副話 彼等の知らない場所で 前編
この話は、『変わる世界』『いつもの日々に戻るまで』の裏話のような物です。
本編とはあまり関係ないので読んでも読まれなくても同じように楽しめますが、世界観が良く解るのでより楽しむには読まれてください。
では、どうぞ~
福岡県某所 コンテナ置場
潮混じりの波風が吹く、港に近い深夜のコンテナ置場。
普段ならば強く吹く海風が起こす風の音や搬入用の機材の音、遠くから響く船の汽笛の音が聞こえてくる暗く静かな場所のはずだ。
しかし、今この時は違った。
鳴り響くのは雷鳴のごとき銃声と、銃口から吐き出されるマズルフラッシュで周囲は照らされる。
積み上げられたコンテナの一つが開かれ、数人の男達が黒光りする銃を乱射しながら立て篭もる。
それを囲むように立ちはだかるのは、統一された黒い戦闘服と頭をスッポリ覆い隠すヘルメットを被った集団だった。
「2から4までは二人一組で当たれ、呪紋儀式で処理した盾は普通の銃弾は通さん安心しろ。訓練通りにやればいい、等間隔で押し潰せ。注意するのは中の物資を崩さん事だ」
飛び交う銃弾、次々と倒れ伏す人間を眺めながらコンテナに背を預け指示をだしているのは、金髪に碧い目をした青年いわずと知れた三剣風文。
彼等は裏の世界で『風天』『暴風』の名で馳せる三剣風文と、その彼が率いる『第三隊』の見習い隊員であった。
『第三隊』
だれがそう呼ぶようになったかは知らないが、裏の世界でその名は恐怖の対象だ。
統率された無駄のない集団戦と、疾風迅雷の如き戦闘時間の短さが売りの第三隊。
だが恐怖の対象になるのは別の理由からだ。
それは作戦成功率九割超の高さ、主に標的になる裏の世界の人間にとっては恐ろしい事この上ない。
しかし、この場にいるのは見習い。
「吉岡、前に出過ぎだ。根古谷みたいに慎重になりすぎるのも問題だが突っ走るな。飯島…少しポイントがずれ込むな、本隊に戻ったら再訓練だ…いいな?」
溜め息混じりで指示を飛ばすと風文は、戦場から目を離さないように思考に埋没する。
今回の彼等の目的は『とあるターゲット』の包囲殲滅を兼ね、実戦経験を積む事だった。
しかしながらと風文は最近の新人の集中力のなさとアクの強さに辟易する。
指示した通りに動かないので隊列が乱れる、集中力がないから精確さに欠ける。
指示通りに動けないならば仲間の誰かが死ぬ、集中力が欠ければ作戦成功率が下がりこれまた死人がでる。
事態は少々問題で、隊の指揮にも関わってくる。
こりゃ教導隊の方から再訓練しなきゃならんか、と風文が思考を締めたその時だった。
「何だ?」
コンテナが形作る通路の闇から、同じ装備で今戦っている戦闘員とは纏う雰囲気が違う人影が染み出る様に現れた。
「封鎖している場所に侵入者です」
「排除しろ」
簡潔な報告に風文は簡潔に命令を下す。
しかし報告に来た人影は、どうすれば良いかと少し戸惑いがち話を続ける。
「いえ、それが………時枝さんと日向さんでして」
「…何?」
思いもよらぬ人物の名前があがり、風文の声のトーンが少し上がった。
途端、声に続ける様に闇の奥から喧騒が近付いてくる。
「思惟さん、今は作戦行動中です。お話は後で伺いますので!!」
「あんたの主と一緒でこっちも色々と忙しいのよ。会える時に会わないと次は何処で捕まえれるか解らない、解る? 理解したら、どきなさいフレイヤ」
「しっ思惟さん!? 確かに私は直接会って言いたい事があるって言いましたけど、そーいう事ではなくて!? アアア、ごめんなさいフレイヤさん」
風文が喧騒に目を向けると、身体の小さな作務衣姿の侵入者を抑える長身の金髪女性と、それを慌てながら見ているスーツ姿の女性。
何と言っていいか解らないカオスな光景に、風文は戦闘の事を一瞬忘れ声をかける。
「………何してるんだ?」
「隊長!! すいません、止めたのですが思惟さんが聞いてもらえず……」
「風文!? ようやく見付けたわよ、覚悟しなさい!!」
「ああっ、仕事中にすみませんっっっ」
「良いから。おまえ等、落ち着け」
思い思い自分勝手に喋る三人に、風文はコメカミを押さえながら制止をかける。
「……聞きたいんだが、何しに来た?」
「えっと、それは……」
「最近の高見原についてあんたに聞きたい事があったからよ!!」
スーツ姿の女性『日向 明日香』の言葉を遮るように、作務衣姿の『時枝 思惟』が前にでて吠える。
明日香はそれを怒るでもなく肯定するように、思惟の後ろでウンウンと頷いた。
「高見原について……なんの事だ?」
「惚けるな風文。昔っから、あんたが何も知らない顔をしてる時は大概たくらんでいる……さっさと言った方が身のためよ」
「失礼な、誰がいつ企んだって?」
「高校の時の『影の生徒会事件』や『学生シンジケート壊滅事件』を始めとした数々の事件を忘れたとは言わせないわよ?」
「何の事やら?」
唐突に始まる二人の言い合い。
話の内容から、二人は学生時代からの知り合いらしい。
言い合いながらもお互いに気負いや遠慮もない親しい話し方から、二人の関係は古くからの友人の関係なのだろうと推測できる。
そんな愉しむように言い合いをする二人を、フレイヤと明日香は呆れ返る様に見ていた。
「…フレイヤさん、あの二人って」
「以前聞いた話によれば中高とわたっての同級生らしいです。隊長は腐れ縁だと言っていましたが、私はそうは思いません」
「そうね」
フフフと笑い会う二人。
もう一組の二人とは温度差を感じる。