイ…最低六人に囲まれている、と思う)


自分が置かれている状況が解らない事に悪態をつきたくなりながら、誠一は再び励起法の深度を限界まで下げ身体能力を極限まで引き上げた。

その瞬間、周りの気配に変化が起こる。


(しまった!!)


そこで誠一は自分の失敗に気付く、励起法を行うべきではない事に。

周りを囲んでいるであろう人物は、自分が能力者である事に気付いていない筈だったのだ。

しかし、今励起法を最大深度で行ってしまった事により気付かれてしまった。


(励起法は最小深度で行うべきだっ。なんて迂闊)


要らぬ戦闘を呼び込んだ事に歯噛みしながらも、先に居なくなった桂二が逃げやすくなったかもしれないと気付いた誠一は頭を戦闘に切り換える。


(お前が居るから、俺は大丈夫か……いいさ、桂二。今はお前の言う通りにしてやるさ)


そう誰にも聞こえない声で呟くと、誠一は腰を落とし構えた。


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