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変わる世界  作者: オピオイド
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副話 八年前の高見原

この話は『変わる世界』における外伝の話になりますが、本編と深く関わるので『副話』とさせてもらいます。

高見原某所 深夜2時20分





そこは紅で埋め尽くされていた。





ひび割れた壁、水蒸気を吹き出す壁を伝う数多のパイプ。

それらを轟々と燃え上がる炎が舐める様に揺れ動いていた。

天井にも這った様に張り巡らせたパイプは崩れ落ち、照明は割れてスパークをあげている。

床は血でまみれ、多くの死体が転がっていた。

まさに地獄絵図と言った様相の場所に二人の男女が立っていた。

一人は長い黒髪の女性、美人の部類に入るだろう目元が少し釣り目がちな所が特徴的の白衣の女性。

女性は頭から血を流しながら、一人の女の子を抱えていた。

もう一人は長身の男性。

180cm近くの背の高さで全身を白銀のレインコートで身を包み、顔をフードで覆い隠している。

二人は炎の中で相対していた。

女性は炎の中、揺らぐ空気越しに白銀のレインコートのフードの中にある眼を見詰めて口を開く。


「ごめんなさい。私、あなたに辛い選択をさせる」


女性は涙を堪えるように、顔を歪める。


「でも、それでも私は!!」

「もういい、それ以上言うな。解りきっていた事だ、解っていて君はその道を選んだんだ」


レインコートを着た男は頭を振り、良く通る低い声で呟くように言う。


「君は君の道を選んだ様に、私は私の宿命通りに動くだけだ…」

「……」


その言葉を受け、女性は悲しそうに目を閉じた。



パキ



「しかし、それと私達の関係は無関係だ。そうだろう、奈緒美さん?」


男はそこまで言うと顔にまでかかったフードを取り去る。

あらわれたのは、無精髭を生やし鷹の様な鋭い目をした青年だった。


「…葵、あなたは、それでイイの?」


パキ


「それでもだ。これでも現状は理解している。君の残された時間がない事も、助けたい人間を私に託そうとしている事も」


パキパキ


「知っテイるのね?」


そう言いながら奈緒美と呼ばれた女は、血に塗れた頬に手を当てた。

そこには人の肌にはあるまじき亀裂の様な皹があり、乾いて剥がれ落ちているかの様な肌の下からは爬虫類の鱗が覗かせていた。

それは彼女の頬のみであらず、顎から首筋にかけてや少女を抱える腕にも見えた。


「その姿をみれば、口伝を伝えてきた旧家の者ならば検討がつく。それに…『俺』は知っている。君も知っているはずだ」

「そう、そうだったワネ。霧島の人間以前に貴方ハソう言う存在ダッタわね」


奈緒美は変わりつつある声帯のせいか、発音が段々おかしくなっていた。

その声はやはり爬虫類が鳴らす喉の音の様に掠れつつある。

それを感じ取り、葵と呼ばれた男は口許を軽く歪めた。


「時間がないな」

「ええ、今私の『能力』はアレのせいで反転して別物になっチャッてるから解析デキないケレド、おソラくは後10分も経たずにワタシは…」

「…話の流れを切って、すまないが葵、時間だ」


その時だった。

二人の会話を切るように、第三者の声がかかる。


「アナタはナナギさん?生きてイタのですカ?」

「ああ、お久しぶりだ『折紙 奈緒美』。以前、世話になった君に、この事態で会えたのは何とも不思議なものだ」


声の出所は二人の中間、そこには炎の揺らめきとは別の『空間の揺らぎ』とも言える様なものからだった。

その揺らぎの中から、水面から浮かび上がるように一人の男が現れる。

空間の揺らぎから現れた男も、葵と同じくウィンドブレイカーのフードで顔を隠していた。

唯一違うのは露出している筈の顔の下半分が、白い仮面で覆い隠されている。


「妹の件で君には感謝している」

「イイエ私は何もデキナカッタ。ダカラ、ワタシはアナタに…」

「…いいさ、今さらだ。あの時、君の口添えがなければ妹も…」

「サナガラ今のワタシは因果応報表わシテいるデスね」


自嘲気味に笑う奈緒美に葵は顔をしかめ、ナナギと呼ばれた男は肩を落とす。


「何でもかんでも背負うな奈緒美、これは最早お前だけの問題ではない」

「そうだ、七凪の言い分に私も賛同する。確かに君の行った事は褒められたものではない。だけど、君の行動で助かった者も居る。それを忘れないでくれ」


二人の言葉を受けて奈緒美は変質する頭を必死に奮い立たせ、アリガトウと呟く。

彼女は少し、ほんの少しだけ救われた。

そんな気になったのは一瞬。

彼女の身体は限界を迎える。

ユックリと、ほんのユックリとだが皮膚の下が胎動し始めたのだ。


「奈緒美さん!!」

「ワタ、ワタはワタシはイイ。それよりもコノコを…」


奈緒美の身体や、顔が崩れはじめる。

足はユックリと沈み込むように曲がり、顔が潰れていく。

そんな状態で骨が抜けたような腕を使い彼女は、抱えていた少女を前に出した。


「…七凪、頼む」


それを見た葵は視線だけを動かし傍らに立つ七凪に、少女を安全な場所に連れていく事を頼む。


「お前達は友達何だろう? 私がやらなくてもいいのか?」

「七凪…いらぬ気遣いだ、気持ちだけ貰っておく」

「そうか。ならば霧島、私からも頼むよ彼女を」


奈緒美から少女を受け取った七凪は、返す足で葵に聞いた。

しかし、その答えは決意に満ちた答え。

答えを返した葵を理解したのか、七凪は似たように応え少女を抱えたまま来た時と同じように空間の揺らぎに消えていく。

それを見届けると葵は再びフードを深く被る。


「奈緒美さん…覚悟はいいですか?」


そう言うと葵は、レインコートの腰元に手を入れて抜いた。

右手に持たれていたのは、二尺五寸の反りを持つ鉄の塊。


「グッグガガガガッ」


突如として叫びはじめる奈緒美、それに動揺も見せずに対峙する葵。


「まだ理性がある内に、あなたが人である内に」


奈緒美の身体が急激に崩れはじめる。

手足は鱗を持つ軟体動物の様な姿になり、身体の至る所からは白衣を突き破りピンク色の触手が周囲の死体を喰いはじめる。

顔の皮膚は鱗にまみれ、死体を吸収している為か俯き加減の身体が徐々に膨張を始めていた。


彼女の全てが化け物へと変わっていく。


そんな中、一つだけ変わらぬ物があった。

彼女の理性の光が残る瞳だけ。


「だから、あなたを斬るよ。…行くよ、奈緒美さん」


膨張を続け巨大になっていく奈緒美の瞳を見詰めて葵は呟く。


「霧島神道流、霧島葵。参る」


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