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変わる世界  作者: オピオイド
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尾行

コツコツコツと、普通ならば音が少なからず響くであろう人の疎らな住宅街と繁華街を繋ぐ裏道。

家と道を分けるのは規則正しく並んだ立木、コンクリートの壁には蔦が這い特有の硬質な壁を覆い隠すように緑が包む。

この様にこの町は普通の町と違い異常なまでに緑が多いため、小さな物音はすべて周りの緑に吸い込まれてとても静かだ。

若い女性や小さな子供にとっては、不安になる事うけあいの雰囲気。

しかし、誠一にとっては好都合。

目の前を歩く三十代くらいのサラリーマン風の男について歩く誠一は、そう思いながら気を引き締めた。





事の発端は誠一が悪友の桂二に頼んだ『桃山財閥に関するレポート』だ。

八年前から行方不明になっている『折紙 彩』の姉『折紙(おりがみ) 奈緒美(なおみ)』最後に見かけたのが勤めていた研究所が、桃山財閥が運営する研究所だった。

彩はレポートの一部を取り出し指差す。


「この第三研究所で姉さんは仕事してたの。私も一回行ったのを覚えてるから間違いないわ。私、今でも覚えてる。姉さん『私の仕事は人々皆が幸せになる為の薬を作ってる』って。あなたも私も、いつか幸せになるのっていつもの言ってた」

「薬? でも、このレポートじゃバイオプラントって」

「あながち間違いじゃないわ。姉さんの分子生物学を専攻してたらしいから…」

「それって、どう言う?」

「微生物学や遺伝子工学にも手を出してらしいから、バイオプラントって言うのも間違いじゃないとは思う。でも、何かおかしい」


彩は俯きがちになり、レポートを睨みつける。

そこでアレ? と誠一が気付く。


「何で『超能力が使える薬』?」


そう、ついさっき言っていた『超能力が使える薬』との関連性が、一向に繋がらないのだ。


「…ああ。そうね、そこの説明からだったわ。誠一君この間、能力者の話をしたわよね? 能力者の歴史、覚えてる?」

「確か、旧くから存在する人に近く人と混じりあった、人にあらざるモノだっけ?」

「そうね。混じりあった人…それって普通の人にとってどう見えると思う?」

「どうって、そりゃあ…」


今まで一般人のつもりで生きてきた誠一にとって、それは簡単に理解できる。

目の前の彩の代わりに、車に轢かれた自分。

その時、自分の身に起こった事に対しての感想それがすべてだろうと、誠一は思った通りに口に出した。


「化け物」と。


それに対して彩はそうねと返す。


「私もそう言われてたわ…」

「…なんか、色々とゴメン」

「いいわ、散々言われつづけた事よ。私みたいな精神感応系能力者は言葉にしなくても解る、当たり前の反応…、そんな顔しないで。…っと話続けていい?」


悲しそうな顔と空元気の声をあげる彩にそう言われては、誠一は何も言えなかった。

いずれにせよ能力者と自覚したての自分には何も言えない。

そう彼はいずれと思いつつ、彼女の話を聞くべく居住まいを正す。


「昔から能力者と呼ばれた人種は迫害されてきた。有名なところでヨーロッパの魔女狩りとか…ね。そんな能力者の現状から私達を救う為に、姉さんはそんな理想を持ったんじゃないかなと思う。その為にまず始めた事を考えると…」

「能力者に関係する知識って事か?」


コクンと彩が頷く。

彩の言う通りの人物であれば、考えられる話だった。

おそらく彩の姉は能力者の能力発動の成り立ちから、能力を封じ込める何かしらの手段を求めたのだろう。


「姉さんの理想、それと対極にある薬。私達、能力者からすれば解る『能力』に関係するであろう薬。私は逆に怪しいと思う」

「そう?」

「違うかもしれない。でも、何か引っ掛かる…私の能力者としての勘、確証なんかないけど調べたいの。だから、誠一くん…」

「何言ってるのさ。この間、協力するって言っただろ? 能力で心を読んでもいい」


二人は笑い合う。

一人は心配させない様に、もう一人は戸惑いながらぎこちなく笑う。

それからの二人の行動は速い。

やりたい事が解り目標が決まった二人が、まず始めたのが『超能力が使える薬』の出所を洗い出す事だった。

始まりは薬の真偽、そしてその薬がこの街にどのように浸透しているのか。

二人はこれもまた、桂二に話を聞いてみた方が早いと感じ聞いてみた。

しかし、桂二の返答は今までの彼からすれば意外なものだった。

『薬が存在するのは確かだが、浸透具合がよく解らない』との事。

今まで的確な情報を教えてくれた彼にしては、珍しいと誠一は思った。

その事が顔に出ていたのか、もしくはこのままでは自称『情報屋』の看板が傷付くと考えたのか解らないが桂二は何故情報が少ないのかを教えてくれた。


『蔓延しているだろう場所が、閉鎖された所なんだよ』


そう電話越しに語られた言葉は苦々しいものだった。

宗教団体『神の真理』。

最近、高見原で少しづつ信者を増やしてる新興宗教で、誠一も聞いた事がある少し胡散臭い宗教団体。

胡散臭いと言えばどんな宗教もそうなのだが、この宗教は掲げる教義がまた胡散臭い。

『神との対話こそが唯一の救い。神が見せる世界こそが絶対の真理』とうたう彼等の教義を、高見原駅前のロータリー広場で見たときは興味がない誠一でも辟易したものだった。

そんな宗教団体の中で薬が蔓延しているのかと誠一は考えていると、それを察したのか桂二が補足を加える。


『別に無秩序に蔓延している訳じゃないぜ。教団の連中が神に通じるためのイニシエーション(通過儀礼)の儀式に使っているって話だ。服用して超能力が使えるなら、奴らにとっては文字通り神の奇跡なんだろうさ。ただ、俺にもその薬の出所は解らない』


桂二に聞けた話はそこまでだった。

しかし、それはとても有意義な情報。

少なくとも『薬のある場所』と『薬の事を知っている人間がいる場所』が特定出来たのだ。

後は彩の能力『モーション・エモーション』の出番である。

能力者同士ならば相手の心を読むのに問題があるが、普通の人間は別で末端の教団員から情報を引き出せばいい。

そして今、誠一が後をつけているのが、彩が心を読んで手に入れた情報から割り出した教団内の人間と不自然な接触を行っている外部の人間。




「…………ここは?」


そしてついた先は意外な場所だった。


高見原商業地 海原区海神町高見原タワー


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