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変わる世界  作者: オピオイド
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副話 彼等の知らない場所で 中編

「あんた解ってるの? 私があの時どんだけ被害を被ったか?」

「だから、あの時も言った通り相手の勘違いだ」

「どこをどう間違ったら私が影の総裁になるのよ!? 普通に考えれば内容おかしいでしょ? あれからしばらく、友達を始めとして皆怯えて近寄って来なかったのよ、本当にありえないわよ!!」

「まあ、それは俺のミスかもしれん…が、俺に責任追及はお門違いだ。まさか、あんな中二病な設定を信じるとは思わなかったんだ」

「ちょっとまてー!! あんた噂を流布するためにどんな話を流したのよー!!」


銃の撃ち合いをしている傍らで、鼻先を突き合わせ今すぐにでも噛み付きそうな二人の言い合いは続く。

戦場の傍らにしては、話の内容は少々マヌケだが本人達はいたって真面目だ。

そんな二人を見ていた二組の瞳の持ち主が、同時に肩を落とす。


「……話を聞きに来ただけなのに、何でこうなるのかな〜?」

「少し放って置きましょう。あの御二方はいつもあんな感じですよ。それはともかく…失礼ですが日向さん。こちらの作戦場所はどのようにお知りに?」


この第三隊は思いの外、規律が厳しい。

とある企業の私設軍隊なのだが、その中の規律は本物の軍隊並に厳しい。

特に情報関係の規律はそれ以上に厳しく、情報漏洩の場合は状況にもよるがほとんど執行部により粛正されるという徹底ぶりだ。

そこまで厳しい隊の中で、この作戦場所を知られたのはフレイヤにとって不思議でしょうがなかった。

しかし、返って来た返答は意外なモノであった。


「えっと、本来ならば私が紫門さんに聞く予定だったんです。ところが紫門さん急に仕事が入ったらしくて、仕方がなく思惟さんを紹介してもらったんです」


その人物の名前をフレイヤは良く知っていた。

『七凪紫門』

風文の友人にして潜入工作を主とする第四隊、そこに属する世界でトップクラスの工作員だ。

しかし、それでも疑問は尽きない。

紫門であっても情報を漏らすはずもない、『情報の大切さ』そんな事は彼ならば知って当たり前のはずだ。


「では、紫門さんから?」

「んー違うかな。思惟さんが電話かけて簡単に教えて貰ってた」

「簡単っ? それは…?」


規律の厳しい第三隊において『簡単に教える』輩がいる、または情報を簡単に知る事が出来る存在がいる。

どちらにしても第三隊の纏め役の一人のフレイヤにとっては、とても頭の痛い事である。

あっけらかんと返す明日香にフレイヤは、焦燥に焼かれる気持ちを声に出さないように問い掛けた。

しかし、その返答はフレイヤの想像と違った名前を出した。


「…えっと、たしか天中さん…だったかな?」

「天中っまさか、名前は?」

「確か、観星って…」

「マスター!!」

「解ってる!! チッここでそれか!! 観星の奴、なんてタイミングだっ!!」


明日香が名前を告げた途端、フレイヤや風文が弾ける様に動き出した。


「ルーキーどもは掃射しながら撤退準備!! 何かあったら逐一報告しろ。フレイヤ特殊発令だ、結界班に周囲4Kmを封鎖する様に通達!!」

「了解。バックアップはどうしますか?」

「必要ない!! 待っていたら全滅だ。ここの戦力だけで片をつける。問題は取り逃がす事だ、急げ!!」


二人は互いの頭についているヘッドセットに、半ば怒鳴る様に指示を出し始める。

その様子を見た明日香はあきまでノンビリとした雰囲気を崩さず、腰を引きながら近くで溜息をついていた思惟に疑問を投げ掛けた。


「私何か変な事言ったんでしょうか?」

「変な事はいってないわ。問題は貴女が教えた名前」

「名前…ですか?」

「そうよ。話は少しそれるけど、この世界には神が現存しているって信じる?」


そう、この世界には神が現存している。

世界のあらゆる場所を見通し、あらゆる奇跡を行使できる神が。

その神は時間と空間、因果律すらも超越し操作出来る最高神。

しかし、その神は自分からは動かず世界の危機の時にしか動かない。

神という立場故だ。


「そんな存在がいるんですか?」

「…ええ、ごく一部の旧家と日本古来からの執行機関の『八方塞』ぐらいしか知らない事実よ」

「でも、何で今そんな……っ!?」

「気付いた? 貴女の言った名前がこの世界においての主神、天御中星(あまのみなかほし)よ」

「………………本当?」

「本気」


ええ〜と、あくまでもノンビリとした姿勢で慌て始める明日香に思惟は事態の深刻さがやっと伝わったかと溜め息吐く。

問題なのは時間や空間、因果律を超越し操作出来ると言う事。

それと主神の持つ『危機の時にしか動かない』と言う二点。

裏を返せば、今までは起こる事態が偶然から起きる不確定な未来だった。

しかし、今の話から確定された世界の危機が関与する未来へと変わったのだ。

主神が動くと言う事は、大なり小なりと何かしらの世界の危機があると言う事。

しかも、その渦中の場所は此処だとくればどんなノンビリ屋でも慌てる。




その時だった。




「…………っ!!」

「風文じゃないけどよりにもよってよね」


強烈な悪寒が思惟と明日香の背に同時に走った。

能力者の持つ超感覚に引っ掛かった怖気に、二人はその方向へと振り向く。


「明日香………」

「………解ってます、励起法最大深度………」


二人の視線は先程まで戦闘が行われていたコンテナの一角に目を向けていた。


「ひっったっ助けて」

「ギャァァァ!!」


暗く闇に包まれたコンテナの中からは、助けを呼ぶ声や断末魔の様な悲鳴が続けて聞こえる。

何かをすり潰す音、咀嚼する音…………そして、闇からそれは現れた。

黒いスラックスをはいた人の足……そこまでは普通だった。

闇から現れるにつれて全身がハッキリとしてくる。

中から膨らんで破れたボロボロのシャツ、もはや最初の色すらも解らなくなっている程に血まみれになっていた。

問題はここから、破れたシャツの合間から見えるのは人ではありえない獣の様な黒い体毛。

そして顔が現れる。


「………なにあれ」


その言葉を呟いたのは一体だれだろう。

コンテナの闇から現れた顔は人の顔ではなかった。

黒く獰猛な狼の顔。


「ルーキーは今すぐ撤退しろ!! 第二種暴走体『フェンリル』だ!!」


風文の怒声だけがやけに鳴り響いた。


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